第18話:平蜘蛛
新名内蔵助だ、織田信長からフランキ砲と共に投石機と焙烙火矢の量産を命じられた。フランキ砲と、新兵器である投石機と焙烙火矢が予想以上の活躍を見せたらしく、信長は大変満足としたそうだ。唯一の不満は石山本願寺との戦いは朝廷の仲介により停戦したようだ
「まぁ、満足できて良かったよ。」
安土城建築前だが、信長から例の瑠璃色の瓦を見たいと言って、俺は物資場にあった瑠璃色の瓦を見せた
「うむ、琵琶湖の底を透かしたような不思議な色をしている。」
「はい、手前が唐人、マオ・ジロウなる者を雇い、焼かせた物にございます。」
「明国の瓦か。この瓦はどこで使ったのだ。」
「はい、堺の教会と高山右近様の御領内の教会に使いました。」
「で、あるか。」
信長は瑠璃色の瓦を観察した後、信長は何も言わずに馬に乗り、岐阜へと帰っていたのである。教会に使用したことがいけなかったのかと、もう瓦は設置した後なのだがと考えていると、奉公人の1人が慌てた様子で俺の下を駆け付けた
「あ、旦那様!やっと見つけた。急ぎ、屋敷へお戻りください!」
「どうした?」
「はい、旦那様にお客様です。」
「客、誰だ?」
俺は奉公人に促され、屋敷へ戻った。楓は俺が来るのを待っていたらしく、俺はすぐに客間に行き、詫びを入れた
「お待たせして申し訳ありません!手前は新名屋の主、新名内蔵助にございます。」
「待っておったぞ、斎藤利三、いや新名屋。」
俺は客の方を見ると、何と、松永弾正久秀が葡萄酒を飲みながら、待っていた。突然の来訪、俺は椅子に座り、来訪の用向きを聞いた
「松永様、今日はどのような御用事で?」
「ん、お主の妻女の顔を見に来たんだ、祝言の時は顔は分からなかったが、実際に会うと、なかなかの上玉だな、お主の妻でなかったら、ワシの側室にしておったぞ。」
「松永様、つまらない要件なら、とっととお帰り下さいませ、おいお客人の御帰りだ!」
「まてまて、冗談だよ、ちゃんとした用事だ。」
俺をちゃかすのを辞め、本題に入った。松永久秀は風呂敷に包まれたある物を俺に差し出した
「松永様、これは?」
「うむ、お主に預かって欲しいのだ。」
「はあ~、構いませんが・・・・とりあえず中身は何です?」
俺がそう言うと、久秀は風呂敷を解くと、それは茶釜だった。見た感じ、平釜で、口が広く、胴部の丈が低く、直羽が大きく出て、底部も浅い形の釜だった
「松永様、この茶釜は?」
「ああ、ワシの秘蔵する茶釜の1つだ、万が一の事を考えて、お主に預けてほしいのだ。」
「万が一とは?」
「ワシも、もう年だ。いつあの世に行くか分からぬ、戦で死ぬか分からぬし、病で死ぬかも分からぬ、もしかしたら女子と交わって死ぬかもしれんしな(笑)」
「はあ~(相変わらずだな、クソジジイ。)」
俺は松永久秀の最期を思い出していた。久秀は信長に謀反を起こしたが、失敗した。信長から平蜘蛛の茶釜を差し出せば、命を助けるという条件を出したが、拒否し、平蜘蛛の茶釜に火薬を入れて、爆死したのである。戦国ファンの間では【戦国のボンバーマン】とあだ名されるようになる
「分かりました。とりあえず、お預かりますね。」
「おお、お主に預ければ、ワシも安心だ。それじゃあワシは帰る。」
久秀は茶釜を眺めつつ、そのまま帰っていた。俺は見送りをしようとしたが、久秀は断られ、そのまま帰るのであった。俺は久秀から預かった茶釜を眺めながら、ある事を考えていた。久秀が信長に謀反を起こすのは分かっていたが、なぜ俺にこの茶釜を預けたのか。あくまで久秀とは茶の湯しか交流がないのに・・・・
「まさか、平蜘蛛だったりして・・・・なわけねえか。」
正直、俺は茶器の事はそれほど詳しくなく、誰かに見せれば分かるかもしれないが、久秀が俺に預けるということは、秘密にしてほしいという可能性があった。俺は誰にも見せずに隠すことにした
「まあ、仮に平蜘蛛でも、大事な預かり物だからな。」
そのころ茶釜を新名内蔵助に預けた松永久秀はと言うと・・・・
「ふう、あの男に渡せば、とりあえずは安心だな、ワシが死んでも預けてくれるじゃろうて。」
松永久秀は再び、信長に対し、謀反を画策していた。しかし信長は許すだろう、愛蔵する平蜘蛛の茶釜を要求するだろう、ワシの命よりも大事な平蜘蛛の茶釜。絶対に渡すものか、だが平蜘蛛の茶釜には罪はない、どうせなら、意外な場所へ隠せばいい。そこで選んだのは新名内蔵助だ。茶の湯しか交流がなく、まさか信長も新名内蔵助に平蜘蛛を預けたとは努々思うまい。それに新名内蔵助、織田家の武士の身分を捨て、商人の道を歩む男、ワシから見ても破天荒な生き方をする面白き男だ。ワシはその破天荒な男にワシの命よりも大事な平蜘蛛の茶釜を託した
「平蜘蛛の茶釜を頼んだぞ、斎藤利三。」
その1年後、1577年、松永久秀は謀反を起こした。信長は久秀の予想通り、平蜘蛛の茶釜を要求したが、秘密を隠したまま、爆死したのである
「信長、平蜘蛛が欲しければ、ワシとともに地獄へ来い!」
後に新名内蔵助は久秀が預かった茶釜が平蜘蛛の茶釜と知ったのは、松永久秀が謀反を起こす間際、遺言書を作成し、忍びの手によって知らされたのである
「松永久秀、あんたは稀代の梟雄だよ。」
俺は1人で茶を飲むときは、平蜘蛛の茶釜を使うことにした。誰にも知られず、死ぬまで秘密を貫き通したのであった
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