外伝2:天覧茶会
新名内蔵助だ。織田幕府が創立してから数年が経ち、俺は御伽衆として織田信長に再び仕える事になった。まあ、それはさておき、俺は今、京の都で織田信長主宰の天覧茶会に参加している。俺は多くの客人相手に茶を点てるのが仕事である。参加者は大親町上皇・後陽成天皇・織田信長・織田信忠・織田信包・織田有楽斎・羽柴秀吉・徳川家康・細川藤孝・細川忠興・今川氏真・高山右近等の天下人や大名の他に、今井宗久・今井兼久・田中与四郎・津田宗及・小西隆佐・茶屋四郎次郎等の商人、近衛前久・勧修寺晴豊・吉田兼見・菊亭晴亭等の公家、狩野永徳・里村紹巴・池坊専好・本因坊日海・松永貞徳等の文化人が集まった
「ひゃあ~、これは豪華な顔ぶれだな。」
何より天皇陛下が参加している。現代では天皇陛下の顔はテレビで公開されるが、普段は姿を見せず、声も出すことが滅多にない。まさに雲の上の存在の御方である。舅の今井宗久と義兄の今井兼久はガチで緊張しており、粗相をしないよう気を付けている
「舅殿、もう参加した以上、やるしかありませんよ。」
「しかしな内蔵助、もし天子様の前で茶を点てると思うと、この手が震えてしまう。」
「さすがに天子様か親父殿の下には来ませんよ。やるとしたら天下人でしょう。」
「だが万が一という事もあるだろ!」
「まあまあ、私たちには来ないと思いますよ。さすがの上様も庶民相手に天子様に茶を点てるようなことはしませんよ。」
正直言って、全く根拠がないが、万が一自分が天子様相手に茶を点てると言ったら、そら緊張するだろう。もし、俺に当たったら、緊張してガチガチになりそうだ。そんなこんなで天覧茶会が始まり、俺は自分の持ち場にてお茶を点てる準備をした
「おお、新名殿、久しいな。」
「これはお久しぶりです。筑前守様。」
最初の客は羽柴筑前守秀吉である。羽柴家の御用商人を務める新名屋、史実では秀吉が天下人になる予定が、信長が生存しているため、一家臣として活動している。俺は茶を用意し、茶菓子として饅頭を用意した。秀吉は饅頭を食べながら、茶ができるのを待っていた。茶が出来上がり、秀吉に渡した。秀吉は茶の作法に則り、茶を一服した
「結構な御点前でした。」
「ありがとうございます。」
秀吉から茶碗を返された。俺はその茶碗を片付け、次の茶碗を用意した。次の客人に用意するように工夫をしていくのだ。さて次の客は・・・・
「新名殿、茶を所望したい。」
「ようこそお越しくださいました、徳川右小将様。」
次の相手は徳川右近衛権少将家康、史実では秀吉亡き後の天下人だが、信長が生存しており、現在は外様の家臣として活動している。俺はいつも通り、茶と茶菓子を振る舞った。家康は一寸の隙もなく、冷静に茶菓子と茶を飲食していた。従来は冷静沈着で我慢強いイメージがあるが、実際は喜怒哀楽が激しく、短気で神経質な人物だと言われている。俺の前でいる時はあくまで冷静に対応しているのだろう
「結構な御点前でござった。」
「ありがとうございます。」
家康は茶碗を返すと、そのまま立ち去って行った。俺は茶碗を片付け、次の客を待っていた
「おお、内蔵助、そちの茶を飲みにきたぞ。」
「よ、ようこそ、いらっしゃいました、上様!」
相手は何と、織田幕府2代将軍、織田信忠である。つうか天下人が何してんだよ。天子様をお迎えするんじゃないのかと心の中で文句を言ったが、来てしまったものは仕方がない。俺は高級な饅頭と茶を用意した。仮にも天下人が相手なんだ、一切の粗相があってはならない。信忠は茶菓子を食べ、そして茶を一服した
「うん、お茶も飲みやすく、美味だったぞ。」
「有り難き幸せ。」
信忠はその場を立ち去った。俺は茶碗を回収し、次の茶碗と茶菓子を用意した。おいおい、天下人のオンパレードだよ、つうか何でおれのところに来るの!まさか死亡フラグじゃないよね
「利三、茶を点てろ!」
「お、大御所様!」
今度は織田幕府初代将軍で現在、大御所として権勢を奮う織田信長である。おいアンタは天覧茶会の主催者だろうが!何やってるんだよ!
