第38話:【怪我】の功名?
アルケーノが指を鳴らすと、俺と、
先程ドラゴンを焼き払ったあの炎だ。
炎の出現を確認したアルケーノは、もはや俺達の行く末など興味が無いかのように背を向け、眠るミーシアへと近寄った。
「?」
しかしアルケーノは、その足を止めて炎の、俺の方へと向き直った。
「いや怖っ!今のが魔法で助かったぞ!!」
一瞬マジで死ぬかと思った俺は、炎を【貯蓄】して叫んだ。
どうやらあの炎、【魔法攻撃】みたいだな。だから【貯蓄】できたわけで、お陰で俺はあのドラゴンのように焼かれることは無かったんだが。
いや、あいつ、すんげー睨んでくるんですけど。
「貴様。何をした?」
「えっと・・・それ教えたら、見逃してくれるか?」
「戯言を」
そう苛立たしげに呟いたアルケーノの姿が消えた。
「ちっ」
俺は咄嗟に構え、【貯蓄】を発動した。
その直後に現れたアルケーノの拳が、俺の顔にぶつかる直前で動きを止めていた。
あぶねぇ。やっぱ殴りに来たか。
さっきとおんなじだな。
あぁ、クソ。またイライラしてくる。
だが、【スキル常時展開】でなく普通の【貯蓄】なら、どうやらこいつの攻撃に吹き飛ばされることなく防ぐことが出来るみたいだな。
スキルで受け止めたアルケーノの拳を見つめつつ、またしても湧き上がる気持ち悪い感情を抑え込みながらそう考えていると、アルケーノが苛立たしげに俺を睨んでいた。
「吾輩の拳を受け止めただと?人間ごときが?
貴様、何者だ!?」
「いやだから、それ教えたら見逃して―――」
「黙れぇっ!!!」
俺の言葉を遮るように叫んだアルケーノは、再び拳を振り上げた。
俺はそれを【貯蓄】しつつ、アルケーノから距離を取るためにその場から飛び上がりながら、担いでいたジョーイを放り投げた。
「ぐえっ」
地面に落下したジョーイがカエルのように声を漏らしていたのなんか、俺には関係ない。
いやそれより、あいつ自分から質問してきたのになんなんだよ!!
四天王マジ面倒くせぇ!!
「あーうぜぇ!お前の炎、【返済】してやるよっ!」
俺はアルケーノへと叫び、先程俺が【貯蓄】した黒い炎を、アルケーノへと【返済】した。
一瞬、またしても心に渦巻くドス黒い感情が溢れ出した。
「くっ、これは!?」
驚きの声を漏らすアルケーノが、黒い炎に包まれた。
っていうか、なんかさっきより火力強くね?
あー、もうこれで死んでくんねぇかな。
そんな俺の願いも虚しく、黒い炎はしばしアルケーノにまとわりついたのち、小さくなりやがて消えていった。
「ぐっ。今のは、我が秘術、
そんなバカな!?ありえないっ!!」
あ、なんかアルケーノが焦ってる。
ってか、あいつのより強い炎?
おかしいな。俺はただ、あいつの炎をそのまま【返済】しただけだぞ?
いや、それよりも気になることがある。
『我が秘術』とか言ってたってことは、あいつだけの魔法か?
ってことは命名はあいつが?
いや中2か!
心の中でツッコみつつもアルケーノを見つめる俺は、気がついた。
あいつ、あんまりダメージ受けてねぇ。
いや、なんか勝手に精神的ダメージは受けてるみたいだけど。
四天王っていうくらいだから、さっきのドラゴンや
こんなやつ相手にどうしろって言うんだよ。
いや、待てよ?
こりゃいい実験台じゃねぇか?
俺はアルケーノを相手に、気になっていたことを実験することにした。
俺が【貯蓄】できるものの1つに【怪我】がある。
基本的に敵からの攻撃は【物理攻撃】を【貯蓄】することで不正でいた俺は、ほとんど【怪我】を【貯蓄】することはなかった。
【怪我】を【貯蓄】しても、【痛み】は残るからな。
普段【スキル常時展開】に設定している【物理攻撃】を変更するのも面倒くせぇし。
だが今は、崖からの落下とアルケーノに吹き飛ばされたときの【怪我】が【貯蓄】されている。
この【怪我】とは、いったい誰の怪我なのか。
俺が負うはずだった【怪我】であることは間違いないが、それを他人に【返済】した場合、その【怪我】はどちらが負うはずの【怪我】になるのか。
この疑問を抱いていた俺だったが、それを人に試してはいなかった。
別にやってもいいが、あまり意味はないと感じたからだ。
俺よりも防御力のある相手に返済して、俺は試したかったのだ。
【怪我】を俺よりも防御力のある相手に【返済】した場合、その【怪我】は防御力の高い相手が負うものとして、その防御力を加味した程度の【怪我】となるのか。
それとも、防御力の低い俺の負うはずだった【怪我】として、相手の防御力を無視して【返済】されるのか。
今まさに、それを証明できる実験台が目の前にいる。
俺は崖から落ちた時の【怪我】をアルケーノへと【返済】すべく、スキルを発動した。
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