第13話:謁見と職業

「勇者ジョセフよ、よくぞ参った」

王とやらの前に連れられてきた俺達の目の前には、ブクブクと太った一匹の豚がいた。


あ、いや。もしかしてこれが王か?

どんだけ暴飲暴食したら、こんなに丸々と太れるんだ?


「して勇者ジョセフよ。この世界で唯一、勇者の職業にはレベルがあると聞いている。お主はこれまでに、どれほど強くなったのだ?」

がジョセフを見つめていた。


「お、恐れながら王様。私はまだ、レベルが上がったことがありません」


あ、ジョセフの野郎緊張していやがる。

っていうか、勇者だけレベルがあんのか。

職業には、って言ってたってことは、スキルにレベルがあるのは普通なのか?


「おぉなんと情けない」


ジョセフの言葉に、豚が大げさな動きで嘆いていた。


うわ、『なんと情けない』とか、リアルに言うんだな。


「勇者は魔物を倒すだけでなく、人を助ける事でもレベルが上がると聞く。しばらく王都にてギルドに入り、人助けに励むのだ。そうすれば、ウチの兵達の仕事が減り、人件費の削減に役立つ」


いや豚よ、最後の方本音ダダ漏れだなおい。

っていうか、魔王を倒すはずの勇者様に対して、なんでこんなに偉そうなんだ?扱い雑じゃね?


実は、そんなに魔王ってやつは悪いことしてねーんじゃねーのか?


「では、行っていいぞ」

豚はそう言いながら、さっさと出て行けとばかりにてを振っていた。


いや待て。

扱いが雑なのは百歩譲っていいとしよう。

相手はジョセフなんだし。

でもせめて、なんか餞別寄越せよ。

お前がブクブクと太った飯代の1日分でも、この金無野郎には充分な餞別になるんだぞ?


うわ、兵士達も俺等に出て行くよう促してやがる。

え、マジで餞別無しなのか?

おかしくね?


「あぁ、ちょっと待て」

豚の言葉に、俺とジョセフは足を止めた。


なんだよ、やっぱ餞別渡すの忘れてたんじゃ―――


「さっきから視界にチラチラ入っているその男は何者だ?何やら物欲しそうな目でこちらをみていたようだが」


そこかよ!

そして俺、そんなに物欲しそうな目してねーよ!!

いや、くれるもんなら何でも欲しいけどさ!


「あぁ、いや、彼は私の友人でして・・・・」

隣でジョセフが言い淀んでいると、兵士の1人が豚の側近らしきハゲに何やら耳打ちし、それを聞いたハゲが驚きの表情を浮かべて俺の方をチラリと見たあと、豚の耳元で何やら囁いていた。


「なに!?それは誠か!?」

ハゲから何かを聞いた豚が、突然叫んでジョセフを睨みつけた。


「勇者ジョセフよ!その男、奴隷職であるという情報が入ったぞ!?それは本当か!?」


「え、いや、その・・・・・はい」

「なんと!?奴隷職をこの場に立たせるとは!は、早くそれを連れて出て行けっ!!」

豚は突然豹変し、ジョセフに叫びだした。


いや、ここに通したのお前の部下だからな?

俺もジョセフも、悪くないからな?

