第37話:魔王軍四天王 アルケーノ

目の前にいる男を見た俺は、激しい憎悪の渦に飲まれた。


こんな奴、初めてあったはずなのに何故だ?


そんな疑問も打ち消すかのように、男に対する憎悪が一層増すのを、僅かに残った俺の心は感じていた。


「ほぉ、死ななかったのか。この無駄に打たれ強い生物をいたぶるのにも飽きてきたところだ。次はお前をいたぶるとしようか」

男はそう言いながら、ボロボロになったジョーイを投げ捨てた。


「ジョセフ様っ!」

宙に舞うジョーイを受け止めながら、ミーシアは叫んでいた。


っていうかジョーイの野郎、ドサクサに紛れてミーシアの胸触ってねぇか?


なんて羨ましい奴だ。


よし、俺の理性が戻ってきた。


理性欲望で憎悪を抑え込みながらも構える俺を無視して、男はミーシアを見つめていた。


「何故そのような下賤な輩を助けるのです?」

男の言葉に答えることなく、ジョセフを抱えたまま俺の方へと近寄ってきた。


どうやらあの男、ミーシアには手を出さないつもりらしい。


おそらくミーシアを巻き込まないために、俺やジョーイにも攻撃することなくその場に留まっているんだろう。


これは、ミーシアを盾に逃げられるフラグか?


「キンジ、このまま逃げよう。あのお方は、キンジや我々でどうにかできる相手ではない」

ミーシアは小声で、そう語りかけてきた。


「ミーシア、あいつのこと知っているのか?」

「当たり前だ。あのお方は、魔王軍四天王の1人、アルケーノ様だ」


うわぁ。出たよ四天王。

しかもあれか?最初に出てきたんだから、あいつは『四天王の中でも最弱』ってやつか?


いやいやいや、あれで最弱とかやべぇだろ魔王軍。


いや、魔王軍とかあるのにも驚きだけどさ。

もう、どこから驚いていいかわかんねぇよ。


異世界だりぃ〜〜。


「で、なんであいつはお前には何もしてこないんだ?」

とりあえず現実逃避をやめた俺は、ミーシアへと目を向けた。


「アルケーノ様は、魔族を大事にしておられる、その反面、人間には容赦がないが」

あぁ、それは身を以て知りましたよ。


「ここは、私に任せてくれないか」

そう言ってナチュラルにジョーイを俺に渡すミーシア。


いや、なんで俺がこんなやつを。


とはいえ、いざ逃げる時に置いていこうもんなら、このクソったれな首輪が邪魔することは明白だな。


仕方なく俺は、ジョーイを雑に担いでミーシアを見守った。


「キ、キンジ、すまない」

俺のケツ付近にあるジョーイ口から、そんな言葉が漏れ聞こえてきた。


いや、今喋んな!なんか、ケツが仄かに暖かくなる!!


「アルケーノ様とお見受けいたします」

「いかにも」

俺が僅かに暖まったケツに戸惑っていると、ミーシアが男へと話し始めていた。


「この者達は、我が奴隷。せっかく手に入れたのです。どうか、この者達を傷付けないで頂けないでしょうか?」


おぉ、ミーシアナイスだ!

魔族であるミーシアのであれば、あの男もそう簡単には手出し出来ないに違いない!


未だにくすぶる憎悪を必死に抑えつつ、俺は希望の眼差しをミーシアへと送った。


頼む。このまま引き下がってくれ、アルケーノ様!!


「奴隷、ですか・・・しかし先程貴女は、そちらの無駄に打たれ強い生物を『ジョセフ』と呼ばれていたようですが」


「・・・あ」


いや、『あ』とか言っちゃったよ!

嘘なのがもうバレバレだよっ!!


少しでもポンコツミーシアに期待した俺が馬鹿だったよ!!


「やはり貴女は、その生物達に洗脳されているようですね」


そう言った男の姿が消え、次の瞬間ミーシアの隣へと現れた男は、ミーシアの頭ヘそっと目をかざした。


「っ・・・・・」

そのまま男が小さく呟くと、ミーシアは声も出さずにその場に倒れ込んだ。


「そのまましばらくお眠りなさい。起きたら、私がもっと素晴らしい奴隷を買って差し上げましょう」


優しい眼差しで、眠るミーシアに語りかけた男は、ミーシアを優しく抱き上げるとそのまま俺達を睨みつけた。


「我が大切な同胞を操るなど。下賤な分際であるまじきことだ。

その罪、死をもって償うがいい!!」


男はそう言って姿を消し、離れた場所に姿を現してミーシアをそっと、地面へと寝かせた。


そして、男は先程ドラゴンを燃やし尽くした炎を出現させたときと同様に、指を鳴らした。

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