第17話:魔族

「そういえば、ここはどこだ?」

俺は辺りを見回してジョセフに言った。


まだ暗くてよく分からない。


「さっきの洞窟だよ。キンジが気を失ってから、僕共々この牢に入れられたんだ」

「それで、お前は抵抗もせずにここまでついてきたってわけか?」


「し、仕方がないじゃないか。僕には君のように、攻撃のスキルは持ち合わせていないんだ。従うしか、なかったんだよ」


いや、落ち込まれてもなんの役にも立たないんだがな。


それより、少し目が慣れてきたな。


「ん?どうやらここに居るのは、俺たちだけじゃないらしいな」

周りに見える人影に、俺は呟いた。


「あぁ。どうやら、ここにいる人達はみんな、あいつらに捕まったらしい。さっき、クリオ君のお父さんも見つけたよ」

捕まってたくせに仕事はえーなおい。


っていうか、そんなことよりも逃げ出す方法見つけろよな。


まぁ、見たところ逃げ場はなさそうだし、ジョセフに期待するべきじゃないか。


俺はジョセフに毒づきながらも、あることに気付いた。


捕まった奴らは、恐怖のせいかひとかたまりになっていた。

にも関わらず、一人だけ端っこに追いやられるようにして輪から外れている奴がいた。


「女?」


俺はそいつの元へと寄ってみた。


そこにいたのは、透き通るような真っ白い肌の上に、ボロボロの布切れだけを雑に巻かれるように着せられている1人の女がいた。


程よく実った双丘が、ボロ布の横からチラリズムしている。


美しいその顔も、もちろん真っ白だ。

そんな女の頭には、2本の渦を巻いた角が生えていた。


こいつ、なんの種族だ?

まぁ何だっていい。

だって、綺麗だからな。

綺麗に種族は関係ないよな。

うん。綺麗は正義だな。


「ま、魔族・・・・」

俺が1人、正義について考えていると、ジョセフがうわ言のように呟いた。


「魔族?」


魔族って、体が緑で血が紫のやつのことなんじゃないのか?


「キンジ、まさか君、魔族を知らないのかい!?」


知らねーよ。転生してまだ数日だぞ?


「そ、そうか。キンジは記憶を失っているんだったな」


あ、そう言えばそんな設定だったな。


「魔族は、魔王の眷属と呼ばれているんだ。我々よりも力と魔力が高く、好戦的な種族だ」


へぇ。この綺麗なねーちゃんがねぇ。

人は見かけによらないもんだな。


「それで。魔族のあんたが、何でこんなところにいるんだ?」

「キ、キンジ!魔族に話しかけるなんて、何を考えているんだ!?」


いや、そんなに驚くことか?

あぁ、他の捕まった奴らも、俺のこと凄い目で見てるわ。

そんなに驚くことなんだな。

ま、俺には関係ないけど。


俺はジョセフを無視して、魔族の女に目を向けた。


「えっと・・・聞いてます?キャンユースピークイングリッシュ?」


「・・・・貴方は、私が怖くはないのですか?」


魔族の女は、そう言って俺を見つめ返してきた。


「別にあんたに何かされたわけじゃねーからな。種族で一括にするこいつらが馬鹿なだけだ」

「おかしな人ね」

女はそう言って小さく笑っていた。


あぁ、綺麗な女は、笑っても綺麗だな。


俺が、女の瞳に魅入っていると。


「おい貴様。そいつから離れろ」

牢屋の外からそんな声が聞こえてきた。


俺が声のした方に目を向けると、そこにはさっきのリーダーっぽい男が立っていた。


「そいつはやっと捕まえた魔族なんだ。職なし、スキル無しの魔族なんて珍しい奴、お前らなんかよりもよっぽど高く売れるんだ。魔族に恨みを持つ奴らにな」


解説ご苦労。


なるほどな。こいつらは無職の人間を捉えて、売りさばいているらしい。


そんなことよりも。


この女、職業もスキルも持っていないのか。

だから他の魔族よりも弱くて、こいつらに捕まった、と。


なんだよ。フツーに可哀想な美人じゃん。


ジョセフ。お前こういう奴こそ助けろよな。


「さてと。それよりも、お前ら2人。こっちに来い。お前らの職業を確かめさせてもらう」

そう言ってリーダー格の男は、水晶を取り出した。


職業を調べる、アレだ。


「どうせ【平民】だろうが、一応調べないと、値段がつけられないからな。ちっ。【平民】なんて大した値もつかない屑を捕まえることになるとはな」


そう言う男に、俺は近づいて行った。


「変な真似するんじゃないぞ?まぁ、先程も何も出来なかったくらいだ。どうせ大したことは出来ないんだろうがな」

そう言う男の手にある水晶に、俺は手をかざした。


こいつに近づくために。


「勇者の、奴隷だと?奴隷職とは珍しい。そりゃぁ、弱いわけだ」

そう言って薄ら笑いを浮かべる男の顔に向かって、俺は唾を吐きかけた。


「ちっ。売り物だと思って優しくしてやりゃぁつけあがりやがって。奴隷の分際で!!お前にはもう1度、痛い目を見せなきゃいけないらしいな」


そう言うと男は、俺に向かって手をかざした。


男の手が光った瞬間、男はニヤリと笑った。

俺の苦痛に歪む顔でも想像したんだろうな。


だが、俺をさっきの俺と思うなよ?


「お前の魔法は、もう効かない」

今度は俺がニヤリと笑って、驚愕に歪む男へと言い放った。


お前の魔法攻撃、しっかりお預かりいたしましたよ。


今度は、きっちり【返済】させていただくぜ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る