第21話:招待

新名内蔵助だ、舅である今井宗久の知らせで安土城の天守閣と本丸が完成したようだ。今井宗久いわく「豪華絢爛」な城だそうだが、防御面に関しては弱く、軍事拠点というよりも織田家の権威を象徴する城だそうだ。ただし本丸の方は落雷によって消失したという


「俺も一度見てみたいけど、安土は遠いな。」


俺は一度でもいいから幻の名城である安土城に見てみたかったけど、安土へ赴くのは結構な距離と銭がかかる。用事がなければ、なるべく避けたいところである。そんなある日、また宗久から手紙が来た


「えっ、俺を安土へ招待!」


何と俺を安土に招待するそうである。どうやら信長が俺と宗久の労を労いたいという事である


「楓、済まないが、舅殿の招きで安土へ向かうことになった。」


「そうですか、父に御会いになられたら、楓は元気にやっているとお伝えください。」


「あぁ、分かった。」


俺は安土への旅の準備をした後に、堺を守る傭兵や忍びたちを護衛につけ、安土へと出発するのである


「では、行ってくる。」


「旦那様、行ってらっしゃいませ。」


「ちちうえ。」


「幸松、母上とお香の事を頼んだぞ。」


「うん、がんばる。」


「うむ、伝兵衛、店の方は任せたぞ。」


「はい、旦那様もお気を付けて。」


俺は堺を出発し、安土へと向かった。安土への道案内は今井宗久が寄越した茂助である。茂助とは俺が今井宗久の下で奉公人として働いていた頃の奉公人仲間である


「いやぁ、気心の知れた相手が道案内で助かったよ、茂助。」


「いいえ、内蔵助様は旦那様の娘婿であり、今井家を繁栄させた御方、旦那様からも、くれぐれも粗相をするなと、お言伝てがございました。」


「まぁ、それならいいんだがな。」


茂助の案内したルートは既に支配下に収めた土地で、道中、山賊が現れず、スムーズに行くことができた。途中で予約をしていた宿に泊まってから、一行は安土へ向かったのである


「この丘を越えれば安土でございます。」


「そうか(道中、何もなくて良かった。)」


丘を越えると、そこには信じられない光景が広がっていた。琵琶湖の近くに安土山があり、そこには城下町が所かしこに、並べられていた


「あれが安土城。」


俺はついに幻の名城、安土城を目にすることができた。遠くから見てもあんな派手な城は日本中、どこを探してもないと断言する


「内蔵助様、安土までもう少しです。」


「あぁ!」


俺は意気揚々と安土へと向かった。そして安土の城下町に入り、堺ほどではないが、安土も活気に溢れていた。何よりも安土城が目につく。遠くから派手だが、近くで見ると、気宇壮大だった。織田家の隆盛を絵に書いたような存在感を放っていた


「内蔵助様、旦那様の屋敷はこちらです。」


「あぁ。」


茂助に案内され、宗久が逗留する屋敷に入り、玄関前で止まった


「ここでお待ちを、旦那様をお呼びいたします。」


そう言うと、茂助が中に入った。数分後に宗久が出てきた


「おぉ、内蔵助、遠路はるばるよう来てくれた!」


「舅殿、此度はお招きいただきありがとうございます。」


「堅苦しい挨拶はいい、とりあえず中へ入れ。」


俺は安土の今井屋敷に入り、用意された部屋に入り、休息を取った。その後、俺は宗久の下へ向かい、今後について聞いてみた


「うん、まずはお前が来た事を知らせておいた。後は使者が来るまで、この屋敷にて待つ。」


「はい。」


「御城にて諸々の準備があるからな、それまでは安土の城下を見学していくといい。使者が来たら、使いを寄越すからな。」


「ありがとうございます。」


俺は宗久に楓の事や孫の様子を話すと、凄く悔しいそうな表情をしていた。何でも兼久が手紙を寄越したらしく、自慢げに書いていたことに、虫唾が走ったそうである。御役目がなかったら、真っ先に孫の顔を見に行きたかったと呟いていました。俺は安土城下の見物がてら、土産を買うことにした。同行者は茂助と傭兵&忍びである。安土城下を見学すると、ところどころ異国の品々や南蛮人を見かける。安土には教会があり、その関係でいるんかもしれない


「まずは楓に何か買っていくか。」


まず楓のお土産を買うことにした。何にするか、考えていると、俺はある店を見つけた。そこは櫛を売っている店だった。楓がいつも髪を櫛で解かしていることを思い出し、櫛を買うことにした。早速、俺は店に入ると店主らしき男が出迎えた


「いらっしゃいませ!」


「この店で高級な櫛はあるか?」


「はい、こちらの高級天然木である緑檀(りょくだん)を使った櫛でございます。」


緑檀、月日期間の経過が長ければ長いほど、緑になり、更に香木らしく、良き香りがする。見た目は緑に近く、試しに嗅いでみたら、良い香りがした


「こちらは当店自慢の品で、南蛮より取り寄せしものにございます。」


「で、いくらだ?」


俺が値段を聞くと、店主は算盤を出し、パチパチと珠を弾き、俺に見せた


「ざっと、こんなものです。」


「ちと高いな、もっと勉強したっていいんじゃないか?」


「そうですな、これでどうですかな?」


「もう一声!」


「ん、ならこれでどうでしょう!」


「よし買った!」


俺は値下げ交渉を制した。堺で多岐にわたって、値下げ交渉をしてきたんだ。そこいらの品々を値下げする事なんて、お茶の子さいさいだ


「すいませんが、もしかしてお客さん、堺から来られたのですか?」


「よく分かったな。」


「はい、あそこは商人の町ですからね。」


店主は苦笑いをしながら、緑檀の櫛を包み、俺に渡した。俺は店を後にして、次に子供たちの土産を買い事にした


「さて、どうしようかな。」


「内蔵助様、こちらに玩具を売っている店がございますよ。」


茂助に案内された店に行くと、色々な玩具が売っていた。店主らしき女性が応対した


「いらっしゃい、お子さんのお土産にどうですか?」


「うん、2歳の子供と赤ん坊でも遊べる玩具はあるか?」


「では、こちらはどうですか?こちら2歳のお子さんにいいですよ。」


店員が木製の独楽だった。しかもキノコみたいな変わった形をしていた


「こちらは1~2歳のお子さんの力でも回せるんですよ。軸が太いですので、小さな指でも回すことができます。」


「へえ~、面白そうだ、買おう。」


「ありがとうございます。」


「後、赤ん坊でも遊べる玩具はあるか?」


「はい、こちらはどうでしょう?」


次に店員が見せたのは、人形だった。といっても小さめだが・・・・


「こちらは、起き上がり人形という玩具で、こうやって指で動かすと、あら不思議、いつの間にか起き上がるのです。赤ん坊は何でも口に入れたがりますが、口に入らない程の大きさで、遊べますよ。」


「よし買った!」


「ありがとうございます。」


俺は幸松に独楽、お香に起き上がり人形を多めに買っておいた、もしかしたら幸松が起き上がり人形を欲しがるかもしれんしな。幹太たちの分の玩具も買った。紐付きの独楽で、みんなで一緒に遊べるようにした


「あとは店のみんなにはと・・・・」


俺は次の品を探していると・・・・


「あ、内蔵助様、見つけた!」


そこへ宗久の使いの者が現れた。使いの者の報告によると明日、安土城へ来るよう言われたらしい


「明日か、まあ、それまで土産を購入しよう。」


俺は店のみんなの分の土産を買い、傭兵と忍びたちに荷物を持たせ、意気揚々と今井屋敷へ戻るのであった

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