第13話:勇者

ある日、堺の港に南蛮船が漂着した。船員が既に死亡しており、船もボロボロだった。堺奉行の役人たちが検分しおった後、俺と今井宗久はガレオン船に乗り込んだ


「舅殿、この南蛮船はどこから来たのでしょう。」


「さあな、ポルトガルかイスパニアあたりではないかな。恐らく何らかの事故に巻き込まれたのかもな。」


舅殿が言う事なら間違いないだろう。船旅は危険がいっぱいである。津波や大嵐、そして疫病や食糧不足、海賊との交戦など、船旅は危険がつきものである。だが南蛮人たちは、自分たちの利益のためにあえて、はるか彼方の未開の地へと大冒険の旅に出るのである。まあ、奴隷売買や原住民の弾圧はやりすぎだが・・・・


「舅殿、この南蛮船、堺でも作れますかね。」


「う~ん、まあ作れないことはないが・・・・」


「上様にお願いしてみますか?」


「うん、やってみるか。」


俺は船内を散策すると、ある物を見つけた


「これって、もしかして大砲か!」


見つけたのは古くなって使われていない大砲、恐らくフランキ砲辺りではないかと思った。日本では国崩しと呼ばれ、九州の大友宗麟が最初に戦場に使用したという。役人たちは、壊れていると思ったのか、持ち出さなかったようだが、それでいいのかよと思った


「何か見つかったのか?」


そこへ宗久がやってきて、例の大砲を見せた。試しに堺で作ってみようということで、持ち帰った。今井家と新名家で共同でお金を出しあい、腕利きの鍛冶屋を結集して国産のフランキ砲の製造に取り掛かった


「ワシは織田様に南蛮船の建造の御許しをいただいてくる。フランキ砲の製造は任せたぞ。」


「はい、お任せあれ。」


俺はフランキ砲を一から調査した上で、分解し、部品を作り始めた。俺が雇っている鍛冶職人たちは鉄砲の他にツルハシやスコップ、猫車等を手掛け、今度は南蛮から来た大砲に挑戦中である


「さて田舎の香水を吸いに行くか、はぁ~。」


俺はため息をつきながら、ある場所へ向かっていた。そこはとある巨大な小屋だった


「うぅ、相変わらず臭いな。」


そこで硝石を作っている。この硝石が火薬の原料として使われている。舅である宗久を通じて、信長の許可を得た後に、堺奉行の管理の下、硝石を作っている。普段は南蛮より購入しているのだが、高価なため、買う量が制限されている。しかし独自で火薬を作る技術があれば、南蛮より火薬を買わずにすむ。織田家は火薬にかける金を節約でき、火薬を使い放題出来ることから、よく利用している


「この時期だと、長篠の戦いだな。」


1575年、武田勝頼が徳川に寝返った奥平貞昌が籠る長篠城を攻める事が長篠の戦いが始まるきっかけとなる。その際に、信長は鉄砲3000丁を用意し、武田軍を破ったのである


「3000丁分の火薬を用意しないとな。」


もう1つ、俺が手掛けていたのは新式の鉄砲である。それはフリントロック(火打石)式の鉄砲の製造である。恐らく世界初の試みだろう。今までの鉄砲は火縄式で、天候に左右されるのが弱点だが、フリントロック式は天候に左右されずに、撃つことができる。だが日本産の火打石は品質が悪く、発火が弱いため鉄砲向きではないというのがフリントロック式の鉄砲の生産には至らなかったが、前世の記憶をフル活用し、試行錯誤の末、独自の火打石が完成した。試しに雨の日にやってみたら、撃てたことで成功した


「一応、500丁はできてるけどな。」


信長が堺に来た時に、ちょうど雨の日だったため、このフリントロック式の鉄砲を披露した結果、信長から即採用され、フリントロック式の鉄砲の生産を開始した。そんなこんなで今井宗久が帰ってきた


「南蛮船の建造は許可された。だが1つの注文があった。」


「何でしょう。」


「鉄砲3000丁だ。」


「何と(やっぱり。)」


やはり要求してきたか。俺は内心、これで勝てると見込んでおり、火縄式の鉄砲の生産も続けていた。ようやく長篠で実戦だ


「それと例の火打石式の鉄砲も用意せよとのお達しだ。」


「はい、500丁は用意しています。」


「うむ、火縄式の鉄砲2500丁、火打石式の鉄砲500丁を導入するか。」


「えぇ、武田との戦で真価が問われますね。」


俺たちは火縄銃と火打石銃の入った箱と自家製火薬を乗せた船が尾張国へと運ばれた。そのころ信長率いる3万の大軍が三河に入り、家康と合流した。信長が休息を取っていると、長篠城から使者がきた


「某、奥平貞昌が家臣、鳥居強右衛門と申します。主の命にて援軍を差し向けるよう、お願いに参りました」


「うむ、大儀である。3万8千の援軍を差し向ける故、それまで持ちこたえよと伝えろ。」


「ははっ!」


「強右衛門とやら、ゆっくりと休息を取れ、我等と共に参ろうぞ。」


「いいえ、まだ城には主と仲間たちが死守しております。某は1日でも早く、このことを知らせとうございます!」


「そうか、貞昌も良き家臣を持ったな。」


鳥居強右衛門は早速、長篠城へ帰ろうとしたが、途中で武田軍の張った罠にかかり、捕らえられたのである。武田の厳しい尋問にも屈せず、その態度に勝頼は甘い言葉をかけた


「鳥居よ、そなたの口から援軍が来ないと言え、さすれば城兵全ての命を助け、お主に褒美をやるぞ。」


「・・・・分かった。」


鳥居強右衛門は磔にされ、長篠城から見える位置に晒された


「鳥居強右衛門だ!」


「捕まっちまったのか!」


「強右衛門・・・」


主や仲間たちは囚われの身になった鳥居強右衛門を見て、絶望していた。鳥居強右衛門は覚悟を決め、長篠城にいる味方に大声で伝えた


「場内の皆皆様に申し上げる。織田・徳川3万8千の大軍が駆け付ける。諦めずに持ちこたえよ!」


「「「「「ウオオオオオオオオオ!」」」」」」


鳥居強右衛門が命を懸けた報告に長篠城の士気が上がった。一方で勝頼は激怒し、槍で脇腹を突き刺した


「うわあああああああああああ!」


「「「「「強右衛門!」」」」」


「鳥居強右衛門、お前に死は絶対に無駄にはせんぞ。」


名もなき武士、鳥居強右衛門によって一種の希望が芽生えたのであった








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