第27話:考察
1582年、ついに武田が滅亡したのである。史実とは違い、松姫は信忠の下におり、勝頼は丁重に葬られたのである
「信忠、此度の武田攻め、見事であった。」
「ありがたき幸せ!」
「此度の戦いでお主の名が天下に轟いた。ワシの跡継ぎとしてこれからも精進するように!」
「ははっ!」
信長は息子を誉めると同時に、叱咤激励を送った。そして信忠の隣にいる松姫に目を向けた
「松姫、そなたはもう織田の人間じゃ、信忠の事を支えてくれ!」
「はい。」
信長は松姫を織田の人間と言った上で、次のためのようなことを言った
「我等と武田は些細な行き違いで敵味方となってしまった。ワシはそなたの父、武田信玄公を尊敬していた。そなたの兄、武田勝頼は父に負けず劣らずの優れた将であった。そなたの役目は信忠との間に子を産み、武田の血脈を残す事が、亡き信玄公、勝頼への弔いとするがよい。」
「はっ!兄も信忠様の下で幸せになれと仰いました。これからは織田の人間として尽くす所存にございます。」
「うむ、両名とも大儀である。」
「「ははっ!(はい!)」」
諸々の処置が終わり、宴が始まった。織田信長・織田信忠・徳川家康・明智光秀・滝川一益・河尻秀隆・森長可等が集まった。特に信忠は武田討伐の功労者であり、皆から信長の後継者として箔をつけることができたのである
「皆の者、大儀であった。我等の宿敵、武田を滅ぼし、天下布武に一歩、全身することができた。」
「「「「「ははっ!」」」」」
「信忠、特にお主の働きは見事である!」
「ありがたき幸せ!」
「三河殿も高天神での働き、見事である。」
「我等は織田殿の同盟国として働いたまででござる。」
「うむ、ん、光秀、どうした?」
信長は光秀の様子がおかしいことに気付き、声をかけた
「・・・はっ。」
「疲れたか?」
「いいえ、武田との戦に勝利した事で喜びに満ち溢れております!」
「うむ、これより日ノ本を統一せねばならぬ、そちにも一層働いて貰うぞ。」
「はっ!望むところにございます!」
「うむ、今日は無礼講だ。存分に飲むがよい!」
「「「「「ははっ!」」」」」
宴が始まり、長年にわたる武田との戦をようやく果たした諸侯は、酒を飲みあい、憂さを晴らした。やがて宴が終わり、自分の陣営に戻る明智光秀は疲れ切っていた
「いつまで働けばいいんだ・・・・」
光秀は長年に渡って戦場や外交や内政を務め、その疲労が年齢とともに蓄積され、心身ともに蝕んでいた
「いや、弱気になるな!まだだ、まだやれる!上様の天下布武のために!私のために亡くなった熙子のためにも!」
光秀は自分自身に活を入れた。かつて自分が病に倒れて看病した妻、熙子は看病疲れで病を煩い亡くなった。自分のせいで熙子が亡くなった事に責任を感じ一層、仕事に励むようになった
光秀は限りある命を燃やしながら信長の天下布武に向けて邁進するのであった。一方、北陸では柴田勝家率いる上杉討伐の兵は着々と進行していった。謙信存命中は、敗れはしたが、謙信死後は【御館の乱】で弱体化した上杉を攻め、連戦連勝を続けた。越後に向けて前田利家と佐々成政は意気揚々と向かっていた
「どっちが越後に到着するか競争しようぜ、又左!」
「負けないぞ!内蔵助!」
「おい成政、利家、先走るでない!」
「親父殿は年なんだから無理はなさいますな♪」
「そうそう俺たち若いもんに任せて親父殿も御体を大切に♪」
「何だと!このクソガキャ-----!」
「おお、親父殿が怒ったぞ♪」
「逃げろ、逃げろ♪」
「今度こそとっちめてやるわ!」
北陸軍は快進撃を進める一方、上杉景勝の論功行賞に不満を持っていた新発田重家ら、反上杉の国人衆は、柴田勝家と同調し、反乱を起こした
