第9話:御用商人

新名内蔵助、今が幸せの真っ最中である。俺はふた回りも年下の妻である楓と初夜を迎えた。正直言って可愛かった。初めは大切に扱っていたが、やはり男の性というべきか、途中から年甲斐もなくハッスルしてしまった。楓は意外と着痩せするタイプで15歳だが、胸も大きかった。なにより楚々とした振る舞いから女としてのあられもない淫らな姿に俺は興奮しっぱなしだ!


「よしまずは健康に気を使うか。」


俺はこの頃から健康に気を使うようになった。少しでも長生きをして、新名家を発展させると共に、楓といっぱい交わりたいというスケベ心も相まって、食生活にも気を使うようになった。朝からの日課である鍛練も一層身が入った。更に漢方薬を作り、体を良い薬を飲むようにしている。松永久秀から貰った「黄素妙論」は性の指南だけではなく、健康に関する事も書かれていた。ただのスケベ親父だけかと思ったが、侮りがたし・・・・


「旦那様、お食事の用意ができました。」


「あぁ、今すぐに行く。」


新妻である楓は若いながらも、穏和な性格で気配りもできる良い娘だ。奉公人たちに対しても優しく接し、特に子供たちから人気が高かった


「旦那様、頂きましょう。」


「そうだな。」


「「いただきます。」」


今日のメニューは麦飯、大根の漬物、具沢山野菜入りの豆味噌の味噌汁、鰻の塩焼きである。鰻の塩焼き、これは大好物なんだ。俺は塩で炙った鰻を食べると、俺はほっこりとした顔になっていた


「ふふふ。」


真正面から俺の顔を見ていた楓が笑みを浮かべた。思わず俺は照れ臭くなり、飯を掻き食らった。これが俺と楓の食生活である。一方、奉公人たちは、俺たちと同じ食事を食べていた。ここでは飯はみんな一緒の食事とする事を方針にしたため、主と奉公人も同じ食事である


「うまい、うまい。」


「あ、俺の鰻を取るな!」


「いいじゃん、ケチ!」


「こら、辞めなさいよ。」


「そうよそうよ。」


小吉の鰻を利吉が奪い取った事で喧嘩になり、ともとゆうが止めに入ろうとする。幹太は黙々と飯を食べていた


「「こら!何をしている(しとるんだ)!!」」


そこへ伝兵衛と五助が割って入りを喧嘩を止めた。ワケを聞くと五助を叱りつけた


「利吉、人の鰻を取るんじゃない!」


「うわーーーん!」


「やれやれ、朝から騒がしいわね。」


「「「いつものことよ、まつさん。」」」


まつ、しの、みつ、もよたちは食事をしながら、いつもの日常に浸るのであった


「朝から元気だな、あいつら。」


「平和でいいではございませんか。」


「それもそうだな。」


俺と楓はこの何気ない平穏な日常がこの時代には貴重かもしれん。俺は斎藤利三としてこの戦国時代に転生し戦場、戦場、戦場の日々だった。俺は改めてこの平和な日常を大切にしようと思う


「さて仕事だな。」


俺は店を開けて、いつも通り、営業を始めた。今日はある大物が店に尋ねてくる日である。俺は奉公人たちに命じて、店内を清掃し、必要な物を揃えて、いつでも出迎える準備をした。それから数刻が経ち・・・・


「旦那様、お見えになられました。」


「分かった。」


俺は店外に出て、お迎えをした


「遠路はるばるようこそお越しくださいました、羽柴小一郎秀長様。」


「おお、新名殿、出迎えすまなんだな。」


羽柴小一郎秀長、後の豊臣秀長である。あの豊臣秀吉の弟であり、名宰相と呼び声高い人物である。今日、ウチのやってきたのは、スコップとツルハシと猫車の取引である。話を聞くと、城下町の整備や治山治水、新田開発に使うとのことである


