第29話:改変
織田信長は本能寺にて京の公家や商人や文化人を招いて接待をしていた。そして自慢の茶器を披露し、公家や文化人は見惚れていた。しかし信長はモヤモヤした気分だった
「(ときは今 あめが下知る 五月かな。何か引っかかる。)」
光秀が歌った連歌がきっかけで、ずっとモヤモヤとした気分だった。何か引っ掛かる
「上様。」
「ん。」
そこへ森成利が声をかけてきた。ワシが黙ったままなのを、不思議に思い声をかけてきたのだ。ワシもまだまだだな・・・・
「いかがなさいましたか?」
「いや、少し考え事をしていた。」
「考え事とは?」
「ああ、光秀が歌った【ときは今 あめが下知る 五月かな】という歌が気になってのう。」
それを聞いた公家や商人や文化人は光秀の歌を高く評価したが、少なからず意味を察知した者たちがいた。その一人が阿弥陀寺の住職である清玉上人である
「(光秀は土岐氏の出、あめが下知るは、天の下、つまり天下、つまり土岐の一族である明智光秀が上様を討ち、天下を取るということか!)」
接待が終わった後、清玉上人が信長に近づき、警告をした
「おお、どうした清玉和尚?」
「上様、お気を付けください、明智殿が謀反を起こそうとしています。」
「何?」
「明智殿が歌ったあの歌の意味は、土岐の一族である明智殿は上様を討ち、天下を取るという意味でございます。早く京を出てください。」
普通だったら、聞き流しているが、それを聞いた瞬間、自分自身にあったモヤモヤがスッと消え去った。信長は光秀が謀反を起こすことに気付いたのである。信長は近くにいた森成利と元奴隷の黒人である弥助に命を下した
「お乱、すぐに京を出て、安土へ戻るぞ!」
「はっ!」
「弥助、お前は信忠に知らせろ、ワシとともに安土へ戻るとな!兵は置いていけとな!」
「ハッ!」
弥助は本能寺を出て、妙覚寺にいる信忠に知らせた。信忠は初めは半信半疑だったが、父の命とあれば、仕方なく、側近たちとともに、妙覚寺を出た。そして信長と合流した
「父上、随分、急ですな。」
「当たり前だ、命を狙われているのだからな!ちっ!ワシも老いたわい。」
「でも帝にご挨拶は・・・・」
「せんでも良い!今は安土に戻る方が先だ!」
「はっ!」
信長と信忠は側近のみを引き連れ、安土へ逃亡するのであった。その様子を見ていた忍びがいた
「どうやら信長様と信忠様が無事に京を出られたようだな。」
その忍びの正体は新名内蔵助の命で信長・信忠を監視させた忍びであり、信長と信忠の身に万が一の事があれば、救出するつもりだったらしく、その後、信長一行が安土に到着した事を見届け、堺へと帰還した
そのころ光秀は重臣たちに自分の想いを伝えた。光秀のそばにいたのは、明智秀満・明智光忠・藤田伝五・溝尾茂朝、そして煕子の父であり舅の妻木広忠である
「私は本能寺にて信長様を討つ決意である。」
それを聞いた5人は驚愕し、問いただした
「義父上、正気にございますか!」
「それでは謀反になりまする!」
「やはり近江坂本・丹波を召し上げられたことですか!」
「殿、どうか御考え直しを!」
「婿殿、お答えなされよ!場合によってはそなたを止めねばならぬ!」
5人の問いかけに光秀は静かに答えた
「勿論、覚悟の上でござる。我ら、明智家は上様の御厚恩のおかげで、ここまで大きくなれた。だが信長のやり方は常軌を逸している。このままいけば、我等はいずれ林・佐久間のように領地を没収の上、追放されるだろう。ワシは家臣たちを路頭に迷わせるわけにはいかぬ。それゆえ謀反を起こすのである。」
光秀の悲愴な面持ちで語り、5人は黙ってそれを聞いていた。5人も少なからず、信長のやり方に不満を持っていた。だが明智家のために尽力したのである、だが光秀が信長を討つという覚悟を感じ取り、5人は腹を決めるのである
「分かりました。義父上に従います。」
「某も義父上に同心いたします。」
「こうなれば一蓮托生、殿にどこまでもお供いたします。」
「我ら、殿と共に死にまする。」
「婿殿が左様な考えなれば、某も同心しよう。」
「・・・・かたじけない。」
光秀は軍を整え、中国出陣前に京にいる信長に閲兵式を行うことを全軍に知らせ、京へ向かっていた。その道中で百姓と出くわした
「殺せ。」
「はっ!」
