外伝20:対面とその後の未来

「んん、ここはどこだ?」


俺こと新名内蔵助は何もない平原にいた。俺は確か、仕事を終えて、大坂屋敷に帰って食事をして、風呂に入って、そのまま寝ていたはずなのに・・・・


俺は全く心当たりのない平原で途方にくれ、夢かどうか確かめるべく、頬をつねろうとしたら・・・・


「目が覚めたか、新名内蔵助。」


ふと聞き覚えのある声が聞こえ、振り向くと、そこには・・・・


「え、俺?」


そこには肩衣袴(かたきぬはかま)を着用した斎藤利三が立っていた。なぜ、斎藤利三が目の前にいるのか俺は戸惑っていると・・・・


「ここは、そなたの夢だ、新名内蔵助、いや、もう1人の某よ。」


斎藤利三が言うと俺は頬をつねると痛みがなかった。どうやら本当に夢のようだ。改めて俺は自分の服装を見ると商人姿だった。改めて自分の顔を見ると、男らしく勇ましい顔つきだと感じた


「不思議なものだな。」


「はい?」


「まさか、商人になっていたとは某も驚きだ。」


「あ、すいません。」


斎藤利三はまさか自分が商人になっているとは思っておらず、無表情で俺を見ていた。根っからの武士である斎藤利三にとっては屈辱なのだろうか。俺は一応、謝罪はした


「申し訳ないが、なぜ俺を?」


「そうだったな、まずは、そなたはなぜ、商人になったのだ?」


「あ、はい。まぁ話せば長くなりますが・・・・」


「構わぬ。」


斎藤利三からなぜ商人になったのか理由を問われた。俺はありのままを話した。本来の斎藤利三の歴史を聞かせると斎藤利三は少しばかり顔色が悪くなっていた


「そうか、某は後の世に謀反人として名が刻まれるのか。」


「はい、残念ながら・・・・」


「まさか明智殿が謀反を・・・・」


「はい・・・・」


斎藤利三は自分が歩む未来に少なからずショックを受けているようだった。本来の斎藤利三は明智光秀と共に豊臣秀吉に討たれたのである。ちなみに俺のいる世界では、お福こと春日局がいない。歴史が変わり、誕生するはずだった歴史的人物がこの世にいないのだ。良くも悪くも歴史の流れは恐ろしいものだ。そう考えていると斎藤利三が俺の方を向いて質問をしてきた


「ところで、そなたは何者だ?」


「あぁ、そこですか、分かりました。説明します。俺はこの先の未来から来ました。」


「未来から?」


俺は前世の事を話した。前世の俺は死亡し、戦国時代に転生し、斎藤利三に憑依したこと、日本の未来の事や、本来の歴史の流れを話した。斎藤利三は最初、半信半疑だったが、織田信長の死後の事を話したら信じるようになった


「そうか、某が死んだ後の未来は、そうなっていたのか。」


「はい、本来だったら明智光秀の謀反によって織田信長は死に、明智光秀を討った羽柴秀吉、後の豊臣秀吉が天下を統一し、秀吉の死後、徳川家康が征夷大将軍になり天下を統一しました。貴方の娘であるお福は、徳川家康の孫である徳川家光の乳母になっていたはずでした。」


「そなたが、某に成り代わって、商人として活動していたことで歴史が変わってしまったのだな。」


「・・・・はい。」


俺としては斎藤利三の人生を変えるべく頑張ったが当の本人の意思を無視したようなものだ。俺は叱責や罵倒を覚悟したが意外な言葉が帰ってきた


「まぁ、なってしまった物は仕方がないか。それに面白き物が見れたしな。某が知らない異国の事も知ることができた。」


「利三さん。」


斎藤利三は俺が持つ未来の知識に興味があり、石鹸、真田紐、ツルハシ、スコップ、猫車、ガレオン船、ライフリング式のフランキ砲、火打石式の鉄砲、炮烙火矢、投石機等を拝見し、好奇心をくすぐったのだという


「それにしても稲場良道殿は酷い男でござるな。そなたほどの麒麟児を重用せんとは・・・・」


「恐れ入ります。」


「だが妻子と別れたのはいただけんな。」


「申し訳ありません。」


どうやら稲場良道(稲場一鉄)の事で同情されたが、妻子と別れたのは斎藤利三には受け入れられなかった


「まぁ、過ぎたことを言っても仕方がない。おかげで若い娘を妻に迎えたのだからな、それにしてもお主も好きじゃのう♪」


「あははは・・・・・」


俺は苦笑いするしかなかった。斎藤利三は話を終えた途端、背を向けた


「斎藤さん、どちらへ?」


「新名内蔵助殿、そなたの中でじっくりと眺めているぞ。では、さらばだ。」


そういうと斎藤利三は姿を消したと同時に俺は目を覚ました。俺は念のため、頬をつねると痛みがあった。どうやら現実の世界のようだ


「とりあえず頑張るよ、斎藤利三。」


俺は俺の中にいる斎藤利三にそう言いかけ、日課の鍛錬をするので行った。それからの俺は織田信長・織田信忠二代に仕え、俺の娘が織田信武の側室となり、跡継ぎである吉法師(後の織田信利)を産み、俺は将軍家と親戚になった。それから歳月が経ち、俺は75歳で引退し、大坂屋敷にて静かな余生を送りつつ、とうとう俺の寿命が尽きようとしていた


