第24話:信康

やっと堺に帰ってこれた。思えば、あの事件がなければ、もっと早くに帰れたはずなのに・・・・


「おい内蔵助、すぐにお前の屋敷へ行くぞ、幸松とお香に会いにな!」


「分かっておりますよ、そう急かさないでください。」


俺と宗久は新名屋に到着した。傭兵と忍びを解散させ、新名屋へ入った


「帰ったぞ!」


俺が声をかけると、楓や奉公人たちが足早に駆け付けた


「「「「「お帰りなさいませ。」」」」」


「楓、元気そうだな。」


「父上もご一緒だったのですか。」


「ああ、舅殿と一緒に帰って来たんだ、ところで幸松よお香はどうした?」


「幸松とお香は今、お昼寝の最中です。」


「そうか、なら仕方がないな。そうだ、お前たちに安土から買ったお土産だ。」


「「「「「ありがとうございます!」」」」」


「楓、お前には櫛だ。緑檀という香木で作ったらしいから、良き香りがするぞ。」


「ありがとうございます、旦那様。」


俺は緑檀の櫛を楓に渡した。奉公人たちにも土産を渡した後、俺は自分の部屋へ入り、休息に入った。宗久はこっそりと幸松とお香の寝顔を見に行ったようだ


「はあ~、とりあえず我が家に帰れた。」


こうして無事に帰ってこれたんだ。もう息子たちの事を忘れよう、斎藤・稲葉両家も形が違えど存続することがきたんだ、そう思いつつ、俺は幸松とお香の顔を見に行くのであった


その夜、俺は楓を抱き、年甲斐もなくハッスルした。それから数週間後に楓は妊娠し、幸松とお香に兄弟ができたのは言うまでもなかった。その後、1580年に楓は無事に女の子を出産し、名前をお燐と名付けたのである



1580年、石山本願寺が降伏した。朝廷の仲介で顕如・教如親子の命を助けるかわりに、石山本願寺を明け渡すことで決着が着いた。勅命とあれば、抗戦派の教如も、受け入れざるをえなかった。顕如は駕籠に乗る前に、石山本願寺の姿を目に焼き付け、駕籠に乗った。玄関門が出た途端、織田信長が待ち構えており、駕籠を止め、二人は対面した。信長と顕如が何も言葉を発せず、互いに見つめ合い、顕如が駕籠の戸を閉め、そのまま去っていたのである。その後、顕如は各地を転々としながら、最期は京の七条堀川の地にて49年の生涯を閉じたのである


「本願寺は顕如には勿体無い場所だな、よし決めた。ここに城を建てる。」


信長はこの石山に新たな城を建てることを決意した。石山本願寺は徹底的に破壊され、跡形もなく無くなった。信長は石山を「大坂」と改名した


信長は石山合戦が始まる前から、石山に目をつけており、近くには堺があり、大陸や南蛮との交易が盛んなため、信長は本願寺に明け渡すよう、申しつけたが、何度もはねつけられ、最終的には敵対関係となった。だが、顕如は本願寺を去り、石山はワシの物となった。石山、いや「大坂」を日本の中心にしようと画策していた


安土は主に上杉謙信の上洛を阻止するためとも、京との利便性の面もあったが、上杉謙信はこの世になく、大坂を日本の中心にしようと決めていたので、安土に拘る必要が無くなった。安土城は跡継ぎの信忠に譲ろうとが考えてもいた


「さて、そろそろ総仕上げだ。」


信長は北陸に柴田勝家、四国に織田信孝と丹羽長秀、中国に羽柴秀吉へ派遣しており、武田の抑えは盟友の徳川家康に任せているが、もはや武田は今のうちに潰しておくか


「家康で思い出したが、あやつは迷わずに処断できたな。」


家康の息子である松平信康は1579年に切腹した。きっかけは家康の正室である築山御前が武田勝頼と内通していると娘の徳姫が知らせてきた。ワシは最初は不仲の姑の悪口かと思ったが、今度は家康の使者である酒井忠次がやって来て、信康の不行状を訴えてきた。酒井いわく信康は武芸に優れ、勇猛果敢だが、乱暴な一面があり、家臣の折り合いが良くないと言ってきた。ワシは最初、今川義元の姪である築山御前と、その血を引く信康を煙たがる三河衆の讒言かと思って、聞き流していたが、決定打となったのは何と、家康からの書状だった。内容は信康を処断したいので、許可が欲しいと・・・・


「あやつ、実の息子が可愛くないのか・・・・」


家康は更に、世継ぎは三男の長松(後の徳川秀忠)を世継ぎにすることにしたという。長松の母は三河の豪族出身で、三河衆にとって同じ三河の血を引く長松を跡目にしたいという魂胆だろうが・・・・


「徳川家中の事に首を突っ込めんしな。」


信長は身内に甘く、人質だが兄弟のように育った家康を無視するわけにもいかず、徳姫もいつまでも三河に置いていくわけにもいかず、ワシは家康の好きなようにさせた、事実上、信康を見捨てたことになる。結果として、妻の築山御前は暗殺、息子の信康を切腹させた家康、ワシはあやつの冷酷さに心底、震えたわ


「それに比べて、利三は我が子に刃を向けられたにも関わらず、助命したというのに・・・・」


利三は我が子に命を狙われながらも、ワシの下へ訪れ、2人の助命を嘆願した。一鉄から命乞いされて動いたところもあるが、ワシも人の親、利三の願いを聞き入れた。結果として斎藤・稲葉両家を乗っ取る事に成功したが。肉親への情の薄い家康よりも、ワシは縁が切れても肉親を助ける利三に好意を寄せた


「そんなことよりも、まずは武田だ、準備が整い次第、攻めるぞ。」


信長は、堺でライフリング式のフランキ砲・投石器・焙烙火矢・火打石式の鉄砲・火薬等を注文し、次の武田討伐に備えるのであった




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