第3話:名前

今井宗久の正式な茶の湯の弟子となり、メキメキと茶の湯の腕が上がった。宗久に連れられ、俺は茶会に参加した。そこでは堺の有力者が参加しており、田中与四郎の他に小西隆佐、津田宗及といった豪商が勢揃いである。俺は幾多の戦場で戦ってきたが、今回は茶の湯である。内心、緊張しまくりだ、初めての初陣を思い出す


「内蔵助、お前が茶の湯の主人だ。精一杯、おもてなしをせよ。」


しかも茶の湯の主人という大役を仰せつかった。俺は戦場に望む武士の覚悟を思い出し、この大役をやり遂げようと心に決めた


「よし頑張るぞ。」


俺は自分自身に叱咤激励し、茶の湯の席に望んだ。俺は、茶室に入った。主人としての御客をもてなす作法を行った。御客の視線を感じつつ、手順を思い出しながら、茶の湯のお湯加減、抹茶の入れる量、タイミングを図り、茶碗に抹茶とお湯を注ぎ、茶筅でかき混ぜた。出来上がったお茶を最初の客人である今井宗久へと運んだ


「ではお先に。」


隣の席の御客に挨拶をすると、先にお茶を飲んだ。そして指で拭き取り、懐紙で拭いた。次に田中与四郎、次に小西隆佐、次に津田宗及と順々にお茶を飲んでいった


「結構な御手前でした。」


最後の津田宗及がお茶を飲み終えて、挨拶が終わった後、俺にとって初めての茶の湯の初陣が終わった


「内蔵助、良き手前でしたよ。」


田中与四郎からお褒めの言葉をいただいた


「うん、初めてにしてはなかなかの出来だったぞ。」


「固い面もあるが、まあいい方ですな。」


「まあ、場数を踏めば、物にできますな。」


田中与四郎に続いて、主の今井宗久、小西隆佐、津田宗及と感想を述べた


「ありがとうございます、お世辞でも嬉しゅうございます。」


すると田中与四郎からある質問がでた


「うむ、それよりも気になることがあるのだが、そなたが用意した掛け軸の【初客心茶(しょきゃくしんちゃ)】という言葉だが、これはどう意味で書いたのだ?」


「はい【初客心茶】は、【初めて客人をお迎えする気持ちで、心を込めてお茶を点てる】という意味でございます。私自身、戦場での初陣のように初心を忘れず、謙虚で真剣な気持ちにて、おもてなしをする心構えにてこのこの4文字を掲げました。」


俺自身、悩みに悩んだが、辿り着いたのはこの文字だった。俺にはこれくらいしか思いつかなかったが、ありのままを書こうと思ったのだ


「うむ、【初客心茶】か、なかなか良い響きですな。」


「そうですな、何事においても初心は大事ですな。」


「うん。」


田中与四郎、小西隆佐、津田宗及は感慨深く、この文字を眺めていた。その後、茶会が終わり、お客人が帰った後、今井宗久から呼び出しを受けた


「旦那様、内蔵助でございます。」


「うむ入れ。」


「では失礼します。」


許しを得て今井宗久の部屋に入った。宗久は南蛮風の椅子に座り、テーブルには瓶の入った赤い色の飲み物が置かれていた


「まあ、座れ。」


「失礼します。」


俺は椅子に座った後、宗久は話しかけてきた


「うむ、初めての茶会、悪くなかった。それに【初客心茶】、あれも良かったぞ。」


「ありがとうございます。」


「ふ、まあ飲め、これは南蛮より取り寄せた葡萄酒だ。」


「はい、いただきます。」


宗久から南蛮ビードロを渡され、葡萄酒を注がれた。俺は生まれて初めて葡萄酒を飲んでみた


「ん。」


「どうだ、葡萄酒の味は?」


「酸っぱいですね。」


「ふっ、酸っぱいか、初めはそう思うかもしれんが、段々と病みつきになるぞ。」


俺は葡萄酒を飲み干し、南蛮ビードロを置いた。前世の俺はビールや日本酒を飲んだことはあるけど、葡萄酒は今回が初めてであり、年代物は酸っぱいとは聞いていたけど本当のようである


「今日、お前を呼んだのは他でもない。お前に姓を授けようと思う。」


「姓でございますか?」


「うむ、お前はかつて斎藤利三の名を捨て、内蔵助という新しき名でこの屋敷へ参った。そこでワシは考えた。それでお前は今日から【新名内蔵助(にいなくらのすけ)】と名乗るがよい。」


「【新名内蔵助】、ありがとうございます!」


斎藤利三改め、新名内蔵助の誕生である!




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