4.変わり始めた一日の終わりに。







「そういえば、どうして杉本くんは急に髪を切ったの?」

「え? あー……」



 もうすぐでエヴィの家に到着しようとしていた時。

 ふと、彼女はボクの変化について訊ねてきた。あえて説明する気はなかったし、説明するとなったら気恥ずかしい。少しだけ考えて、しかし観念して答えた。



「少しでも、その……友達として、エヴィに近付きたくて」

「え……私に?」

「うん……」



 もっと正確にいえば、別の言葉になる。

 ボクはなるべく彼女の傍にいたいと、そう思ったのだ。彼女の心に寄り添って、友達として少しでも良いから力になりたい、と。

 迷惑かもしれないから、そのあたりのことは伝えなくても良いだろう。

 なので、曖昧にボカシてそう答えたのだ。すると、



「え、えへへ……そう、なんだ」



 どこか照れたように、エヴィは笑う。

 彼女の顔が赤いのは夕日に照らされているから、だろうか。それとも、いまの台詞がキザで子供っぽいと思われてしまったのか。

 いずれにせよ、その反応を受けるとこっちまで顔が赤くなった。

 何を言っているんだろう。そう思っていると、



「…………ありがとう」

「え……?」



 彼女は、ホントに小さな声で確かに感謝を口にした。

 ボクが驚いてその顔を見ると、そっぽを向かれてしまう。



「え、どうして?」

「なんでもなーい! なんでもないもん……!」

「えー……?」



 理由を訊ねても、エヴィははぐらかす。

 こっちを見てくれないので、もしかしたら怒らせたか? いや、でも。さっきはたしかに、ありがとう、と言っていたし……。



「わかんない……」



 ボクはいよいよ思考を放棄した。

 ひとまず、嫌われているわけではなさそうなので、良しとしよう。

 そう考えて彼女を家まで送り届け、その日はそこで散会となったのだった。






 ――一方その頃。



「ふえぇ……あにきぃ!」



 知紘は帰宅し、同じ青葉高校に通う兄の部屋へ向かった。

 そして、半べそをかきつつドアをノックする。しかし、反応はなかった。



「うぅ~……! 妹が泣いてるのに、居留守するなぁ!!」



 それでも、知紘は止まらない。

 彼女は鍵のかかっていないドアを押し開けると、中に踏み入った。すると、



「うう、ぐず……ひっぐ……」

「えぇ……?」



 そこには、エヴィに告白をした男子生徒――八紘やひろの、号泣する姿があった。事態が呑み込めずに、知紘は兄の傍まで移動。

 その背中をさすりながら、事情を聴こうと試みた。

 しかし、兄がうわ言のように繰り返すのは、この言葉だけ。




「俺にぃ! 俺にもし、ドイツ語を話せるだけの知能があればぁ!!」




 妹は首を傾げて、困惑した。

 彼女がその言葉の意味を察するのは、まだまだ先の話である。




 

――――


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