っていうか、

奴隷職ってだけで、そんなに怒るかね。


俺が呆れて豚を見つめていると、ジョセフが慌てたように俺を引っ張ってそのまま城を後にした。



「キンジ、本当にすまなかった!」

城から離れてから、ジョセフが突然そう言って頭を下げてきた。


「なにがだ?」

「さっきの、彼らの態度は・・・」


「あぁ、そのことか。確かに腹は立っけどな。でもまぁ、俺が興味ない相手からどう評価されようが、知ったこっちゃないしな」


そう。どうでもいいんだよな。王とやらに気に入られれば、色々と便利かも知れないとは思ったが、勇者にすら何の餞別も渡さないようなヤツなら、相手にするだけ無駄だ。


そんなヤツからどう思われようとも、どうでもいい。

まぁ、捕らえられたりしなければな。


「違う。そうじゃないんだ・・・」

ジョセフは何か言いにくいことでもあるように、言葉を濁していた。


「なんだよ。言ってみろよ。言わなきゃわかんねーだろ?」

俺がそう言うと、ジョセフは覚悟を決めたように話し始めた。


「職業が変えられないという話は、しただろう?」

「あぁ。勇者様以外は、基本的に変えられないんだろ?」


「そ、そうだ。記憶喪失のキンジは覚えていないだろうけど、この国では、職業が人を見定める絶対的な基準になっているんだ」

「ん?それはあれか?職業で、差別される、みたいなことか?なるほどな。だからここでは、種族による差別はないってことか」


「あぁ、簡単に言うとそうなんだ。種族による見た目の違いよりも、職業の違いの方がこの国では大きな意味を持つんだ。【平民】が、いくら努力しようと【貴族】になれないように、この国では職業がそのひとの人生を変えてしまうんだ」

「なるほどな。それであの豚や門番の態度が急変したわけか」


「いや、豚て。ってそれはいい。そうなんだ。キンジは、僕のせいで職業が【奴隷】になってしまった。

そのせいでキンジはこれから、ずっと周りからあんな態度を受ける事になってしまった。

おそらく、僕と離れると扱いはもっと酷くなる。

キンジは、嫌でも僕と行動を共にしなければいけなくなってしまったんだ。

本当に、すまない!」

ジョセフはそう言って、深々と頭を下げていた。


いや、マジかい。こいつとずっといなきゃいけないのかよ。


でもまぁ、すまないって言われてもなぁ。

まぁこいつがこの首輪を勝手に俺に嵌めたことだけはまだ許せねーが、俺に対する豚どもの態度はあいつらの問題だろ。


俺は少し考えて、ジョセフを見つめた。


「まぁ、お前の奴隷になっちまったもんは仕方ねー。

一応、これを解除する方法だけはこれからも探してもらうけどな」

「えっ、そんな軽くていいのかい!?

君はこれからずっと、あんな酷い扱いを受けるんだよ!?」


「まぁ、普段は職業を隠しておけばいいだろ。お前の友人ってことにでもしといてくれ」

「え?あぁ、そんなことで良ければ、もちろんだよ。むしろ僕は、キンジを初めての友達だと思っているからね!」


いや、初めての友達て。

お前、その見た目で友達いないのかよ。


泣きそうな顔で笑っているジョセフに、俺は2本の指を突き出した。


ピース、ではないぞ?


「2つ、条件がある。

1つは、俺に命令しないこと。お前に命令されると、俺はその通りに動かなければいけなくなるからな」

「あぁ。それは僕も決めていた。キンジには、絶対に命令はしない!」


「よし。それでもう1つだが、お前の魔王討伐とやらに、俺は協力しない」

「えっ!?なんで!?」

ジョセフは驚きの顔で、俺を見つめいた。


「当たり前だろ?なんで俺が、そんな危険なことをしなかちゃならない。魔王討伐ってのは、勇者であるお前の役目だろ?

俺は、お前と行動を共にはするが、目的までお前に合わせるつもりはない」


「目的・・・・ジョセフは、何をしたいんだ?」

「決まってんだろ?金儲けだ。俺は金を稼いで、自由に生きたいんだよ」


俺がそう告げると、しばしの間ポカンとしていたジョセフが、突然笑いだした。


「あはははは!金儲けか!なんとなく、キンジらしいね。わかった。キンジの条件をどちらも飲むよ!でも・・・・」


「なんだよ」


「僕が危険な目に会ったら、助けてくれると嬉しいな」


こいつ。元平民に頼ってくんじゃねーよ!

そう心の中で毒づきつつも、頼られたことに若干の喜びを感じてしまった俺は、


「ちっ。まぁ、お前が死んでも困るしな。ただし、その場合は金を払ってもらうがな」


そう、ジョセフへと告げると、


「ありがとう!我が友、キンジよっ!!」

ジョセフはそう言って!俺に抱きついてきた。


うざってぇ。

何が悲しくて野郎に抱きつかれなきゃいけないんだよっ!!

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