第18話:一括返済

「貴様、何故私の魔法を受けて無事なんだ!?」

リーダー格の男は、そう言って驚愕の目で俺を見ていた。


「クソっ、もう1度だっ!」

男はそう言いながら、再び俺に手を向けてきた。


【貯蓄】


俺は、再び男の魔法攻撃を【貯蓄】した。


そうだ。俺はジョセフの話を聞いてすぐに、空いていた【貯蓄】の残りの一枠に、『魔法攻撃』を設定していた。


もう、こいつの魔法は俺には通用しない。


「なっ・・・・・」

男は自分の雷が、俺に当たった直後に消え失せたのを目の当たりにして、閉口していた。


いや、正確には、開口、だな。

おもいっきり、口をあんぐりと開けてるからな。


さて、今の1発、そっくり返してやるよ。

これで寝てろ!


【返済】


「がっ・・・・」


男はその声を残して、気を失っ――――


「くっ!こいつも私と同じ【雷魔法】のスキル持ちだったか!お前ら!魔法のスキル持ちは力が弱い!やってしまえ!」


こいつ、雷があまり効かない?

まさか、【雷魔法】のスキルを持ってる奴は、雷に耐性が?


俺が考え事をしている間に、男の部下達が牢の中へと入ってきた。


3人。

複数相手か。


って、いきなりナイフ出してきやがった!

ちゃんとこれも貯蓄してくれるんだろうな!?


【貯蓄】


有無を言わさずナイフを突き出してきた男の部下に向かって、俺は咄嗟にスキルを発動した。


「こ、こいつ、ナイフが通りませんっ!!」


俺の腹の前で止まるナイフを見て、男の部下は泣きそうな声を漏らしていた。


いや、泣きたいのはこっちだからな?

今のが【貯蓄】できてなかったら、俺死んでたからな?


いやー、マジで【貯蓄】グッジョブ。


俺は泣きそうな男の腹を、思いっきり殴りつけながら、


【返済】


今受けた攻撃をそのまま返済した。


「ゴフッ」


俺の拳を受けた男は、口から血を吐いて倒れた。


いや、今のそれ程の威力だったか?


いや、違うな。

男の腹からは血が流れ出している。


どうやらこの【貯蓄】、完全に同じ攻撃を返済するみたいだな。


ナイフでの攻撃には、ナイフの攻撃を返済した。


つまり俺は、こいつの腹にナイフを突き立てたってわけか。


こいつ、死ぬんじゃね?


俺がチラリと倒れる男に目を向けると、残りの2人がナイフで切りかかってきた。


「ちぃっ!」


【貯蓄】、からの【返済】!


俺は咄嗟に、2人の斬撃を【貯蓄】し、直後に2人に攻撃を【返済】した。


ちっ、慌てちまって、殴りかかるの忘れてた。


相手に触れなきゃ効かな―――


「「ぐぁっ!!」」


俺の手から飛んでいった斬撃が、2人の男を斬りつけ、男達は叫び声を上げてその場に倒れ込んだ。


効いたな。


なるほど、【返済】は相手に触れてなくても可能なようだ。

じゃぁ、今まで無駄に殴りかかっていた俺って一体・・・・


「頭ぁ!こいつ、本当に魔法スキル持ちなんですかぃ!?斬撃飛ばしてきやしたぜ!?」

俺の【返済】を受けた男の1人が、血の滲む腕を抑えながら叫んでいた。


ん?こいつら、さっきの男よりも、傷が浅いな。


「ちぃ!訳がわからん!やはり俺がやってやる!お前らは下がっていろ!」


リーダー格の男は言うと、牢の中へと入ってきて、俺に手をかざした。


ちっ。こいつのスキルをいくら【貯蓄】しても、【返済】でそれ程ダメージ与えられないと意味が・・・


いや、待てよ。


俺はある事を思いついて、リーダー格の男の攻撃を待った。


そのまま男の魔法攻撃を【貯蓄】した俺は、


「ぐぁっ!」


声を上げてその場に膝を付いた。


「ふっ、ふははは!やはり効くじゃないか!先程のはまぐれだったようだな!」


さっきの何がまぐれだと思ってるか分からないが、男はそう言いながら再び、スキルを使って俺に雷を落とした。


「ぐぁぁっ!!」

再度男のスキルを【貯蓄】した俺は、苦悶の声を出した。

あと1回。


「これで最後だっ!!サンダーっ!!」


いや、何故最後だけ技名を叫ぶ。

あれか?お前中2か?


俺は心の中でツッコミながら、【貯蓄】を発動した。


もう、わざわざ声を上げて油断させる必要もない。


俺は先程、ある事を思いついた。

お金ちゃんを自分の元に【返済】する時、分割での【返済】が可能だった。


だったら、一括での【返済】も可能なのではないか、と。


今俺の【貯蓄】には、こいつの4回分の魔法攻撃を【貯蓄】している。

これを一括【返済】すれば。


俺は、男に向かって手を向けた。


お前の雷、まとめて【返済】してやるよっ!!


俺の手のひらから、まばゆい光が放たれた。

それと同時


「ぐぁーーーーっ・・・・・」


4回分の雷を受けた男は、叫び声を上げながら辺りに肉の焼ける嫌な匂いを撒き散らした。


黒焦げになった男は、そのまま黒墨になってその場に倒れこんだ。


「「ひぃっ!化け物だっ!!」」


残された男達はそう言いながら、走って逃げていった。


クソ。オレのスキルじゃ、逃げる相手には対処できないな。


俺が苦々しい目で、逃げる男達を睨んでいると。


「キンジ!大丈夫かい!?」

ジョセフが俺の元へとやって来た。


勇者様、今まで何やってたんだよ。

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