第8話:レベルアップ

【返済】は、攻撃してきた相手にしか返せない。


俺の中でこの考えが、確信へと変わった。


思い返してみてもそうだ。


あのレッドベアとかいう熊に初撃を撃った時は、ボアってイノシシからの攻撃を【貯蓄】した分だった。


その証拠に、レッドベアの攻撃を【貯蓄】したら、問題なく【返済】できた。


ちっ。意外と使い勝手悪いな。


俺は舌打ちしながら、ジョセフを襲っていたうちの1体が俺へと向かってくるのをその身に受けた。


【貯蓄】、からの【返済】っ!!


俺の拳を受けたボアは、そのまま吹き飛んでいった。


「うわーっ!!」


襲われていた奴が吹き飛んだボアの下敷きになった気もするが、まぁそれは仕方ない。


それよりも、御主人様ジョセフの命の方が大事だ。

あくまでも、俺のためにな。


そう誰にともなく言い訳しながら、俺がジョセフの方を向こうとすると、最初に俺に襲いかかってきたボアが、俺の方へと突進してきた。


「ちっ、さっさと来い!今度はきっちり、返済してやるよ!!」

俺はそう叫びながら、左手でボアの攻撃を【貯蓄】し、動きを止めたボアの鼻を掴むとそのままジョセフの方へと殴り飛ばした。


自身の攻撃を【返済】されたボアが、ジョセフを襲うもう1体のボアへと吹き飛び、


「ギャンっ」


そのまま2体もろとも、森の奥へと吹き飛んでいった。


ジョセフも一緒に吹き飛んだみたいだが、あいつなら死にはしないだろう。


「ふう」


俺はその場に、座り込んだ。


流石に、3体連続は疲れるわ。

転生してそんなに時間経ってないんだぞ?

なぜこうも次々に襲われるんだよ。


その時、俺の頭の中で声がした。


(スキルのレベルが上がりました)


ん?レベルが―――


「うぉーーいっ!キンジ!酷いじゃないか!僕まで飛ばすことないだろう!?」

ジョセフが森の中から現れた。


あー、ほら。やっぱ無事だったよ。


「って、そんなことよりあの人は!?あぁっ!ボア野下敷きにっ!」

ジョセフはそう言って、襲われていた男の方へとは駆けていった。


勇者様はお忙しいことで。

いや、俺も行くか。

せっかく助けたんだ。礼のひとつでももらわねーと、割な合わないな。


俺が男とジョセフの元へ来ると、既に息絶えていたボアから引っ張り出された男が、ジョセフに何度も頭を下げていた。


「本当に、ありがとうございます!何とお礼を言っていいのやら!」

いや、言わなくていいから金を寄越せ。


「いえいえ、人を助けるのは当たり前のことですから。お礼なんてそんな・・・」

おいジョセフ。何を遠慮している。貰えるもんは、きっちりもらわんかい!


「あなたも、本当にありがとうございます!お強いんですね!ご職業は、戦士様かなにかなのでしょうか?」

いえ、勇者の奴隷です。


ってそんなことはいいんだよ。


「ふん。礼なら、金でいい」

「ちょ、キンジ!」

ジョセフが俺を咎めるように見ていた。


いや、助けた奴に金を要求して何が悪い。


「キンジ様とおっしゃるのですね。さぞや名高い戦士様なのでしょう。是非とも今すぐにお礼をしたいところなのですが・・・」

男はそう言うと、側にあるバラバラになった荷車だったであろう物に目を向けていた。


ボアによる攻撃で見るも無惨な姿になった荷車からは、同じく無惨に踏み荒らされた野菜が、あたり一面に散らばっていた。


「申し訳ございません。この野菜を売れば、多少の金にはなったのですが・・・」

男は項垂れて、蚊の鳴くような声で言っていた。


「まぁ、今すぐでなくてもいい。野菜はまた作るんだろ?その時に、きっちり払うもん払ってもらうさ」

「キンジ!この人は売るはずの野菜がダメになって大変なんだぞ!?少しはこの人の身になったらどうなんだ!!」

ジョセフが、俺の胸ぐらを掴んで言ってきた。


「へぇ。人の命ってのは、『ありがとう』なんて言葉だけで買えるほど、安っぽいものだったのか。知らなかったよ」

「なっ、何を・・・・」


「い、いいんです!命を助けて頂いたのは事実なんです!どうか後日改めて、お礼を支払わせてください!」

男は、俺とジョセフの間に立ってそう言ってきた。


「ほなら。こいつもそう言っているんだ。お前こそ、こいつの身になって黙ってろよ」

俺はそう言いながら、ジョセフの手を払い除けた。


こいつ、多分自分のせいでボアが暴走したのには気付いてないな。

本当に心の底から、人助けはやって当たり前って顔していやがる。


俺はジョセフから目を逸らし、男を見つめた。


「あんた、これから王都ってとこに行くつもりだったのか?」

「え、えぇ。そのつもりでした」


「だったら、案内しろ。それが、礼待つ条件だ」

「キ、キンジ!君はなんてことを!?彼は売り物がダメになったんだぞ!?もう王都に行く意味がないじゃないか!」


「あ、いえ。他にも王都へは用がありますので、是非ともご案内させてください」

「ほらな。ジョセフ、お前の方が、こいつのこと考えてねーじゃねーか」


「君だって、別に彼のことを考えて言ったわけじゃないだろう!?」


あー、うるせぇ。

勇者様の相手、クソだりぃ。


俺はジョセフを一瞥し、


「疲れた。少し休んでから出発だ」

そう言ってジョセフ達から離れて座り込んだ。


さっきレベルが上がったと聞こえたからな。


一度じっくりと、スキルについて調べる必要がある。


俺はそう思いながら、ステータスと念じた。


するとそこには、最初に見たときから少し変わった表示が現れた。



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名前:キンジ

職業:勇者の奴隷

スキル:貯蓄 Lv.2


貯蓄

お金 無制限

物理攻撃 4発

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あと2件、貯蓄を設定できます


派生スキル

返済

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