第8話:祝言

新名内蔵助、俺は今、自分の屋敷で祝言が行われている。相手は今井宗久の娘の楓、俺にとっては人生で3度目の結婚だ


「娘の事をよろしく頼んだぞ。」


「はい、旦那様。」


「おいおい、もうお前はうちの奉公人じゃないだろう(笑)」


「申し訳ありません、つい癖で・・・・」


「ふふ、まあいい、内蔵助、お前と再び縁を結べてよかった。」


「それは兼久様に言ってあげてください。今井家と新名家を結び付けたんですから。」


「はは、そうだな、兼久、良くやった。」


「こそばゆいな、親父殿から褒められるのは(笑)」


楓の父である宗久と兄である兼久が和解した瞬間であった。祝言には田中与四郎、小西隆佐と息子の小西弥九郎こと後の小西行長、津田宗及の他に茶屋四郎次郎や松江宗安等の商人の他に、何とあの大物がこの祝言に参加していた


「元織田家家臣で今では飛ぶ鳥落とす勢いのある新名内蔵助か、お初にお目にかかる、ワシは松永弾正久秀だ。」


俺の目に前にはあの三大悪事「将軍暗殺、主君とその子を殺害、奈良の大仏を焼き討ち」を成した松永久秀が現れたのだ。美濃のころの主君、斎藤道三とどこか同じ雰囲気を漂わせていた


「こちらこそ、当祝言にご参加していただき、ありがとうございます。手前は新名内蔵助という駆け出しの商人にございます。」


「武士を捨てて、商人になるとは面白き男だ、そんな男にこれをやろう。」


松永久秀が寄越したのは性に関する細かな指南書「黄素妙論」だった


「二回りの年下の女子への性の指南もある、大事にせよ。」


「あ、ありがとうございます。」


「それにしてもお主は果報者よの、若い娘を妻に迎えられるのだから(笑)」


「ははは。」


俺は苦笑いを浮かべるしかできなかった。俺だけではなく宗久と兼久も同様に苦笑いを浮かべた。まあ、それは置いといて、この時代の祝言は3日がかりで行うという。現代の結婚式なら1日で済ませるのに、無駄が多いなと思った。俺の隣には花嫁となる妻となる予定の楓がいる。白無垢を着て、顔を伏せたままなので、素顔が分からない。そこから好奇心をくすぐられるが今は我慢だ、我慢・・・・


そして長かった祝言も終わり、俺が楓のいる寝室へと向かっていた。俺にとって3度目の結婚だが、相手は自分の娘と同世代の妻である。男としての欲望が駆り立てられる。流行る気持ちを抑えながら、俺は寝室に到着した。俺は寝室に入ると平伏している楓がいた。俺は楓の真正面に座った


「面をあげよ。」


俺がそういうと楓は頭を上げた。楓の姿は現代でも通じるほどの色白の美少女で、芸能人に例えると橋本環奈か、有村架純みたいな感じだった。俺は思わず見惚れてしまった


「新名様、お初にお目にかかります、今井宗久が娘、楓にございます。末永くよろしゅうお願いします。」


楓は三つ指をつき、丁寧な挨拶をする。そんな楓に俺は意を決して自分自身の経緯を打ち明けた


「楓、私は生涯で2人の妻がいた。最初の妻は病で死んだ。その当時、私は戦の最中で妻の死に眼にも会えなかった、2度目の妻は私の我儘勝手で離縁をした、おかげで実家からも婚家からも絶縁されてしまった。全ては私の不徳の致すところだ。」


俺はかつて斎藤利三として活動したことや、商人になりたくて武士を捨てたこと、ここに来るまでいきさつ等を語った。楓は黙って、俺の話を聞いていた


「私自身、至らぬところがあると思うが、必ずそなたを大切にすることをここに誓う。」


俺は脇差しを持ち、カチンと金打をした。これは武士が決して違約しないという証である。俺自身、もう武士ではないのだが、ケジメをつけるためにやった


「新名様のご本心を承りました。私も自分の身の上を明かします。」


すると楓は語り始めた。彼女の母は元は今井家の奉公人だったが婿養子として入った今井宗久に見初められ、妾となり、自分を生んだ。今井家の屋敷には住まず宗久が用意した別宅で育ち、ずっと陰日向の生活をしてきたという。父である宗久は母や自分を大事にしてくれていたが今井家の人々には快く思われていなかったらしいが腹違いの兄である兼久は自分を妹のように大切にしてくれたのだという


「私も新名様の妻になるからには、私も貴方様に生涯お仕えすることをここに誓います。」


楓は鏡を取り出した。鏡は女の魂とも言われ、「刀は武士の魂」と同様、命に代えるべき大切な物として扱われた


「楓、ちこう。」


俺はそう言うと楓が俺のそばに近づいた。俺は楓の肩に手をかけた


「お前は私にとっては過ぎた妻だ。」


俺がそう言うと楓は俺の顔を見つめた。その後、俺と楓は接吻し、そこから着物を脱ぎ、互いに生まれた姿のまま状態で、初夜を迎えるのであった



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