守銭奴、帝国へ
第50話:待ちに待ったイベント?
「おいミーシア。お前、帝国までは馬車で2日とか言ってたよな?もう馬車に揺られて5日になるわけだが、それについてどう釈明してくれるんだ?」
豚の依頼で帝国に向かうことになった俺たちだが、おんぼろ馬車に揺られること5日。
いい加減我慢の限界に達した俺は、御者を務めるミーシアへと声をかけた。
「何を言っているんだキンジ。3日前に国境を越えたではないか。ちゃんと2日で帝国領には到着している」
「いやそういうことじゃねぇだろ!俺たちは帝国の首都に向かうって話だったよな!?だったら普通、首都までの日数聞くと思うのが普通だろうがこのポンコツが!」
「ふむ。キンジにポンコツと呼ばれるのにも慣れてきたな。しかしキンジよ、よく思い出してくれ。首都に行くと決めたのは、帝国までの日数を聞かれた後のはずだ。
キンジがジョセフ様を使って『貯蓄』の性能を確かめて、お可哀想なジョセフ様をモージャ殿の宿屋に連れて帰ったあとのことだったと記憶しているが?」
・・・・・・・・・・
あぁそうでしたよ!クソっ、ポンコツに言い負かされるとすげー腹立つ!
「ちっ」
俺はミーシアの言葉に舌打ちを返す。
もうジョーイだけでなく、ミーシアに対してもこんな感じだ。
ミーシアがジョーイに夢中なのは明らかだからな。そんなミーシアに気を使った対応するだけ無駄ってもんだ。
「はっはっは!それにキンジ、お前にも見えているだろう?あれが、我々が目指すゲバニーゼ帝国の首都、ゲバニーゼだ」
俺の舌打ちを気にした様子でもないミーシアは、そう言って目の前に小さく見える町並みを指さしている。
ちなみに、この帝国までの旅費についてはジョーイを通して豚に請求したが、当たり前のように却下された。
アルケーノ倒したときの特別依頼の報奨があるだろう、だとさ。
そもそもその報奨自体が少なかったわけだからもちろんそれで足りる訳もなく、残りは俺が出している。
今回は俺の分も含めて、ジョーイへの借金にしている。
豚からの依頼はあくまでも
俺はジョーイから頼まれてついて行っているわけだから、俺の分の旅費もジョーイが出すのがスジってもんだろ?
まぁ、今のところ実際にお金ちゃんを出してるのは俺なわけだが。
ミーシアが御者をしているのも、そんなジョーイの借金を少しでも少なくしようと本人から言い出したことだ。
だから俺は、一切ミーシアと代わる気はない。
ってあれ?
なんの気無しにミーシアの指す方角に目を向けていた俺は、視界の端に入ったものに気がついた。
あの馬車、襲われてねぇか?
うん、間違いなく襲われてるな。
襲っているのは、盗賊か?
とにかく魔物ではなく人間だな。
よく見ると馬車は、それなりに豪華そうだ。
きたきたきたぁーーーーっ!
この5日間、待てど暮らせど起きなかったお約束のイベントが、目的地を目前にようやくきたぁーーーっ!
いや、正確には、襲われてる奴らは何度か見かけた。
その度にジョーイに知らせて俺は寝てたけど。
でも今回は違う。
いや、むしろこれが当然だ。
帝国の首都に向かう豪華な馬車。
俺はそれを待っていた。
いや、その豪華な馬車が襲われるのを待っていたんだ。
そういう馬車には、王族の姫やら貴族の娘が乗ってるって相場は決まってんだろ?
そういうやつこそ、俺が助けたいんだよ。
そういう奴を助けりゃ、礼もそれなりに貰えるだろう。
そして、あわよくば助けた女をものにできるってスンポーだ。
「馬車が襲われてる」
「よし、僕の出番だね!」
ここぞとばかりにジョーイがしゃしゃり出てくる。
「いや、お前にばかり任せていては申し訳ない。今回は俺が行く!」
心にもない事を言った俺は、そのままジョーイの返事も聞かずに馬車へと向かう。
クソジョーイのレベルアップの恩恵で身体能力の上がった俺は、すぐに襲われている馬車へとたどり着いた。
賊は10人程。
対して、馬車の護衛らしきやつは2人だけ、か。
こりゃハズレか?
王族やら貴族なら、もっと護衛がいてもおかしくはないんじゃねぇか?
「そこの君、すまないが手を貸してくれないか!?」
助けるべきか悩んでいた俺に、護衛っぽい奴の1人から声がかかる。
「この馬車にはとある姫君が乗っておられる!手を貸してくれれば礼は必ず!」
「その言葉、忘れんなよ?」
待ちに待っていたイベントだったと確証した俺は、賊の前へと立った。
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