「では中へどうぞ。」


「うむ、かたじけない。」


俺は秀長を客間に案内した。客間には南蛮風のテーブルと椅子のあり、秀長は驚いていた。先に秀長を椅子に座らせ、後から私が椅子に座るようにした。座ったと同時に、商談が始まった。秀長は必要なツルハシ、スコップ、猫車の購入する数と、出せる額を示し、俺は硬軟織り交ぜての交渉を行い、譲歩すべきところは譲歩し、譲るべきでないところは譲らない。史実の豊臣秀長は「ケチ」ともいえるほどの倹約家であり、やはり値段のところで躓いてしまった


「新名殿、やはり値段の方は下げてはくださらぬか。」


「こちらも商売でやっております。作るにも材料費と人件費がかかりますので、これ以上は値段を下げることができませぬ。」


「では、どうしたら値段を下げてくれるだろうか。」


「そうですな、やはり担保ですかな。」


俺は担保を秀長の要求した。将来、他人に不利益を与えないことを請け合い、万一不利益が生じた場合の保険が必要である、秀長は果たして、どうするだろうか、俺は一種の賭けをしてみた


「では、新名屋を我が羽柴家の御用商人としての権利を約束いたす。」


「ほお、御用商人ですか。」


羽柴家の御用商人になれば、秀吉の領地での様々な特権を与えられ、他の商人よりも優先されるのである


「そのこと、筑前守様はご存知なのですか?」


「ワシは兄より、交渉の裁断を任されておる。新名殿に損をさせるつもりはない。誓紙を用意しても良いぞ。」


秀長は何としてもこの商談を済ませたいとゆう思いが伝わってくる。ここいらで潮時かもしれんな


「分かりました。もし筑前守様より我ら新名屋を御用商人とするお許しをくだされば、譲歩いたしましょう。秀長様も必ずやお約束を果たしていただきたい。」


「必ず。」


「はい、これで商談も片がつきました。秀長様もさぞ喉を乾かれたことでしょう。」


俺がパンパンと手を叩くと、奉公人たちがお茶と清浄歓喜団という巾着袋の形をした京菓子を運び、テーブルに置いた


「ほお、珍しい菓子ですな。」


「清浄歓喜団という大陸より伝わった菓子にございます。」


早速、秀長は清浄歓喜団を食し、ほっこりとした表情で味わっていた


「うん、この巾着袋の菓子は美味しゅうござるな。」


「ええ、わざわざ都より取り寄せました。」


「それに、お茶も程よい熱さで飲みやすい。」


「畏れ入ります。」


秀長はお茶と清浄歓喜団を味わった後、新名屋を後にし、長浜で戻った。そして新名屋を御用商人するための説得を行った


「兄者、新名屋を羽柴家の御用商人してほしい、そうすれば我等の必要とする数の品を手に入れることができる。」


「う~ん、じゃが、ワシは田中与四郎殿を御用商人しようと思ったのだが・・・・」


「兄者、御用商人が何人いようがいいではないか。我等、羽柴家は成り上がり者だ、少しでも多くの味方を得なければいかんのじゃ。」


秀吉もそれについては同意していた。自分は元は百姓の生まれ、あまりにも早い出世に古参の織田家家臣たちから嫉妬され、陰口を叩かれることもあった。少しでも自分の立場を有利にするには、致し方ないのかもしれない


「それに新名殿の嫁御は今井宗久の娘だ、さすれば今井家も味方についたも同然だぞ。」


秀吉は考えた末、新名屋を御用商人にすることを決めた


「分かった、新名屋を御用商人として迎えよう。」


「よくぞ言ってくれた!兄者!」


その後、秀長が再度、訪問し御用商人の許しを得たこと報告した。俺も約束通り、値段を引き下げ、羽柴家はツルハシ、スコップ、猫車等を購入することができた。これにより羽柴家の城下町の整備や治山治水、新田開発が順調に進み、長浜の支配は徐々に安定していったのである


「長浜は順調に進んでいるようだな。」


俺は忍びを使い、長浜の様子を逐一報告させていた。信長亡き後の天下人となる豊臣秀吉と密接に繋がることができたので良しとした

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