部下に命じて、百姓に斬りかかる部下、それを見て逃げ出す百姓たち、しかし多勢に無勢、百姓たちは切り殺されたのである。そのまま京へ目指した。本能寺に到着したのは明朝だった。先陣として明智秀満が本能寺の門が空いていて好機と思った秀満は号令をかけた
「かかれええええええ!」
「「「「「オオオオオオオオオ!」」」」」
伝令が光秀の下を訪れ、本能寺に入った事を伝えると・・・・
「敵は本能寺にあり。」
光秀はそう言い、どっしりと構えた。そのころ秀満は本能寺に入ったが、出てきたのは侍女と小者だった。秀満は本能寺内をくまなく探し出したが、見つかったのは逃げ遅れた侍女や小者のみだった
「おい、信長はどこだ!」
「は、はい!それが突然いなくなってしまい、私どもは途方に暮れておりました!」
「な、何だと!」
秀満の背筋に悪寒を感じた。まさか、謀反に気付いたということか、すぐに伝令を光秀の下へ向かわせた。伝令により信長が不在と知った光秀は・・・・
「い、いかん。まだそんな遠くにいっていないはずだ、安土だ!安土を目指せ!」
「明智殿、これはどういう事でござるか!」
光秀を問いただしたのは織田信長よりつけられた与力衆である。与力衆は閲兵式が行われることしか聞いておらず、突然の謀反に驚き、光秀を問いただした
「この者たちを斬れ!」
「ははっ!」
「なっ!この裏切り者!」
与力衆たちは明智軍に斬られ、息絶えた。光秀は与力衆の死体を放置し、急ぎ安土へ向かった。そのころ信長は安土に到着し、軍備を整えていた
「父上、忍びの報告によると明智軍は本能寺を襲撃したそうです。」
「危機一髪だったな。」
「それでどうなされますか?」
「決まっている!近畿にいる織田信雄・織田信孝・丹羽長秀・池田恒興・筒井順慶・高山右近・中川清秀・細川藤孝等に号令し、謀反人、明智光秀を討つ!」
「ははっ!」
信長は近畿にいる家臣たちに檄を飛ばし、明智討伐の兵を進めた。織田信雄・織田信孝・丹羽長秀・池田恒興・筒井順慶・高山右近・中川清秀・細川藤孝等が挙兵し、明智討伐が始まったのである。安土に向かう途中で、それを知った光秀は歯がゆい思いをしていた
「くっ!信長を討ち取れなかったのは我の痛恨の極み。」
「殿、いかがなされますか!このまま安土を攻めまするか!」
「たわけ!向こうとて、我等を待ち構えているはずだ!我等は都へ引き返す。都には帝がおわす。我等が京に布陣すれば、迂闊には手は出せまい!」
光秀は京の都を盾に、織田軍を迎えようとしていた。京の都に討ち入れば、その時点で逆賊となるのだ。光秀は信長の首を諦め、都へ戻った
「逆賊、明智光秀より都を守るぞ!」
「「「「「オオオオオオ!」」」」」
しかし悪いことに既に都は細川藤孝が抑えていた。細川藤孝は光秀の謀反に驚き、信長が生存していること知るや、真っ先に上洛し、都を制圧したのである。それを知った光秀は・・・・
「坂本だ!坂本へ引き返すぞ!」
明智軍は坂本に引き返し、籠城をすることにした。それから時が過ぎ、坂本周辺は明智討伐の兵が包囲しており、その中に織田信長もいた
「謀反人、明智日向守よ、覚悟せよ!」
信長の号令で明智討伐軍が城を攻めた。そしてフランキ砲や焙烙火矢が火を吹いた。明智軍もフランキ砲と火打石式の鉄砲と焙烙火矢で迎え撃ったが、火力は討伐軍の方が勝っており、坂本城は段々と段々と無残な姿になっていく有様であり、光秀の舅、妻木広忠と溝尾茂朝は砲弾に直撃して死亡した
「殿、いかがいたしましょう!」
秀満が光秀に指示を仰いだが、当の光秀は・・・・
「・・・・どこで間違えた、どこで間違えた。」
まるで壊れたオルゴールのように繰り返し、喋るだけになってしまった。秀満はもはやこれまでと光忠・伝五等と図り、天守閣に火薬の入った壺を集めた
「もはやこれまで我等は殿とともに自爆するぞ!」
「「オオオオオオオオ!」」
秀満は導火線に火をつけ、秀満・光忠・伝五は切腹をし、光秀は壊れたオルゴールのように繰り返し・・・・
「どこで間違えた。」
そう言った瞬間、引火し、坂本城の天守閣が爆発した。それを見た信長は・・・・
「馬鹿者が・・・・」
そう言い残し、信長は坂本を後にするのである。歴史で起こるはずだった本能寺の変は、未遂に終わり、光秀は坂本城で無念の最期を遂げたのであった
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