4.変わり始めた一日の終わりに。
「そういえば、どうして杉本くんは急に髪を切ったの?」
「え? あー……」
もうすぐでエヴィの家に到着しようとしていた時。
ふと、彼女はボクの変化について訊ねてきた。あえて説明する気はなかったし、説明するとなったら気恥ずかしい。少しだけ考えて、しかし観念して答えた。
「少しでも、その……友達として、エヴィに近付きたくて」
「え……私に?」
「うん……」
もっと正確にいえば、別の言葉になる。
ボクはなるべく彼女の傍にいたいと、そう思ったのだ。彼女の心に寄り添って、友達として少しでも良いから力になりたい、と。
迷惑かもしれないから、そのあたりのことは伝えなくても良いだろう。
なので、曖昧にボカシてそう答えたのだ。すると、
「え、えへへ……そう、なんだ」
どこか照れたように、エヴィは笑う。
彼女の顔が赤いのは夕日に照らされているから、だろうか。それとも、いまの台詞がキザで子供っぽいと思われてしまったのか。
いずれにせよ、その反応を受けるとこっちまで顔が赤くなった。
何を言っているんだろう。そう思っていると、
「…………ありがとう」
「え……?」
彼女は、ホントに小さな声で確かに感謝を口にした。
ボクが驚いてその顔を見ると、そっぽを向かれてしまう。
「え、どうして?」
「なんでもなーい! なんでもないもん……!」
「えー……?」
理由を訊ねても、エヴィははぐらかす。
こっちを見てくれないので、もしかしたら怒らせたか? いや、でも。さっきはたしかに、ありがとう、と言っていたし……。
「わかんない……」
ボクはいよいよ思考を放棄した。
ひとまず、嫌われているわけではなさそうなので、良しとしよう。
そう考えて彼女を家まで送り届け、その日はそこで散会となったのだった。
◆
――一方その頃。
「ふえぇ……あにきぃ!」
知紘は帰宅し、同じ青葉高校に通う兄の部屋へ向かった。
そして、半べそをかきつつドアをノックする。しかし、反応はなかった。
「うぅ~……! 妹が泣いてるのに、居留守するなぁ!!」
それでも、知紘は止まらない。
彼女は鍵のかかっていないドアを押し開けると、中に踏み入った。すると、
「うう、ぐず……ひっぐ……」
「えぇ……?」
そこには、エヴィに告白をした男子生徒――
その背中をさすりながら、事情を聴こうと試みた。
しかし、兄がうわ言のように繰り返すのは、この言葉だけ。
「俺にぃ! 俺にもし、ドイツ語を話せるだけの知能があればぁ!!」
妹は首を傾げて、困惑した。
彼女がその言葉の意味を察するのは、まだまだ先の話である。
――――
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