「我ながら良き人生だった。」


俺の意識が遠退いていくと・・・・


「内蔵助殿。」


俺の頭上に声が聞こえた。そう斎藤利三の声だった。幻聴ではなく、紛れもなく本人だと・・・・


「なかなか楽しかったぞ、さあ、某とともに黄泉の国へと参ろうぞ。」


どうやら斎藤利三は俺を迎えに来たようだ。一人であの世に行くのも寂しかったから、ちょうど良かった


「あぁ、行きますよ。」


「うむ、では参ろうぞ。」


俺は声に従い、俺は意識を失い、そのまま斎藤利三とともにあの世へと旅立つのであった。俺と利三は天へ昇る途中、地上を見ていた


「内蔵助殿、あの世にて日本がどうなっていくか見届けようぞ。」


「まぁ、本来の歴史よりはマシにはなりますよ。」


「それは楽しみだ。」


あの世へ向かう途中、俺はふと地上に向かって叫んだ


「それじゃあな、達者で暮らしな!楓、みんな!」


俺と斎藤利三はあの世にて日本の行く末を見守るのであった




俺こと新名内蔵助はこの世を去り、再び現代へと生まれ変わった。俺は新名家の遠い遠い縁戚の家系に生まれ、現在は、とある大学院の助教授を務めている


「まさか、戦国時代で培った知識が生かせるとは・・・・」


俺が現代に生まれ変わった後、日本は大きく変わっていた。どうやら俺の死後、日本は、更に領地を広げ、現在の日本列島・北海道・樺太・千島列島・カムチャッカ半島・アラスカ・カナダ・沖縄諸島・台湾・フィリピン諸島・オーストラリア・インドネシア諸島・ボルネオ島・ニューギニア島・ニュージーランド等に至るまで広がる広大な国家を樹立したという。その影響からか、現代でも日本は国際連合の常任理事国として活動している。ちなみに日本国の首都は大坂であり、現内閣総理大臣は織田信博(織田信長の子孫)である


「ははは、俺は本当に歴史を変えちまったようだ。」


俺自身の家系も、新名内蔵助の息子である新名利次郎の子孫であり、本家は新名ホールディングスの会長を務める新名敏行という人らしい。俺自身、新名敏行にあったことはない


「まあ、今までの日本よりかはマシだな。」


現代日本と違い、遥かに優位な立場にいる。日本は超大国としての地位を築き、アメリカやロシアや中国と互角に渡り合っている。それは置いといて、俺はどんな生活を送っているかというと・・・・


「うん、戦国時代から培った歴史が役立つな。今では大学院の助教授だ。」


俺は歴史の知識を生かし、とある有名大学の大学院の日本の歴史学科に入り、そこで好成績を収め、大学院の教授より助手を任された。その後、トントン拍子で出世し、現在は若くして助教授である。順風満帆な人生だが、いま一つ物足りなかった


「はあ~、楓がいない、分かってはいたけど・・・」


そう愛妻である楓がいないことである。楓は俺が死んで3年後の亡くなった。その後、あの世で一度、あったきり、一度も会えていない。楓もまた俺と同じで転生しているとは思うが・・・・


「会いたいよ、楓。」


そんなこんなで両親から見合い話がきた。いつまでも相手のいない俺に業を煮やし、相手をセッティングしたのである。何、勝手な事してんだと思ったと、両親に反論したが、孫の顔が見たいという願いもあってからか、俺は渋々、見合い話を受けた


「見合いなんて、いつの時代だよ。」


「何を言ってるの!」


「ほら着いたぞ。」


そして俺は両親と一緒に新名家が経営する料亭に入った。俺は正装に改め、正座しながら待っていた。楓への想いもあったが、いつまでも独身というわけにもいかない。楓への想いを封印しつつ、ようやく見合い相手がやってきた


「すいません、お待たせしました。」


見合い相手側がやってきた。品のいい紳士と御婦人と御令嬢が入ってきた。その御令嬢の姿に俺は目を見開いた。何と、その御令嬢は楓と瓜二つだった。互いに挨拶し、自己紹介をした


