第14話:長篠

堺より火縄式の鉄砲(2500丁)と火打石式の鉄砲(500丁)が織田信長の下へ到着した


「おお、来たか!」


「鉄砲3000丁、お届けに上がりました。こちらが目録にございます!」


堺の荷駄隊の隊長が目録を信長の側近に渡し、その側近が信長に渡した


「火打石式の鉄砲が500丁か。」


「申し訳ございません、我々が用意できるのは500丁が限界にございます。」


「いや、むしろ500丁揃えただけでも良しとしよう。ワシが美濃のマムシに会う際、鉄砲500丁揃えたからな。武田との戦でとことん使ってやるぞ。」


「ありがたき幸せ。」


信長は新兵器である火打石式の鉄砲を手に取り、これから望む武田との戦に戦意を燃やしていた


「信長殿、それは新式の鉄砲にござるか?」


「ああ、これは火打石だけで撃てる鉄砲だ、天候に左右されずに撃つことができる。」


「何と!そのような武器を揃えておいでか!」


家康は驚愕し、すぐさま火打石式の鉄砲を手に取り、自分もいつかこの鉄砲を持ちたいという願望を抱いた


「欲しいか?三河殿?」


「はい、欲しいです!」


「火縄の鉄砲よりも高いぞ、材料が多いのでな。」


「えっ。」


家康が火打石式の鉄砲を手にするのはいつのことやら。話をしているうちに、使者がやってきた


「申し上げます、馬防柵、完成いたしました!」


「うむ、そうか。よし武田の田舎侍どもに鉄砲3000丁を馳走してやるわ!」


そのころ、武田軍は一向に落ちない長篠城に将兵たちは厭戦気分が漂い始めた。勝頼はイライラが募り、そばにいた武将たちは冷めた表情で勝頼を見つめていた。するとそこへ使番がやってきた


「申し上げます、織田・徳川の大軍が長篠設楽原に着陣しました!」


「とうとう来たか!尾張の成り上がり者と三河の腰巾着め!長篠城には抑えの兵を残し、残りは織田・徳川との決戦に備える!」


勝頼はこの戦いで決着をつけようとしたが、馬場信春、山県昌景、内藤昌豊が反対した


「お待ちくだされ、敵は馬防柵を設け、我等に備えています。敵は必ず罠を仕掛けてまいりまする。」


「将兵たちの間では厭戦気分が漂い、先の城攻めで疲れ切っております。」


「御屋形様、ここは一旦、撤退しましょう。」


馬場たちは撤退を進言するが、跡部勝資と長坂光堅、勝頼の側近たちは決戦を主張した


「御屋形様、ここで退いてはなりません、退けば我ら、武田が尾張の成り上がり者に恐れていることを天下に知らしめることになります。常勝武田の力を見せつけてさしあげましょう!」


「左様、我等には亡き信玄公が残した武田の精鋭がございます。恐れることはございません!」


「うむ、よう申した。仮に罠があったとしても、それほど我等を恐れている証拠だ、決めたぞ、此度こそ、織田・徳川の息の根を止めてくれるわ!」


勝頼は馬場たちの進言を無視し、決戦に臨んだ。長篠設楽原に向かう途中、長篠城が酒井忠次の奇襲を受けたという知らせを聞いた勝頼は・・・・


「こうなれば正面から潰してやる!」


「なりません、長篠城が敵の手に渡ったことで、我等は袋の鼠になります、どうか撤退を!」


「ならん、このまま強行突破だ!」


馬場たちは撤退を進言したが逆上した勝頼にはもう届かなった。武田が長篠設楽原に接近する知らせが、織田・徳川の下に寄せられた


「ふふふ、飛んで火にいる夏の虫とは、このことだな。」


信長は勝頼の猪突猛進に笑みを浮かべた。勝頼は信玄以上に戦上手であり、信長は当初は恐れていたが、今回はこちらの思惑に乗ってくれたことに、内心、毒づいた


「さあ、武田に鉄砲を馳走してやれ!」


信長の号令の下、各陣営に鉄砲隊が配置した。織田・徳川連合軍は野戦築城の策を取り、馬防柵を設け、武田軍を待ち構えていた。すると、どこからか太鼓が鳴り響いた。正面を見ると、太鼓を叩き、鐘や法螺貝を鳴らす神官たちがいた