「喉が渇いたから、たまたま寄ったまでだ。」
おい、俺の心を読んでいったのか、偶然かは分からないが俺は高級な茶菓子と茶を用意した。短気な信長に粗相があったら、間違いなく首が飛ぶわ、俺、何かした!死亡フラグの神が俺の頭上に降りてんのか!俺は心の中で格闘しながら、茶を点て、信長に渡した。信長は作法をせずにそのまま飲んだ。おいおい短気でもそれはないだろ!下手したら舌が火傷するわ!もちろん火傷しないようお湯の温度は調節してるけど・・・・
「ふう、生き返った。それじゃあな。」
「あ、はい。」
信長は茶を飲みほした後、茶碗を置き、そのまま立ち去っていた。嵐にように来て、嵐のように去ったというべきか・・・・
「危なかった・・・・」
俺は茶碗を片付け、次の茶菓子と茶碗を用意した。そこへ2人の客人が入ってきた
「・・・・2人なのだが、おぶぶ(お茶)を点てられるか?」
「はい、ようこそいらっしゃいました。」
そこに入ってきたのは衣冠束帯姿をした2人組の公家らしき御方だ。一人は年配、もう一人は青年、誰だろうと思いつつ、俺は高級な茶菓子と茶を用意した。すると青年の方の公家が話しかけてきた
「そちの名は?」
「はい、私は新名内蔵助と申します。」
「ほお、織田相国に仕える御伽衆ですな、父上。」
織田相国と言えば、織田信長だ。織田信長は征夷大将軍とともに太政大臣も兼任している。それを知っているのはやはり朝廷の重役だろうと思いつつ、茶菓子を振る舞った
「うむ、おまんを馳走になるぞ。」
京都では饅頭の事を「おまん」と呼び、お茶の事を「おぶぶ」と呼ぶらしい。相変わらず、京都は異質だなと感じた。二人の公家は黙々と饅頭を食べていた。俺は二人分の高級な茶碗を用意した。マオ・ジロウの自信作であり、この日のために用意したのだ。瑠璃色の天目茶碗に抹茶を入れ、お湯を注いだ
「父上、朕は喉が渇きました。」
「うむ、朕も同じじゃ。」
ん、朕。朕って、言うのはこの世で使用できるのは極一部の階級の人しか使えない一人称だ、ま、まさか・・・・
「ど、どうぞ。」
「うむ。」
「さて。」
まさか、まさか、まさか、そんなわけないよね、いや、これは夢だ、うん夢だ、そんなはずがない、俺の聞き間違いであってほしい。どうか神様、仏様、デウス様、誰でもいいから、嘘だと言ってくれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!
「うむ、おぶぶがおいし。」
「おまんもおいし。」
二人は茶と茶菓子を飲食した後、私に向かい・・・・
「うむ、おまんとおぶぶ、おいしゅおした。」
「では織田相国によろしゅう。」
「あ、有り難き幸せ・・・・」
二人の公家らしき御方はそのまま立ち去った。俺は生まれて初めて、上皇・天皇陛下に茶を振る舞った・・・・
「あ、はははは・・・・」
天覧茶会も終わり、俺は片づけをしていると、そこへ織田信長と織田信忠がやってきた
「利三、上皇様と天子様に茶を振る舞ったそうだな!」
信長の一言で、茶会に参加した人々は一斉に俺の方を向いた。おいおいそんなに見ないでええええええ!
「内蔵助、上皇様と天子様は、そちの茶を褒めて居ったぞ!これで織田幕府の面目が立てられたな!」
「あ、ありがたき幸せ・・・・」
その後、参加者から上皇・天皇陛下について聞かれた、正直、生きた心地がしねえよおおおおおおおお!
俺は朝廷より「利休居士」の称号を与えられたのは、その後であった
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