「兼続、どうする。」
「心配には及びません!亡き謙信公の御霊がついております!」
春日山城にて上杉景勝は側近の直江兼続と今後について相談していたが、これといった方策がなく、途方に暮れていると・・・・
「御屋形様、越中が織田方の手に落ちました!」
家臣から悲報を聞いた景勝は、もはや降伏しかないと決め、柴田勝家に降伏の使者を出した。上杉方の条件は越後の安堵のみを要求した。勝家は自分の独断で判断するわけにはいかず、信長の指示を仰いだ
「ワシからの条件はこれだ。」
信長の出した条件は織田勝長を上杉家の養継嗣とすること、越後の安堵は認めること、反上杉の国人衆の領地を安堵すること、そして上杉景勝に切腹を命じるとのこと、柴田勝家を通じて上杉方に通達した。これに上杉家の家臣、特に上田衆は激怒した
「これは御屋形様に不利になる条件ばかりではないか!」
「御屋形様、最期の一兵に至るまで徹底抗戦いたしましょう!」
「そうだそうだ!」
上杉家中は打倒、織田信長に燃えていく一方で景勝は・・・・
「ワシは腹を切る。」
「「「「「殿!」」」」」
「ワシが死ねば、上杉家は残るんだ、当主として責任を果たす。」
「「「「「殿。」」」」」
上杉景勝は条件を受諾し、切腹した。直江兼続は弟である実頼に家督を譲り、景勝の後を追って、切腹した。こうして長きに渡る上杉家との戦いは終わりを迎えたのである
「武田が滅び、歴史は違うけど、上杉も織田の手に落ちた。」
俺は自分の知っている歴史を思い出しながら、まとめた。明らかに歴史は変わっているところもあるが、史実通りに動いている。そして、いよいよ本能寺の変が来る。俺は斎藤利三ではなく、新名内蔵助だ。俺は目に見えぬ歴史の闇と戦いながら、どう切り抜けるか考えていた
「結局、明智はなんで信長を裏切ったんだろう。」
俺はふと明智光秀がなんで信長に謀反を起こしたのか、気になっていた。やはり歴史ファンとしては真実を知りたいが、飛んで火にいる夏の虫にはなりたくない。明智光秀の謀反については、怨恨説・野望説・黒幕説等が飛び待っているが、怨恨説については、光秀は最後まで信長を尊敬しており、武田攻めでの「我等も骨を折ったかいがあった」という光秀の言葉に、信長から「お前は一体、何をした!」と折檻を受けたというが、実は創作ではないかとされている。実母が殺されたという話も信長に事前に相談していれば、殺されずに済んだのに独断でやったのはいただけない。野望についても、信長・信忠親子を殺害した後に足利義昭を奉じて室町幕府再興をするとも、自身が征夷大将軍を狙っていたともいわれているが、後に息子の十五郎と細川忠興に天下を譲り、隠居する手紙を細川家に送っている限り、野望説もはっきりいって疑わしい。黒幕説は足利義昭・イエスズ会・朝廷・羽柴秀吉・徳川家康といった大物が絡んでいるという説があるが、正直、誰に殺されてもおかしくないのは確かである
「羽柴秀吉あたりかな、中国大返しなんて、すぐにはできないだろう。」
中国大返しにいたっては絶対に信長が死んだことを事前に知って動き出したのだ。忍びを使って明智光秀を見張り、信長を殺した事を確認にした上で行動を起こしたのだろうと思ったが、黒幕かどうかは怪しいが・・・・
「やはり光秀に聞いてみないと分からないな。」
結局のところ、やはり光秀本人しか分からないし、俺自身、そこに突っ込むつもりはない。俺には新しい家庭があるし、妻や子供たちのために長生きをしたいし、俺はやはり何もしない方向で進めるのであった
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