「あれが諏訪太鼓か。備えろ、敵が来るぞ!」


鉄砲隊はすぐさま構え、敵を待ち構えていた。するとそこへ武田の騎馬兵や足軽たちが攻めてきた


「十分に退きつけよ、まだまだ・・・・・放てえええええ!」


銃声が鳴り響き、武田の騎馬兵と足軽たちがバタバタと倒れた


「次が来るぞ!弓隊放て!」


矢の嵐が武田軍を襲った。しかし武田軍は恐れずに馬防柵に近づいた。そこへ槍隊が近づく武田軍の兵士たちを突き刺した。そこへ別の鉄砲隊が待ち構えていた


「放てえええええ!」


次の銃声が響くとともに、バタバタと倒れていくのであった。そのころ武田陣営では、一向に止まない銃声に勝頼はイライラしていた


「申し上げます、敵の守り固く、御味方が鉄砲と矢の餌食になっております。」


「くっ、ふがいなき奴らめ、次だ!次を出せ!」


勝頼は次の将兵を送り込んでいる隙に中央にいた重鎮(主に叔父や親類たち)が勝手に撤退を始めた。それを聞いた勝頼は激怒した


「勝手に陣を離れるとは!」


「御屋形様、今からでも遅くありません、撤退を!」


「喧しい!武田の力を見せつけてやる!」


勝頼は多くの将兵を送ったが、鉄砲と矢の餌食となった


「御屋形様、もう潮時にございます、どうか撤退を。」


「喧しい、山県、そちは臆病風に吹かれたか!」


「いいえ、私はここを死に場所と決め申した。亡き信玄公にお詫びに行きまする。」


「何・・・だと。」


「ではおさらば。」


山県昌景、内藤昌豊等、武田家譜代の家臣たちはここを死に場所と決め、突撃したが、最後は鉄砲に撃たれ、戦死した


「山県昌景様、内藤昌豊様、真田信綱様、真田昌輝様、土屋昌続様、土屋直規様、安中景繁様、望月信永様、米倉丹後守様、討ち死に!」


「なぜだ、なぜワシが負けるのだ。」


「御屋形様、某が殿を務めますゆえ、急ぎ退却を!」


「馬場、すまぬ。」


勝頼は馬場信春の進言を受け入れ、撤退を開始した。信春は部隊を率いて、織田・徳川連合軍に立ちふさがった


「さあ、我と思う者あれば、かかって参れ!」


馬場信春は最後の死に花を咲かせようとしたが・・・・


「ぐふっ。」


馬場信春に体に無数の鉄砲玉を浴びせられ、無念の最期を遂げた


「戦は・・・・変わるか・・・」


馬場信春はそう呟き、古き戦が無くなった事を知るのである。そのころ織田・徳川陣営は勝頼が撤退したことを受け、勝ち鬨を上げた


「えい、えい!」


「「「「「「オオオオオオオオオ!」」」」」」


長篠の戦いに勝利した織田・徳川連合軍の評判は天下に響いた。もちろん堺でも、その噂が持ちきりである


「あの武田を破ったそうだぞ。」


「織田様は天下を動かすんや。」


「オダサマニ、デウスノゴカゴガ、アリマシタ。」


誰もが信長の勝利に驚愕する中、今井宗久と俺は静かに織田の勝利を祝った


「これで南蛮船の建造ができるぞ。」


「ええ、我等も負けてはいられませんね。」


この戦いで織田信長の天下布武が現実のものになろうとしていた





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