3.それぞれの理由があって。






「断る」

「…………! 男の人って、いつもそうですよね! アタシのこと――」

「――いや、なんとも思ってないから断ってるんだけど?」




 ボクが真顔で答えると、知紘はなにやらボケた様子。

 しかしこちらがすぐに指摘すると、ちょっとだけ傷ついたような表情を浮かべるのだった。そして、少し気まずそうにしながらこう訊いてくる。



「……いちお、理由を教えてもらっていいかな?」

「うん。そもそも、互いのことを全然知らないからね」

「うーん……。これから、少しずつ知っていく、ってのは?」

「ナシの方向で。付き合うのとそれとでは、順番が逆だと思うよ」

「が、ガードが堅いよ。たっくん……!?」



 その上でいくつか意見交換をして、彼女はがっくりとうな垂れた。



「そっかぁ……アタシ、初恋だったんだけどなぁ……」

「へぇ、そうなのか」

「そうだよー」



 元気いっぱいで友達も多そうな天野知紘。

 だからてっきり、そういった関係も多く経験しているものと思っていた。要するに陽キャに対する偏見、のようなものでもあるけど。

 こちらが首を傾げていると、彼女は少しだけ自嘲気味笑って言った。



「たはは……。アタシってさ、テンション高いじゃん? それでよく話してる相手に引かれるっていうか、置いてけぼりにしちゃう、っていうか……?」



 ――だから、実はあまり友達いないんだよねぇ。


 笑顔で話しているが、どことなくぎこちない。

 なるほど、彼女もまた陰キャの類なのか、と思った。

 人との距離感が掴めないが故に、いざ他人と話すとなったらマシンガントークを繰り広げてしまう。たまに見かけるコミュ障のタイプだった。



「なるほど、ね」

「いやー、ね? だから今日も、テンション高まって告白までしちゃった!」

「とりあえず深呼吸して、落ち着こうか」

「う、うん……」



 また口調が速くなる知紘に、ボクはそう声をかける。

 素直な性格なようで、言われた通りにゆっくりと呼吸を繰り返していた。そうすると、ある程度は気持ちも落ち着いたのか、苦笑しながら彼女は言う。



「ごめんね? 困らせちゃった、かな」

「いや、困る以前の話というか。想定外だったな、って感じだけど」

「あー……なるほど。たっくん、意外に優しいね?」

「そう、なのか?」

「優しいよー」



 アイスを食べ終わり、知紘は立ち上がった。

 そしてこちらを振り返って、どこか緊張しながら言うのだ。



「だから、さ! もしよかったら、友達になってくれない?」――と。



 愛らしい、守りたくなるような笑顔で。

 それを受けてボクは、それなら、と思ってこう答えるのだった。



「いいよ。友達くらいだったら、いくらでも」




 なにやら、遠回りをしたけれど。

 今日の思わぬ戦果は、新しい友達ということになったのだった。








 そんな騒がしい少女と別れて、ボクはしばしアイス店のベンチに腰かけていた。

 すると、日もずいぶん傾いた頃に偶然――。



「あ……」

「杉本くん……?」



 ずっと前に帰ってしまったのだと、そう思っていたエヴィが通りかかった。

 互いに首を傾げながらも、自然と言葉を交わす。



「あれ、知紘ちゃんは?」

「ん、先に帰ったけど」

「そっか……」



 ……なんだろう。

 少しだけ、気まずいというか。

 あの状況をどう説明しようかと、考えていた時だった。



「私ね、今日……告白されたの」

「ふぇ!?」



 思わぬ角度から、会話を切り出されたのは。

 ボクはついつい素っ頓狂な声を上げ、エヴィの顔を凝視した。すると彼女は、気恥ずかしそうに笑いながら言うのだ。



「でも、断っちゃった」

「そ、そうなのかー」



 安堵というか、なんというか。

 そういった感情が胸に渦巻くのを表情に出さないよう、細心の注意を払った。咳払いをしつつ、ボクはエヴィに訊ねる。



「でも、どうして?」

「んー……」



 すると彼女はしばし考えて、どこか先ほど見たような苦笑を浮かべて答えた。



「いまはまだ、自信がないから。……秘密」――と。



 その言葉の意味は、分からない。

 だけど、とりあえず自分には関係ないものだろう。



「……そっか」



 そう思いながら立ち上がり。

 ボクとエヴィは、自然と肩を並べて歩き出したのだった。



 



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