第53話:魔王からの通信

色々と混乱している俺に、ゴブ子が微笑みかける。


「ふふふ。突然お呼びして申し訳ありませんでした。混乱させてしまったかしら?」

えぇ、絶賛混乱中ですとも。


「護衛のお2人もお話してはくださらないし、ずっと退屈だったの」

そう言ってゴブ子は、語り出す。


「私、この国の王子様とお見合い?というものをする予定なの。

魔王様からおすすめいただいて。

あまり乗り気ではなかったのだけれど、これでやっと、決心がつきそうです」

おっとぉ。

まさかの王子とのお見合い。


王子さんよ、ドンマイ!


「やっぱり私、お見合いはお断りすることにします!

だって、本当の王子様と出会えたのだから」


そう言うゴブ子の顔が、赤くなったように見える。

まぁ、そもそもの顔色が緑色だから見間違いかもしれない。


いや、見間違いであってくれ!

今の話の流れ、『本当の王子様』ってもしかして・・・


「どうやら私、あなたという雄が好きになってしまったようです」


俺だな。

いやいやいや、ないないない!!!

さすがの俺も、ゴブリンはないぞ!


いくら声が可愛かろうとも、見た目に愛嬌があろうとも!

よく見りゃ、小さい体の割に出るとこは出てるし、俺を見る表情が若干恍惚としてて色気も感じるとはいえ・・・


あれ?もしかして、なくはない?

いやいやいや!そこは無しだろ俺っ!!!!


「突然こんなことを私なんかから言われたら、困りますよね。本当にごめんなさい。

別にあなたと無理矢理結ばれようだなんて思ってはいないから安心してください。

私、恋なんてしたこともなかったから、魔王様からのお誘いを断る理由がなかったのだけれど・・・・

魔王様からは、好きな人が出来たらいつでも断っていいって言われて、そこにあなたが現れて・・・」


なんだろうな。

ゴブ子が可愛いとか思い始めた俺がいるんだが。


あー、俺、疲れてんのかなぁ。


「あー、えっと。そう言って貰えんのはありがたいんだけどさ。

仮にも王子さんとのお見合いなわけだろ?

急に断ったら、国際問題とかになるんじゃねぇのか?」


よし俺、ナイスな言い逃れだ!


「確かに、それはそうね・・・・魔王様、今よろしいですか?」


え、なにこのゴブ子。

いきなり魔王に呼びかけ始めたんですけど。


「えぇ、はい。そうなんです。好きな人ができちゃって。

え?名前?

あの、王子様、お名前を伺ってもよろしいですか?」


なんか独り言いってるけど、あれってもしかして、魔王と通信でもしてんのか?

ん?王子様?俺か?


「ん?俺のことか?俺ならキンジって名前だけど・・・」

「キンジ様。素敵なお名前。

えぇ、はい。あら、そうなのですか?

はい、わかりました。はい、失礼いたします」


なんか俺に話してんのか魔王と話してんのか分かりにくいけど、どうやら魔王との話は終わったようだ。


「キンジ様は魔王様とお知り合いだったのですね。

魔王様からはお見合いお断りの許可を戴きました。ただ、このまま引き返すのは失礼だから、直接私からお断りするようにと仰せつかりました」

「あの魔王、意外とちゃんとしてんな」


『意外と、は失礼だぞキンジー』

「うわっ!なんか声が聞こえたっ!!」


『わたしわたしー。魔王だよ〜』

「は!?魔王!?ゴブ子、なんか魔王とか名乗る奴の声が聞こえてんだけど!?」


「キンジ様、もう私の名を呼んでくださるなんて・・・」

『あらあら、2人はもうそんな仲なの〜。うちの可愛いゴブ子ちゃんに手を出すなんて、あんたこそ、意外と見る目あるじゃないの〜』


「うるせぇよ!ってか、この突然の声の説明しろよっ!」

『ノリ悪いわねぇ〜。あれよ、この前会ったときに、呼び出すっていったじゃない?だからいつでも呼べるように、あんた用のチャンネル作ってたのよ』


「は?チャンネル?」

『そ、【通信】ってスキルを使う対象に、あんたも入れた、って感じ?』


「いや俺の許可取れよ!」

『まぁいいじゃない』


「よくねぇよ!なんだよこれ!っていうか、お見合い断っても大丈夫なのかよ!?国際問題とかなるんじゃねえのか!?」

『そんなの気にしなくていいわ。そこの王とは仲良いから、私からも謝れば許してくれるって』


クソ、断わんなよ!

本当に俺がゴブ子とくっつくフラグ立っちまうじゃねぇかよ!


っていうか今、魔王がこっちの国の王と仲良いって言ってたけど、これもう豚の疑い、確定じゃね?

これで調査終了になんねぇかな?


ダメか。魔王から聞いた、なんて言えるわけねぇし。


っていうか、それ調査どころじゃないんだけどな。

俺今、ゴブリンと結婚さるかどうかって瀬戸際に!いつの間にか立たされてるんだが。


『あんた達がその国にいる理由も、あんたのチャンネルを通して聞いてたから知ってるし、どうせあんたらも城には行くでしょ?

せっかくだからゴブ子ちゃんについてってあげてよ』

「おい待て魔王!このチャンネルって、こっちの会話聞こえんのか!?お前、プライバシーって言葉、知ってるか!?」

『ん?もしかしてあんた・・・まぁ、それはいっか』


「なに言いかけたんだよ!?っていうか、さらっと流してんじゃねぇよ!!!」

結局俺は、なし崩し的にゴブ子とともに、王に面会することになった。


ちなみにそれをジョーイに話したら、


「おぉ、調査にちょうどいいじゃないか!」

とか言っていた。


もしかしてジョーイの奴、直接この国の王に『魔王とつるんでるんじゃねぇの』とか聞くつもりか?


まさかな。

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