「初めまして、飯島楓(いいじまかえで)と申します。」


「はい、新名勇(にいないさみ)、こちらこそ、よろしくお願いします。」


しかも楓とは、ますます分からなくなってきた。もしかして楓が転生した姿のなのか、他人の空似か分からなくなったが・・・・


「内蔵助殿、楓でござるぞ!」


俺の頭に男の声がした。男の声は明らかに斎藤利三の声だった。もし斎藤利三の言ったことが本当なら、俺は目の前にいる令嬢が、あの楓だと。そこから見合いは順調に進み・・・・


「後は若い物同士のみにしましょう。」


「そうですな、勇、しっかりやるんだぞ。」


「楓、貴方もよ。」


「「は、はい。」」


俺の両親と楓の両親は退出し、部屋には俺と飯島楓のみが残った。正直、気まずい思いもしたが、黙ってもいられず話しかけようとした瞬間・・・・


「「あの!」」


「あ、すいません。」


「いいえ、貴方の方からどうぞ。」


「はい、私の勘違いでなければ、いいのですが・・・・・以前、どこかでお会いしましたか?」


飯島楓からの突然の告白に俺は驚いた。まさかと思いつつ、俺も・・・・


「奇遇ですね、実は私も・・・・」


「そうですか、でも記憶がないのですが、どこか懐かしいような感じがいたしました。」


「そ、そうですか。」


楓いわく、記憶がないけど、どこかで会ったことがあると、あやふやながら答えた。俺は間違いなく楓だと確信した。あの声の主が斎藤利三なら、目の前にいる女性が楓だとはっきり答えた。そう信じるしかない


「あの、突然ですいませんが、結婚を前提で付き合ってくれませんか!」


俺はこの直感を信じ、飯島楓に告白した。飯島楓は驚きつつ・・・・


「あ、はい。よろしくお願いします。」


俺と飯島楓は正式にお付き合いすることになった。そこから互いに家に生きつつ、新名内蔵助ゆかりの地である堺に行った。堺は文化都市・産業都市・経済都市等として現在でも繁栄しており、堺の新名屋も現存している


「勇さん。」


「何でしょう?」


「私はここを何度も訪れた事がありますが、ここへ来ると我が家に帰ってきた気分がいたします。」


「奇遇ですね、俺もそうです。」


「勇さん、私もしかしてここで一度会った事があるかもしれません。」


「・・・・楓さん、俺の御先祖である新名内蔵助の妻が楓といいます。ご存知でしたか?」


「はい、偶然ですが私の名前の楓なので・・・・」


「あの楓さん、前世の記憶を信じますか。」


「前世の記憶ですか?」


「ええ、俺には前世の記憶があります。戦国時代にいたころです。」


俺は楓の俺自身の前世の記憶を語った。楓は最初、半信半疑で聞いていたが、途中から涙をこぼした


「か、楓さん!」


「す、すいません。なぜか知りませんが、涙が・・・・」


俺は場所を移し、人通りが少ない公園のベンチに座った。俺は楓を落ち着かせた


「大丈夫ですか?」


「はい、なぜ涙が出たのでしょう、私・・・私。」


「楓。すまない、俺が勝手に昔の事を話して・・・・」


「いいえ、私自身、何かを思い出せそうな気がします。」


「楓・・・・俺と結婚しよう。」


「えっ。」


「実は俺、今日、プロポーズしようと思っていたんだ。ムードもへったくれもないけど、もう一度、俺の妻になってくれ。」


俺は楓にプロポーズした。楓だと確信しつつ、俺はもう一度、楓と一緒になりたいと心から思った。楓の方はというと・・・・


「ふふふ、昔とちっとも変わっていませんね。」


「楓、お前、記憶が・・・」


「ええ、お久しゅうございます・・・旦那様。」


「楓!」


俺は楓を抱きしめ、ようやく再会を果たした。その後、俺と楓は結婚した。場所は新名神社である。新名神社(大阪府豊能郡豊能町)は新名内蔵助を御祭神として祀られ、商売の神様として有名である。新名内蔵助の死後、朝廷から商人としては異例の官位【正三位】追贈された。新名神社の御利益は【商売繁盛・金運円満・財運福徳・武運長久・開運長久・家内安全・縁結び】であり、多くの事業家と実業家と企業家と起業家と経営者が参拝に訪れ、神社結婚式もある。俺と楓の新たな人生を歩むため、この新名神社で結婚式をしようと決めていた。俺たち二人、いや今は三人かな、実はできちゃった婚です


「楓、今度もよろしくな。」


「ええ、よろしくお願いします、旦那様♪それと腹の子供もおりますからね。」


「ああ、男でも女でもいいから、会いたいわ!」






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