第36話:地面に突き刺さっていた男

「キ、キンジ!何をやっているんだ!?」

地面に突き刺さっていた男を岩の壁に投げつけた俺に、ジョーイが叫びながら駆け寄ってきた。


「・・・あぁ、悪い。つい?」

「疑問形!?いや、そんなことより!なんてことをするんだ!?死者への冒涜だぞ!?」

ジョーイは俺の肩を掴んで、何やら大声を上げていた。


いや、俺にも理由がわかんねぇんだよ。

つい、としか言いようがないじゃねぇか。


それに、別に死んでんだから何やったって誰も何も言いやしねぇって。


死人に口なしってやつだ。


そんなことよりも早く金貨ちゃんを集めねぇと。


「悪かったって。おいミーシア、こいつをどうにかしてくれよ」


早く金貨ちゃんを集めたい俺は、ジョーイの相手を頼むべくミーシアに声をかけた。


だがミーシアは、俺の言葉が耳に入らない程に真っ青な顔をして、岩壁に投げつけられた死体に目を向けていた。


「ジョ、ジョセフ様、キンジ、早くこの場を離れなければ―――」

「おやおやぁ?これは一体どうしたことでしょうか?」


ミーシアが喉の奥からひねり出したような声でそう言っていると、岩壁の方からそんな声が聞こえてきた。


まさか、さっきの男か?

あいつ、死んでなかったんだな。

あ、やべ。今の、文句言われるかな。

まぁ、その時は全部ジョーイのせいにしよう。


俺が1人、そんなことを考えていると、男は側に横たわるドラゴンへ視線を送った。


「おぉ!!我がペットアースドラゴンがこのような姿に!可哀想に・・・・」

大袈裟な仕草とともにそう言った男は、


「パチンッ」

と小さく指を鳴らした。


その瞬間、ドラゴンの大きな体を簡単に包み込むほどのドス黒い炎が瞬時にして現れた。


そしてその直後には、ドラゴンは骨も残さず灰となって消えた。


いやいやいや。

どんな火力だよ。

やべーよ。こいつ絶対に関わっちゃ駄目なやつじゃん!


その時、男の視線が俺たちへと注がれた。


「何故こんなところに下等な種族が?まさか、あの汚らわしい集落の生き残りが?

いやいや、吾輩に限ってそのような打ち漏らしなどあり得ない」


ん?集落?

あいつ、まさかあの村を襲ったやつなのか?


俺がそんなことを考えていると、同じ結論に達したであろうジョーイが声を上げた。


「お前っ!まさかあの村を襲ったのは、お前なのか!?」

ジョーイがそう言いながら男に向かおうとするのを、慌てるように駆け寄ったミーシアが必死に止めていた。


ジョーイの言葉を聞いていたであろう男は、それには一切興味を示さず、ただミーシアへと目を向けていた。


「おぉ。貴女は魔族ではないか。何故そのような下賤な種族とともに?

そうか!何か汚い手で、奴隷にされたのだな!」


またしても大袈裟な身振りとともにそう言った男の姿が、次の瞬間にはその場から消えていた。


「っ!?」

それと同時に俺を襲った衝撃で、俺はそのままその場から吹き飛ばされていた。


どうやら俺は、男の攻撃を受けたらしい。


危なかった。

崖から落ちてすぐに、【スキル常時展開】に【物理攻撃】をセットし直しておいて助かった。


おそらくそのために、男の【物理攻撃】を【貯蓄】したのだろう。

しかし吹き飛ばされた衝撃で近くの木々をなぎ倒した俺は、体のあちこちが変な方向に曲がっていた。


咄嗟にに【痛み】を【貯蓄】したおかげで痛みは感じないが、【怪我】はもちろん体に残ったままだ。


「いやー、死ぬかと思った」

俺は【怪我】を貯蓄しながら、小さく声を漏らした。


しかしあいつ、マジでヤバいな。

最初の一撃でどれほどのダメージを受けるはずだったかはわからねぇが、こんなに飛ばされたんじゃ相当な力のはずだ。


なぎ倒された木々の間から数百メートル先にいるであろうジョーイ達の人影を見つめつつ、俺は男に恐怖を抱いていた。


それと同時に、またしても何やらドス黒い感情が、俺の心を支配し始めた。


(復讐だ・・・)


そんな声が、俺の頭に響いていた。


ふざけるな。

どこのどいつか知らねぇが、なんであんなヤバい奴と戦わなきゃいけねぇんだよ!!


俺は男に復讐しようとする心に抗った。


「ここは、逃げるしかねぇだろ」

そんな俺の言葉とは裏腹に、俺の体は男の方へと走り出した。


「くっ!ふざけんな!誰があんなあぶねぇやつのとこに行くかよ!ぐっ!」


俺が勝手に動き出す体に叫んでいると、クソったれな首輪が閉まりだした。


クソが!

邪魔すんじゃねぇよ!

このままだと、殺されるじゃねぇかよ!


ジョーイとミーシアが殺されている間に、俺は逃げたいんだよっ!!


閉まる首輪で声すらも出せなくなっていたおれの心の叫びを無視するように、俺は再び、男の前へと立っていた。

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