10.次は、自分の番だから。
――結果として、ミスコンは大盛況で幕を下ろした。
優勝したのは誰かなんて、語る必要もないだろう。エヴィはあの宣言以降、終始笑顔でみんなに手を振っていた。その姿に採点なんて付けられない。
ボクは後片付けの終わった教室で一人、ボンヤリと外を眺めていた。
「…………まだ、かな」
待っているのは当然、彼女だ。
あんな大勢の前で大胆な告白されてしまったのだから、逃げるなんてできない。もっとも、元より逃げる気なんてなかった。ただ少し、先を越されたと思ってしまう。
エヴィはまだ、ミスコンの関係で体育館に残っていた。
それにしても遅いのは、やはりあの宣言があったからだろうか。
「やあ、杉本……?」
「……斉藤、か」
「おやおや? ずいぶんと嫌われているようだね」
「自分のやったことを考えろよ。仲良くなんてできない」
そう考えていると、エヴィより先に来客があった。
どこか芝居がかった口調で声をかけてきたのは、斉藤だ。彼はボクを見ると、口角を吊り上げて不気味に笑う。
そして、こう言うのだった。
「少し、二人きりで話をしようじゃないか」
それが罠だというのは、すぐに理解できた。
だけどボクは、無言のまま頷く。
エヴィは逃げなかった。
だったら、ここでボクが逃げるわけにはいかない。
「それじゃ、行こうか……」
斉藤はそう言うと、教室を出て行った。
そしてボクが、その後を追いかけようとした時である。
「え……杉本くん?」
「あ、エヴィ……」
ちょうど反対側のドアから、彼女が姿を現わしたのは。
エヴィはきっと、斉藤がここを出て行く様子を見ていただろう。だから、ボクが彼を追いかけようとしていた理由も、分かるはずだった。
すると当然、彼女は――。
「行っちゃだめです! 行ったら、きっと……!」
ボクのことを止める。
行けばあるいは、ケガで済まないかもしれなかった。
そんな状況なのだから、普通に考えれば止めるのが当たり前。でも――。
「大丈夫だよ、エヴィ」
「え……?」
ボクは彼女に歩み寄り、その頭にポンと手を置いた。
そして、笑うのだ。
「今度はボクの番なんだ。しっかりと、弱虫な自分とサヨナラしてくる」
「杉本くん……」
少しだけ呆けて、しかしエヴィはすぐに教室を出て行った。
おそらくは教員を呼びに行ったのだろう。そうなると、なおさら時間が無くなってしまった。早く斉藤のいるあの場所へ向かって、決着をつけよう。
そう考えてボクは、やや早足に移動を始めたのだった。
◆
「おや、意外そうな顔をしているね」
「そうだな。もっと、多いかと思ってた」
ボクが校舎裏へと向かうと、そこには斉藤を入れて4人の男子がいた。
全員が運動部に所属しているのだろう。体格では、ほぼ完全にボクが負けてしまっていた。それでも、不思議と気持ちは落ち着いている。
だって、こんな壁はエヴィの越えたものに比べたら小さいのだから。
「早く始めよう。そうしないと、先生たちがくる」
「あぁ、そうだね。行くぞ、お前ら――」
ボクが構えると、斉藤が声を張り上げた。
「このクソ生意気な陰キャを潰せぇ!!」
それが合図となって、相手4人はボクを取り囲む。
斉藤だけは少し離れた位置から、どこか楽しむようにこちらを見ていた。余裕の笑みを浮かべて、負けるはずがないと思っている。
そんな彼を見てボクは――。
「あまり、舐めてもらったら困るよ」
一つ、そう呟くのだった。
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