第4話:親子
俺は斎藤利三の名を捨て、今井宗久の下で商人になるべく、弟子入りし、そして【新名内蔵助】として今なお活動している
「おい、内蔵助。」
「これは兼久様。」
俺を呼んだのは今井宗久の息子こと今井兼久である。父親である宗久とは違い、はっきりいって道楽息子である。父親である宗久もほとほと兼久に手を焼いている
「内蔵助、どうだ。これから飲みに行くんだが?」
「申し訳ありませぬ、今日は旦那様と共に小西隆佐様の所で商談があるのです。」
「商談か、親父殿は真に仕事人間だな。俺のように遊びを覚えてもいいのによ。」
「旦那様は今井家のために日夜働いているのです。兼久様やその孫の代まで存続できるように。」
「ふん、物は言いようだな。」
兼久は面白くなさそうな表情で立ち尽くし、話を変えた
「内蔵助、お前はかつて織田信長に仕えていたそうだが、お前から見ての織田信長はどんな感じだった?」
いきなり織田信長の話を出され、俺はありのままを答えた
「そうですね、私の元主であり、美濃を攻めた侵略者であり、亡き斎藤道三様のお気に入りだったり、正直言って複雑な御方です。」
「複雑か、俺はあの男はどうも好かん。何というか人の皮を被った天魔のような男だ、親父殿はあの信長を高く評価しているだろうけど、俺はどうも胡散臭い奴だと思う。」
兼久はどうやら信長の事が苦手のようだ。まぁ、信長は他の武将や大名とは違い、天才特有の視点を持っているゆえ誤解されやすいからな。それゆえ古いしきたりに拘る家臣たちにも理解されず謀反を起こされるからな
「まぁ人物はどうあれ、天下に最も近いのは織田信長公だと私は思いますがね。」
「何だ、お前さっき複雑とか言ってたじゃないか。」
「確かに申しましたが、それとこれとは別でございます。」
「面白くねえな。」
「そんなことより良いのですか。飲みに行く刻限に遅れても?」
「あぁ、そうだった、飛んだ無駄話をしたな。それじゃあな。」
そう言って兼久は屋敷を出ていった。無駄話をしてきたのはお前だよと内心、毒づいたと同時に仕事人間の今井宗久がやって来た
「内蔵助、これより隆佐殿の下へ行く。供をせい。」
「はい、旦那様。」
俺と宗久は今井隆佐の屋敷へ向かう途中、兼久の事で話があった
「内蔵助、兼久の事をどう思う?」
「兼久様ですか、冷静な判断ができる御方かと存じますが。」
「お前にはそう見えるのか。ワシはあの放蕩者に店を任せていいか、正直、迷っている。お前にアレの補佐を任せたいと思ったが、それではアレのためにはならんからな。」
「はぁ~。」
「ワシはな、お前に店を持たせたいと思っている。一人前の商人になりたいと思うお前にな。」
「旦那様、ありがとうございます。御世辞でも嬉しゅうございます。」
「うむ、そろそろ隆佐殿の屋敷だ、粗相がないようにな。」
「はい。」
その後、俺は小西隆佐の屋敷の茶室にて商談を終わらせ、気が付いたら夜になっていた。宗久と共に屋敷へ帰る途中、取り巻きと共に酒に飲みあくれていた今井兼久と、ばったり出会った
「兼久!」
「ひっく、おお、これは親父殿に内蔵助、商談が終わったのですか?」
そう言って宗久の下へ近づく兼久、近づくに連れて酒臭かった。どんだけ飲んだんだよ
「喧しい!こんな夜更けまで遊び呆けるとは、何事か!それでも今井家の跡取りか!」
「はいはい、説教は聞きあきました~よ、親父殿はかとうていかんわ(笑)」
すると宗久は兼久に近づき、頬に平手打ちをした。酔いもあってか、兼久はバタッと倒れた。俺は宗久を後ろから羽織締めし押さえ付けた
「旦那様、公衆の面前ですぞ!」
「離せ!内蔵助!こやつには性根を叩き直さねばいかんのじゃ!」
怒る宗久に俺は何とか宥めようとした時・・・・
「くくく、そんなに俺が気に入らないなら、廃嫡すればいいではないか。」
「何だと!もう一度、言ってみろ!」
「ふん、俺なんか廃嫡してそこにいる内蔵助を跡取りにしろって言ってんだ!」
おい!何言ってんだこいつ、俺を跡取りとかほざいてるし、何を考えてんねん!
「兼久様、冗談でも言って良いことと悪いがございます!」
「内蔵助、お前は知らないと思うが親父殿は、お前に今井家を任せたいと思っている。放蕩者の俺よりも堅実なお前の方が跡取りに相応しいとな!」
俺を跡取りに!まさか宗久が・・・・いやいかん!とにかく兼久の良い所があるはずだ
「兼久様は物事を冷静に判断できる御方です。商いをする上で、最も大事な事だと思います。旦那様の跡を継ぐことができるのは兼久様をおいて他にはおりません!」
俺がそう言うと、いつの間にか宗久は暴れるのを辞め、兼久はマジマジと俺の顔を見つめた後、そっぽを向いた
「ふん、興醒めだ、おい飲みに行くぞ。」
「は、はい!」
取り巻きたちに連れられ、兼久は夜の闇へと消えていった。宗久はというと・・・
「内蔵助、本当にアレに任せて良いのか。」
「大器晩成という言葉があります。時が解決いたします。」
「そうか。」
そう言い、俺たちは無言のまま屋敷へ帰るのであった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます