独立編

第5話:独立

昨日の夜の後、俺は複雑な気持ちになった。宗久は俺に今井家を任せたいと思っていると兼久は言っていたが、俺としてはさすがにそれは遠慮したい。俺自身、斎藤利三の運命から逃れたくて商人になったけど・・・・


いつか店を持ちたいという望みがあるが、今井家を継ぎたいと思ったことは一度たりともない


「はあ~。」


「内蔵助。」


「はい!」


振り向くと、そこには宗久が立っていた。さすがに背後から声をかけるのはよしてほしい


「溜め息とはどうした?」


「あ、いいえ。」


「そうか、実はな、お前に大事な話があるんだ。」


「はい、何でしょうか?」


「まあ、まずはワシの部屋に来い。」


俺は宗久に案内され、宗久の部屋に入り、許しを得た後に椅子に座った。そして神妙な面持ちで宗久は話し始めた


「内蔵助、お前店を持つ気はないか?」


「店でございますか。」


何と俺に店を持つよう言ってきた。まさかと思ったが本当に言った。


「うむ、お前がウチに来て3年が経つ、そろそろ独り立ちする頃合いだとワシは思う。お前は今井に置いておくには勿体無いほどの男だ。これを機にワシの下を離れ、商人として一歩を進めるべきだと思う。」


「旦那様、お気持ちは嬉しいのですが、私はまだまだ未熟でございます。」


「そう自分を卑下する事はないぞ。お前は数々の難題を解決し、店に大きな利益を与えた。今度はお前自身で自分の店に利益を与える番だ。お前はこの今井は狭すぎるからな。」


宗久がそれほど俺を買ってくれたのか、こうなれば致し方ない


「旦那様、分かりました。慎んでお受けいたします。」


「うむ、次に会うときは商売敵だ、分かったな、内蔵助。」


「はい、このご恩は一生忘れません。」


「ふん、礼を言うのはワシの方だ。お前があの時、兼久には物事を冷静に判断できると言うた。お前のあの言葉でワシも腹が決まった。今井の跡取りは兼久に決めた。」


「兼久様もきっとお喜びいたします。」


「うむ、さて話は終わりだ。今夜は飲もう、付き合ってくれるな。」


「はい、お付き合いいたします。」


俺と宗久は潰れるまで酒を飲みあい、二日酔いに苦しんだが、別に苦でなかった。1573年、俺もやっと正式に店を持ち、独立する事ができたのだ。餞別として大量の資金を提供してくれた事に俺は頭が下がる思いだった


「ここが俺の店か。」


俺が新しく商売を始める店(兼屋敷)は、今井家の屋敷ほど豪勢ではないが、それでも立派かつ新築なため俺としては幸運だった


「さて、まずは何を売るか、考えよう。」


俺はまず何を売るか考えた。今井家は多種多様な商売を展開している。俺自身も独自で商売の種を探さなければいけない


「よし石鹸と真田紐を作ろう。」


俺は石鹸と真田紐を作ることにした。石鹸はこの時代では高価な品として扱われ、南蛮ではシャボンと呼ばれていた。真田紐は鎧の組紐として使われていることを某大河ドラマで知っている。幸いにも俺は石鹸と真田紐の作り方を知っており、材料も用意できる


「後は人だな。」


石鹸や真田紐を作るにもまず人である。やるからには住み込みで働いてくれる人を雇わなければいけない。そして俺はある結論に達した


「やはり人買いから買うか。」


この時代、人身売買が当たり前のように行われており、武田信玄や上杉謙信も積極的に人身売買をしていた記録がある。かの織田信長は人身売買をしており、鉄砲や火薬を得るために若い女を売るほどである


「とりあえず行くか。」


俺は人買いが行われている市場へ行った。市場に到着した途端、気分が悪くなってきた。俺の目の前には縄で縛られた男や女や子供がいた。特に子供は泣きじゃくっており、正直心が痛む


「いらっしゃいませ、今日はどのような御用件で?」


そこへ、ニヤニヤした奴隷商人がやってきて用件を聞いてきた


「うん、実は新しく商売を始めてな、雇い手を探しているんだ。」


「左様ですか、お安くしときますよ。」


「そうだな。」


俺は目の前にいる女子供を買おうと思った。さすがに泣きじゃくる子供を放っておけなかった。まあ、やり方さえ覚えれば、女子供でも作ることができる


「女子供を買おうと思う。」


「女子供を?買うなら男手のほうがいいと思いますけど?」


「うん、私の商売は女子供でも仕事ができるようにしているんだ。仕事を覚えさせれば後はこっちでやるよ。」


「そうですか、なんなら男手を1人用意しますが、どうでしょう。お安くしときますよしときますよ。」


俺は悩んだ挙げ句、男も買うことにした。俺は奴隷商人から男1名、女4名、子供5名(男3名、女2名)計10名を買った。俺はその10名を連れて帰った


「私はお前たちの主人となる新名内蔵助だ、お前たちは私が始める石鹸と真田紐作りをしてもらう。やり方を教えるから後はお前たちで作るんだ。」


「「「「「「「「「「はい。」」」」」」」」」」


全員が返事をした後に俺は全員の名前を聞いてみた


「さてまずは男からだ、お前の名は?」


「へい、あっしは伝兵衛と申します。」


「うむ、次に女たちだ、名は?」


「まつです。」


「しのです。」


「みつです。」


「もよです。」


「うむ、次に子供たちだ。名を名乗れ。」


「幹太。」


「小吉。」


「利吉。」


「とも。」


「ゆう。」


「俺が商人になってお前たちが初めての奉公人だ。今日だ、今日頑張れば明日が来る。頑張った分だけ、お前たちに明日が訪れる。俺やお前たちにとって良き明日になるか、悪しき明日となるかは俺たちの働き次第だ。しっかり頼んだぞ!」


「「「「「「「「「「はい。」」」」」」」」」」


商人、新名内蔵助の本格的始動だ!

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