第11話:屋根瓦
新名内蔵助だ、今、俺はある仕事に着手していた。堺にあるキリスト教の教会の屋根瓦の修繕である。事の発端は教会の天井から多数の雨漏りがしたらしく、調べたら、雨漏りの穴が至るところにあったのである。その事を忍びの知らせで知り、俺はジロウに命じて屋根瓦を作った。作るだけではつまらないので色つきの屋根瓦を作った。出来上がったのは瑠璃色の屋根瓦、どこから見ても瑠璃色一色である。俺はその屋根瓦を持って、その教会を訪ねた。訪ねた俺を南蛮の宣教師のセニョールが出迎えてくれた。このセニョール神父は、他の宣教師とは違い、純粋に布教活動をしており、奴隷売買には手を染めていない、もし染めていたら、亡き者にしてやるが・・・・
「ソレデ、ニイナサンハ、キョウハ、ドノヨウナゴヨウジデ?」
「はい、教会が雨漏りで、困っていると耳にしました。私は貴方様に良い屋根瓦を御用意いたしました。」
それで俺は桐の箱から、瑠璃色の屋根瓦を見せた。鮮やかな瑠璃色の瓦を見たセニョールは思わず見惚れていた
「ワオ、コレハ、ウツクシイ。」
「どうでしょう、もし我等に修繕を依頼してくれれば、この屋根瓦に張り替えますよ。」
俺の申し出にセニョールは・・・・
「ゼヒ、オネガイシマス!」
そして現在にいたる、破損している瓦を取り除き、修繕用の瑠璃色の屋根瓦に張り替えていた。俺は瑠璃色の屋根瓦の教会を完成するのを待っていた。そりゃ、実際に見てみたいじゃない、黒い瓦よりもカラフルで見栄えがいいから、訪れる信者が、噂を広めてくれる、そして新名屋の名が評判が益々上がるという寸法よ
「新名様、できあがりました。」
「おお、できたか。」
俺は改めて瑠璃色の屋根瓦に満ちた教会を見てみると、やはり黒色の瓦よりも見栄えが良く、より神秘的な雰囲気を増していた。神父であるセニョールも感動し、見惚れていた
「ニイナサン、コレホドウツクシイ、カワラハ、ミタコトガアリマセン。オダイハシハライマス。」
「こちらもいい物を見させていただきましたので、仕事をしたかいがありました。」
「ニイナサンニ、コレヲサシアゲマス。」
セニョールからロザリオをプレゼントされた。カトリック教会において聖母マリアへの祈りを繰り返し唱える際の数珠のような物である
「ニイナサンニ、デウスノゴカゴガ、アランコトヲ。」
セニョールは十字を切り、俺にデウスの加護があらんことを祈った。俺はお代をいただき、そのまま店に帰った
「旦那様、それは何ですか?」
「ああ、ロザリオという、まあ数珠のような物だ。」
「十字の形とは変わってますね。」
「うん、何でもキリシタンの教祖であるイエス・キリストが磔の刑の処せられた形で作られたそうだが、どうなんだか。」
「へぇ、キリストという御方も大変な・・・・うぅ。」
「ん、どうした。」
楓はロザリオを置き、襖を開けて、土間で吐いた
「まさか。」
俺は楓の下へ向かい、背中を擦った。そして嘔吐の原因を言った
「楓、もしかしたら身籠ったのかもしれんぞ。」
「えっ!」
楓は驚いた表情で俺を見つめた。俺は二度、結婚しており、今のは間違いなく、悪阻であり、身籠った証拠である
「とりあえず医師に見せよう。」
「は、はい。」
すぐに医師を呼び、調べてもらったら、やはり妊娠していた
「旦那様とのお子を宿しました。」
「あぁ、男でも女でもどちらで構わん、元気な子を産んでくれ。」
「はい!」
俺はすぐに今井家にも楓が妊娠したことを知らせた。知らせを聞いた今井宗久と兼久親子が駆けつけ・・・・
「舅殿、義兄上、ようこ・・・・」
「「楓はどこだ!」」
俺が挨拶を言い終わる前に、2人から詰め寄られ、部屋にいると言うと、真っ先に部屋へ向かった。俺は追いかけて、楓のいる部屋へ向かうと・・・・
「そうかそうか、ワシの孫か!男か、女か!」
「俺の甥っ子、姪っ子か!」
宗久・兼久親子はこれから生まれる孫(甥&姪)の誕生を今か今かと楽しみにしているようだ、というか生まれた気になってる
「父上、兄上、まだ身籠ったばかりです、まだ男か女か分かりませぬ。」
「そうだな、まだまだだったな。」
「ああ、俺は大丈夫だけど、親父殿は孫が生まれる前に、ポックリ逝きそうだな。」
「何だと!お前だって、遊びすぎて、ポックリ逝きそうじゃがの!」
「何だと!」
「何を!」
「はいはい、舅殿、義兄上、喧嘩はそこまでです。楓には、なるべく負担をかけないでいただきたい。」
俺がそういうと、2人はバツが悪そうに、そっぽを向けた
「ぷっ(笑)」
楓はそんな2人にぷっと吹き出した。そんな様子を見た俺たちは苦笑いを浮かべた。何はともあれ、今日はめでたい。それとは別に、例の瑠璃色の屋根瓦の評判を聞きつけ、ある人物が新名屋にやってきた
「わざわざ足を御運びいただき、ありがとうございます、高山右近様。」
「いいや、こちらこそ突然押しかけて申し訳ない。」
摂津国三島郡高山庄の国人領主である高山友照の息子、高山右近である。後の利休七哲の一人で、熱烈なキリシタン大名でもある。どうやら堺で新しく修繕した瑠璃色の屋根瓦に魅了され、高山の領内に修繕する教会の屋根瓦として使いたいと新名屋に足を運んだのである
「セニョール殿より、貴殿の屋根瓦の事を聞いて、是非、我が領内の教会の屋根瓦として使いたい、金に糸目はつけぬ、是非、買いたい!」
「あ、はい、分かりました。」
俺は高山右近の熱意に押され、あっさりと了承した。まあ、俺としては売れればいいけど・・・・
その後、瑠璃色の屋根瓦を購入した高山右近は、惜しげもなく使い、堺の教会同様、色鮮やかさと神秘性が増して、信者の数が増えたのは言うまでのなかった
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