10.次は、自分の番だから。










 ――結果として、ミスコンは大盛況で幕を下ろした。

 優勝したのは誰かなんて、語る必要もないだろう。エヴィはあの宣言以降、終始笑顔でみんなに手を振っていた。その姿に採点なんて付けられない。

 ボクは後片付けの終わった教室で一人、ボンヤリと外を眺めていた。



「…………まだ、かな」



 待っているのは当然、彼女だ。

 あんな大勢の前で大胆な告白されてしまったのだから、逃げるなんてできない。もっとも、元より逃げる気なんてなかった。ただ少し、先を越されたと思ってしまう。

 エヴィはまだ、ミスコンの関係で体育館に残っていた。

 それにしても遅いのは、やはりあの宣言があったからだろうか。



「やあ、杉本……?」

「……斉藤、か」

「おやおや? ずいぶんと嫌われているようだね」

「自分のやったことを考えろよ。仲良くなんてできない」



 そう考えていると、エヴィより先に来客があった。

 どこか芝居がかった口調で声をかけてきたのは、斉藤だ。彼はボクを見ると、口角を吊り上げて不気味に笑う。

 そして、こう言うのだった。



「少し、二人きりで話をしようじゃないか」



 それが罠だというのは、すぐに理解できた。

 だけどボクは、無言のまま頷く。


 エヴィは逃げなかった。

 だったら、ここでボクが逃げるわけにはいかない。



「それじゃ、行こうか……」



 斉藤はそう言うと、教室を出て行った。

 そしてボクが、その後を追いかけようとした時である。




「え……杉本くん?」

「あ、エヴィ……」




 ちょうど反対側のドアから、彼女が姿を現わしたのは。

 エヴィはきっと、斉藤がここを出て行く様子を見ていただろう。だから、ボクが彼を追いかけようとしていた理由も、分かるはずだった。

 すると当然、彼女は――。



「行っちゃだめです! 行ったら、きっと……!」



 ボクのことを止める。

 行けばあるいは、ケガで済まないかもしれなかった。

 そんな状況なのだから、普通に考えれば止めるのが当たり前。でも――。



「大丈夫だよ、エヴィ」

「え……?」



 ボクは彼女に歩み寄り、その頭にポンと手を置いた。

 そして、笑うのだ。



「今度はボクの番なんだ。しっかりと、弱虫な自分とサヨナラしてくる」

「杉本くん……」



 少しだけ呆けて、しかしエヴィはすぐに教室を出て行った。

 おそらくは教員を呼びに行ったのだろう。そうなると、なおさら時間が無くなってしまった。早く斉藤のいるあの場所へ向かって、決着をつけよう。

 そう考えてボクは、やや早足に移動を始めたのだった。









「おや、意外そうな顔をしているね」

「そうだな。もっと、多いかと思ってた」



 ボクが校舎裏へと向かうと、そこには斉藤を入れて4人の男子がいた。

 全員が運動部に所属しているのだろう。体格では、ほぼ完全にボクが負けてしまっていた。それでも、不思議と気持ちは落ち着いている。

 だって、こんな壁はエヴィの越えたものに比べたら小さいのだから。



「早く始めよう。そうしないと、先生たちがくる」

「あぁ、そうだね。行くぞ、お前ら――」



 ボクが構えると、斉藤が声を張り上げた。





「このクソ生意気な陰キャを潰せぇ!!」





 それが合図となって、相手4人はボクを取り囲む。

 斉藤だけは少し離れた位置から、どこか楽しむようにこちらを見ていた。余裕の笑みを浮かべて、負けるはずがないと思っている。

 そんな彼を見てボクは――。



「あまり、舐めてもらったら困るよ」






 一つ、そう呟くのだった。






 



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