第52話:素敵なイベント

「旅のお方。お助けくださり誠にありがとうございました」

馬車から聞こえてきた声に、俺は確信する。

この声の主、アタリだな、と。


前回の魔王襲来の際に、俺の声判断能力についてはその実力が証明できただろ?


今回は俺の見解をもう少し聞かせてやろう。

この声の主、タイプ的には可愛い系だ。

魔王の時には美人系の声だったが、今回はそれとは声の質が違う。


姫として凛とした印象を受ける威厳は感じられるが、もって生まれた可愛らしさが声ににじみ出ている。

こりゃなかなかの上玉だぞ。


そのご尊顔、是非とも拝見したいものだが。


「よろしければ、中へお入りいただけないかしら?是非とも直接お礼申し上げたいわ」


はいきたー。

ご尊顔拝見決定!

けど、護衛共がそれを許すか?


「よ、よろしいのですか?」

護衛の1人が馬車の人物へと声をかける。


はいはい、そーきますよね。


「えぇ、構いません。よろしいですよね?」

「は、はい。あなたがよろしければ、こちらがどうこう言えません」


しゃぁ!護衛問題も難なく解決ぅ〜。

っていうか、そんなんでいいのか護衛よ。


俺が悪い奴だったら、姫君ピンチだぞ?

いや、もしかするとこれから俺は、姫君に別の意味で手を出すかもしれないわけだが。


「じゃぁ、呼ばれたから行ってくるが・・・礼の件、忘れんなよ」

俺は護衛達へとそう声をかけて、馬車の扉を開く。


それほど大きくない馬車ではあったが、中はそれなりに広く感じる。

最低でも、見た目よりは明らかに広い。

もしかすると魔法かなにかか?


といっても、外からはタタミ1枚くらいの広さと思ったら、中はタタミ3枚くらいだった、程度のもんだが。

っていうか、まさにそのくらいの広さなんだよな、この馬車の中。


そしてくだんの姫君は、入口の正面に鎮座しておられる。

何故かソファーに。


しかも顔には何やら薄そうな布。

後ろの壁は透けて見えるのに顔だけ見えない謎仕様。

ファンタジーですか?


あぁ、ここファンタジーな世界だったわ。


っていうかこれじゃ、ご尊顔拝見できねぇじゃねぇか!


「お礼を申し上げるのに、この布は失礼ですよね」

と思ったら姫君、俺の気持ちを察してかそう言いながら布に手をかける。


っていうか、俺の気持ちを本当に察してたら俺なんか馬車に入れるわけねぇわな。

たまたまだな、たまたま。


そんなことよりご尊顔っ!!


ゴクリと俺の喉が鳴る中、一心に布のさきを見る俺。

そんな俺の目に飛び込んできたのは極上の・・・・・




ジ〇イ子?

んなわけねぇよな。


落ち着いてもう一度、ご尊顔を拝見する。




うん。ジャ〇子だな。

しかも、その肌はどう見ても緑色。




ふっざけんなよおいっ!!!!!

もはや人間ですらねぇ可能性まであんじゃねぇかよ!!!!

魔物か?魔物なのかなのか!?

ギャップがあるにも程があんだろうがっ!!!!!


誰だ!?『もって生まれた可愛らしさが声ににじみ出ている』とか言った奴!!

俺だよ!

何を持って生まれてるって!?

愛嬌だよ!こいつは可愛さじゃねぇ!良くて愛嬌のある顔だよ!!!!


「ふふふ。魔族に会うのは、初めてかしら?」

ジャ〇子、もといゴブ子そう言って笑っている。


あ、魔物じゃなくて魔族って括りなのか。

じゃなくて!!!


クソ!なんでそう、声可愛いんだよっ!!


「改めまして、この度は助けて頂いてありがとう。私は魔族。ゴブリン族の王の娘、ゴブ子と申します」


名前当たっちゃったよ!

ってそこじゃねぇんだよ!


ゴブリンだけど魔族なんだ〜。

ってそこでもなくて!!


あークソっ!ツッコミが追いつかねぇよ!

もう俺の頭じゃ処理できねぇレベルに突入してきてんよ!


こんなイベント、俺の想定にはなかったよ!



ふぅ。心の中で叫びまくって少しは落ち着いたか。

いや、落ち着いてはいないが。


とりあえず、俺はどうすればいいと思う?

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