第28話:予兆
新名内蔵助だ、俺は今、京の都にいる。何でかって?用事で来ているんだよ
「なんでこの時期に・・・・」
俺はさる御方の依頼で京に来ている。そのさる御方は近衛前久卿である。五摂家筆頭の近衛家出身であり、公家でありながら乗馬や鷹狩りを好み、上杉謙信や織田信長等、戦国大名と交流がある非常に活動的な御方なのである。その御方から石鹸の注文があったと同時に俺に会いたいと仰ったのだ。だが相手が相手だから断るわけにもいかず、そんなこんなで近衛邸にいる
「新名屋、今日はよくぞ来てくれたのう。」
「ご拝顔の栄によくし恐悦至極に存じ奉ります。」
「うむ、苦しゅうない。」
「ははっ!」
五摂家筆頭の近衛家の当主が俺に会いたいだなんて、一体どんな用事なんだよと心の中で思っていると・・・・
「うむ、そちは元は織田家の家臣と聞いたが?」
「はい、武士の世に無情を感じ、自由に生きる商人に憧れ、上様に暇を貰い、現在は商人として活動しております。」
「なかなか風変わりな事をしよるな。織田殿も気に入るわけやわ。」
「畏れ入ります。」
「麿も鷹狩りや馬術を好むから、周りからは【型破り関白】と陰口を叩かれているが、織田殿とは不思議と気があっての、同じ匂いを感じる新名屋にも興味を抱いたのじゃ。これも何かの縁じゃ、これからも交友を深めていきたい。」
「畏れ入ります。」
「まぁ、ゆるりと京見物をするがよい。」
「ははっ!」
できれば今すぐ帰りたいのだが、関白の不興を買えば、うちの商売上がったりだよ・・・・
でも一度は京見物してみたいと思ってもいたので御言葉に甘えることにした
その頃を安土では徳川家康を招いて、盛大な宴を催された。接待役は明智光秀が勤めたが、とある問題が起きた
「光秀!なぜ京の料理を出した!」
「申し訳ございません!」
光秀は京風の味付けの料理を家康に提供したのである。京風の料理は淡白、薄味が主流で、信長と家康は塩の利いた田舎風の料理を食しているため、信長は激怒したのである
「織田殿、どうかお怒りをお沈めください!京風の膳もなかなか風流でござるぞ。」
家康は気を利かせて、信長を宥めた
「あい済まぬ。」
「いいえ、某は田舎者にて。」
「はぁ~、光秀、もう良い。」
「ははっ。」
光秀はトボトボと席を後にした、やってしまった。よく考えれば、2人は普段から塩辛い料理を食べていたにも関わらず、光秀は良かれと思って出した京風の料理で不興を買ってしまったのである。その後、急使が信長の下を訪れたのである
「ハゲネズミの奴が援軍の要請をしてきおったわ。」
「筑前殿にござるか?」
「あぁ、毛利が予想以上に手強いらしい。」
「援軍を送られるのですか?」
「出さずばなるまいて。キンカンに行かせるか。」
「明智殿ですか?今は接待役では?」
「接待役は別の者にやらせる。」
信長の命を受けた森成利は、光秀の下を訪れ、信長の命を伝えた
「日向守殿は本日より接待役の任を解き、中国の羽柴筑前守の援軍に行ってもらいます。」
「承りました。」
「なお、近江坂本、丹波を召し上げの上、石見・出雲を与える。」
それを聞いた光秀は呆気に取られ、成利に尋ねた
「今、何と?」
「近江坂本、丹波を召し上げの上、石見・出雲を与えるとの事です。」
近江坂本と丹波を召し上げだと!それに石見・出雲を与えるというが、まだ毛利の領地ではないか!と光秀は心中で思っていたが上意が出た以上、従わざるをえなかった。森成利が退出した後、光秀は途方に暮れていた
「なぜだ。なぜ上様は・・・・」
森成利は信長に上意を伝えた事を報告するとともに信長にある質問をした
「上様、なぜ日向守殿の領地である近江坂本と丹波を召し上げられたのですか?」
「うむ、光秀の才覚は近江坂本、丹波は狭すぎる。あやつには、もっと大きくなってもらわねばならぬ。これからの織田家のためにも明智家のためにもな。」
「はぁ~。」
信長は光秀を更なる成長を促すためにあえて、厳しい道へ放り込んだのである。可愛い子には旅をさせよという諺を用いて、光秀に発破をかけたのだが、親の心、子知らずと言うべきか光秀にはそう受け取れなかったのである
