第35話:やっぱり落下する

「うわぁーーーっ!キンジ、助けてぇーーーっ!!」


ドラゴンのような魔物から逃げるジョーイとミーシアは、そのまま俺の方へと突っ込んできた。


「お、おい待て、こっちは崖で―――おっと」


俺の静止も聞かないポンコツ2人は、崖にも気付かずにそのまま俺へとダイブしてきやがった。


それを華麗に避けた俺を恨めしそうに見る2人は、そのまま俺の視界から消え失せた。

もちろん、崖に落ちたんだな。


「まぁ、ジョーイのスキルがあれば大丈夫だろ。まぁ、死んでくれても構わないけど」

【落下ダメージ無効化】のスキルを持つジョーイなら、以前俺を助けたようにミーシアと共に助かるだろう。


残念ながら。


(このままジョーイが、不慮の事故として死ねばいいのに)

そう考えながら振り向いた俺の目前には、あのドラゴンみたいな魔物が迫っていた。


「クソっ!こいつを忘れてたっ!」

そう漏らした時には、俺はドラゴンの体当たりを受けて崖の向こうへと吹き飛ばされていた。


「って、お前まで落ちんのかよっ!!」

何故か止まらずにそのまま俺とともに崖からダイブしたドラゴンは、何も掴めない宙でバタバタしながら藻掻いていた。


そして、一瞬だけ見えていたドラゴンの背に乗っていた男もまた、真っ逆さまに落下していた。


(っていうか、あいつ寝てねぇか?って、それどころじゃねぇ!)


ジョーイのいない今、普通に落ちたらそこで終わりだ。


俺はまだ、お金ちゃんに囲まれた優雅な生活を送るまで死ねねえんだよっ!


「怪我に変更!」


俺はそう叫んで、目前に迫る地面に身構えた。


(【貯蓄】っ!!)


そのまま、俺は地面へと激突した。


「いやー、さすがに今のは焦ったわ」

地面にぶつかった俺は、そのまますぐに立ち上がって周りを見渡した。


どうやらドラゴンに吹き飛ばされたおかげで、あの巨体の下敷きにはならずに済んだようだ。


あ、あの下にジョーイがいたら、死んでくれで助かるな。


しかし、今のはマジで危なかった。


新しく覚えていたスキルがあって助かったかな。


この1週間依頼をこなしていたおかげで、俺の【貯蓄】はレベル5に上がっていた。

そしてその時に覚えたのが、新たな派生スキル【スキル常時展開】だ。


その名の通り【貯蓄】を常に発動状態にできるこのスキル、かなり役に立つ。

本来ならスキルを発動しない状態であれば、ジョーイの攻撃すらダメージを受ける俺だが、この新しいスキルのお陰でその心配がなくなった。


と言っても、【スキル常時展開】には俺の選んだ貯蓄リストの中から1つしかセットすることができない。


それでも、普通に【貯蓄】スキルを使うだけだと貯蓄リストのうち1つしか【貯蓄】できないから、現状では常に2つまでは【貯蓄】できるようになっているんだけどな。


普段は【物理攻撃】をセットしているおかげで、さっきのドラゴンの体当たりも貯蓄し、ダメージはなし。


さすがに崖から落ちるのは【物理攻撃】とは言えないだろうと判断した俺は、【スキル常時展開】のセットを【物理攻撃】から【怪我】に変更し、さらに新しく貯蓄リストに加えていた【痛み】を普通に発動した【貯蓄】で貯蓄して、晴れて落下ダメージ無効、って寸法だ。


いや〜、スキル様々。


ふと気がつくと、ジョーイとミーシアがドラゴンの真横でヨロヨロと立ち上がっているのが目に入った。


ちっ。ドラゴンの下敷きにはならなかったみたいだな。


しかしどうやらあのドラゴンは、落下の影響で首が変な方向に曲がり、既に事切れているようだ。


いや、っていうかその隣よ。


ドラゴンの近くには、足が生えていた。

いや、地面から下半身だけを出した誰かの上半身が、地面に突き刺さっているみたいだな。


可哀想に。

ジョーイのせいでどこの誰とも知らない奴が死んじまったみたいだ。


まぁ、どうでもいいけど。


いや待て。

地面に突き刺さっている奴、腰に小袋がぶら下がっている。


おい。あれ金貨じゃないか!?

金貨が、俺に貰ってほしそうにこっちを見ている。


仲間にしますか?

しますっ!!


金貨ちゃん、仲間にしますっ!!!


気がつくと俺の足は、金貨ちゃんの方に向かっていた。


「あぁ、キンジ。無事だったか―――あれ?」

ジョーイ達を素通りした俺に、ジョーイが間の抜けた声を上げていた。


俺は金貨ちゃんの入った小袋を取るために、地面に突き刺さっている男の足を掴もうとした。


「キ、キンジ、待てっ!」

ミーシアの声が聞こえた直後、足を掴んだ俺に、再びあの奇妙な感情が湧き上がった。


誰かに導かれるように俺は、掴んだ足を引っ張って地面から引き抜いた男を、崖を作り上げていた岩の壁に、叩きつけるように投げつけた。


まただ。なんなんだよさっきから!

この胸くそ悪い感情は!!


あぁ・・・・

金貨ちゃんが衝撃でばら撒かれている。


よし。いつもの俺だな。


まだ心に残る奇妙な感情を無視するように、俺は心の中で呟いていた。

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