第51話:面倒なイベントはなるべくスキップしたい

「ってことで、こっちの助太刀をすることになったわけだが。一応確認する。お前ら、盗賊か?」

俺は目の前の賊共に声をかける。


「んなこと、これから死ぬお前に関係ねぇだろうが!

いいから金目の物をよこしやがれ!さもないと殺すぞ!!」


いや、これから死ぬとか言ってんのに、金目の物をよこさないと殺すって、言ってることめちゃくちゃじゃね?


でもまぁ、これでこいつらが盗賊なのは確定な。

まぁ、見るからにモブ盗賊なやつらだから、聞くまでもなかったか。


「悪い悪い。まぁ、とりあえず面倒だから、死んどけよ」

俺は賊共に声をかけると同時に、魔法を【返済】する。

それと同時に、賊全員の首が胴体と離れていた。


相変わらず、威力はすげぇな。


賊共の首無し死体を見た俺の感想だ。

もう、人を、しかも盗賊を殺したことでは罪悪感なんて感じねぇ。


ちなみに、今【返済】した魔法、元はミーシアのものだ。

スキル【全魔法の才能】をジョーイから譲渡されたミーシアは、この5日間魔法の練習を続けていた。


スキルの影響か、魔族という種族の特性か、はたまたその両方か、ミーシアの魔法の威力は通常よりも高いらしい。


途中でジョーイが助けた冒険者の1人が、ミーシアの魔法の威力に驚いていたしな。

そんなミーシアの魔法には、大きな欠点がある。


いや、魔法にというよりも、その魔法を使うミーシアに問題があるんだが。

まぁあれだ。お約束かもしれねぇが魔法がてんで当たらねぇんだよ。


え、この近距離で外す!?ってくらい見事に当たらない。

ジョーイの助っ人にと放った魔法のほとんどが、助けるつもりのジョーイに直撃してたからな。

まぁ、ジョーイはジョーイで、【魔法ダメージ無効】なんてぶっ飛びスキルがあるから、一切ダメージは受けてはいないんだけどな。


ただ、【魔法ダメージ無効】はダメージは無効にするけど、服にまで効果は無いようで、魔法を受けるたびにジョーイ全裸。


いや誰得?

ミーシア得です。


ジョーイが全裸になるたびに、ミーシアが顔を真赤にしながらガン見してたからな。

途中から、ワザとなんじゃね?とか思っていた俺がいる。


ちなみにだが、冒険者がミーシアの魔法の威力に驚いたときは、奇跡的に魔法がジョーイではなく、近くの大岩に当たった。


結果として岩は粉々。


俺はその時決意したね。

俺の【貯蓄】スキルから派生した【スキル常時展開】に、【物理攻撃】でなく【魔法攻撃】を設定しようと。


いや、あれジョーイじゃなかったら死んでるからな?

むしろこれまで、よく助ける対象に当たらなかったよ。

そのへんはきっと、ジョーイの『あらゆる災難を一手に引き受ける』元職業、『巻き込まれし者』の効果なんだろうな。


でもまぁ、あいつの持つ『自身に降りかかる災難に、仲間を巻き込む』スキル、【巻き込みゴメン】がある以上、安心はできない。


だからこそ俺は、【スキル常時展開】に【魔法攻撃】を決めた。


ただ、ミーシアが新たなスキルを持ったことは面倒しか起こさないかというとそういうわけでもない。

俺の【魔法攻撃】の【貯蓄】ストックが、自由に出来るからだ。


【貯蓄】するのであれば、いくらミーシアでも外すことはない。

ゼロ距離で打たせればいいからな。


ミーシアが現在使える魔法は【火魔法】のファイヤーボール、【水魔法】のウォーターボール、【風魔法】のウィンドカッター、【土魔法】のロックストーン、【雷魔法】のサンダーの5つ。

どれも魔法スキルの中でも初級の部類で、普通ならば大したことない威力らしい。


俺が今、賊に【返済】したウィンドカッターだって、普通ならそれなりの魔法使いが使ってやっと1人の首を切れるくらいの代物なんだそうだ。

だがミーシアの魔法の威力はご覧の通り。


しかも、俺が【貯蓄】して【返済】した場合、ミーシアの外れ補正は適用されない。

【返済】してみて思うのだが、何故魔法をあれだけ外すのか。


っと、完全に思考が逸れた。

それよりも今は、大事なイベントの続きだ。


「さてと。これで片付いたぞ」

俺は、護衛であろう男の1人へと声をかけた。


「あ、あぁ。助かった。しかし、なんという魔法の威力。いや、それよりも・・・いくら盗賊とはいえ、なにも殺さなくても良かったのではないか?」

「は?え?もしかしてこの国では、盗賊でも殺したら罪になるのか?」


「い、いや。盗賊であれば殺しても、罪には問われない。しかし、彼らも更生すれば、新たな道を歩むこともできたのではと・・・」

もう1人の男が、申し訳無さそうにそう答える。


「はぁ〜」

俺はため息をついて続ける。


「あのなぁ。あんたらの優先順位はどうなってんだ?この馬車に乗ってる奴を護ることが1番の大事なんじゃないのか?

確かに無理をすれば、こいつら全員を捕縛することは出来たかもしれない。だがその場合、手間は何倍もかかる。馬車の奴を無傷で護れたかはわからねぇんだぞ?」


なんてな。本当はおそらく、そんなに手間ではない。

だが、盗賊の今後なんていうどうでもいいイベントより、その後のイベントが俺にとっては大事ってだけだ。


「た、確かにそうだな。いや、悪かった」


俺の言葉に納得してくれたのか、2人の男は揃って頭を下げてきた。


その時。


「旅のお方。お助けくださり誠にありがとうございました」


明らかに可愛い女の発する声が、馬車の中から聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る