「上様は明智家を滅ぼすおつもりか。」
よくよく考えれば、佐久間信盛と林秀貞といった織田家の家老衆が追放された事例がある。もしかして自分のその候補にあるのではないかと考えが過った
「いや、そんなはずはない!上様に限ってそのような・・・・」
仮にそうだとしても、また一から領地を作り直さなければいけないと思うと、益々休む機会が減ってしまう。もはや光秀の疲労が限界を超えていたのである
「なんでワシがこんな目に遭わねばならぬのだ・・・・」
光秀は自問自答をした後にある結論に至った
「そうだ、元を断てばいいじゃないか。そう信長さえいなければ・・・・」
光秀は信長への謀反を決意した瞬間であった
やあ、京見物は楽しいな♪俺こと新名内蔵助は京見物の最中である。清水寺に、金閣寺、銀閣寺といった京の名所を回った。更に近衛前久卿の計らいで、やんごとなき御方や文化人と交流を深めることができた
「今日は愛宕山だな。」
今日は愛宕山にて愛宕神社や月輪寺といった名所を観光する
「そういえば愛宕山といえば何か引っ掛かるな。」
俺は愛宕山で何かモヤモヤした気分のまま愛宕神社に参拝した
「商売繁盛がなりますように。」
俺がそう願うと背後から声がした
「内蔵助殿ではござらぬか。」
「えっ?」
声をした方へ振り向くと、そこには明智光秀がいたのである。しかし前よりも痩せているというか、やつれていた
「ひゅ、日向守様。」
「久方ぶりだな。なぜ都に?」
「ええ、関白殿下より仕事の依頼がありまして・・・・」
「そうか、どうかな。一緒に連歌の会に行かないか?」
「連歌の会ですか。」
「あぁ、私はこれより中国へ行く。そなたと会えるのも今日で最後になるかも分からん。是非、参加してほしい。」
「分かりました。」
俺は連歌の会に参加した。京の名だたる文化人がおり、お会いした事のある文化人たちと会えた。そして連歌の会が始まった。俺は織姫・彦星に、ちなんだ連歌を披露し、光秀を始め多くの文化人から高く評価された。そして光秀の出番が来ると・・・・
「ときは今 あめが下知る 五月かな。」
それを聞いた俺は背筋がぞっとした。思い出した、光秀が謀反を決意する瞬間だということを・・・・
そして連歌の会が終わり、俺と光秀は別れることになった
「内蔵助殿、では私はこれにて・・・・」
「日向守様、ご武運をお祈り申し上げます。」
「うむ、さらば。」
そういうと光秀は去っていた。その後ろ姿はどこか寂し気な雰囲気を醸し出していた。そして俺はというと、このままでいいのかと考えた。今日の事を何も聞かなければ、史実通りに本能寺の変が始まる。しかし信長の天下を見てみたいという気持ちもある。俺は迷いながら京の町を彷徨っていると・・・・
「これは内蔵助殿ではないか!」
「え?これは新五郎殿!」
俺が会ったのは斎藤新五郎利治、斎藤道三の末子で、俺の最初の妻の姉弟であり、義弟でもある
「内蔵助殿、今日は何用で都へ?」
「ええ、仕事の都合で上洛し、これより堺へ帰るところです。」
「そうか、そうだ。信長様も上洛され本能寺に滞在されている。是非、会ってくだされ!」
「分かりました(まあ、挨拶くらいなら・・・・)」
俺は斎藤利治に連れられ、京の本能寺にいる信長に対面した
「おお、利三。京におったのか!」
「はい、都へは仕事があり、それも終わらせたので、これより堺へ帰る予定です。」
「そうか。ワシは中国のいる秀吉の援軍じゃ。全く世話がやける。」
「そうですか、そういえば愛宕神社にて日向守様と御会いしました。」
「ほお、光秀と。」
俺は光秀と連歌の会に参加したことを報告した。そして光秀の言ったあの歌を信長に教えた
「ときは今 あめが下知る 五月かなか、キンカンがそう言ったのか。」
「はい、日向守様が歌った連歌にございます(気付いてくれるかな?)」
信長はこれといって気付いた様子はなく、平然としていた。やはり信長自身も天下に近づいた事で油断してるんだなと思い、挨拶を済ませた後、俺は堺へ帰るのであった
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