第3話:吹き飛ばしたイノシシの先には
どうやらイノシシの野郎を吹き飛ばした先は、崖になっていたみたいだった。
吹き飛ばされたイノシシはそのまま崖の下。
さすがにもう死んでんだろうけど、それが俺のスキルによるものなのか、崖から落ちたからなのかはさすがにわからなかった。
しかし、とりあえず俺のスキル【貯蓄】、少しはわかってきた。
俺は【貯蓄】で、イノシシの攻撃を貯蓄した。
そして直後にいきなり出てきた派生スキル【返済】で、貯蓄したイノシシの攻撃をそのままあいつに返済した、ってことだろう。
多分。
まだ確証は持てないな。
待てよ。念じればステータスがわかるんなら、スキルの詳細だってわかるんじゃ・・・
俺がそう考えて、スキルの詳細について調べようとしたその時。
「誰かーーーー!助けてくれーーーーーー!」
崖の方から、そんな声が聞こえてきた。
まさか、さっきのイノシシじゃねーだろうな。
俺は恐る恐る、崖の下を覗き込んだ。
崖の下には河が流れていて、さっきのイノシシの姿はもう見えなくなっていた。
その代わりに、崖の途中から生えている木に、1人の男がしがみついていた。
「あぁ、良い所に!キミ、救けてくれないか!?」
男は折れを見つけると、目を輝かせて叫んでいた。
いや、そんな目で見ても、救けねーよ?
手を伸ばせばギリ届きそうな所にいるけど、失敗したら俺もろとも河に一直線だぞ?
何で俺が、他人の為に命張らなきゃいけねーんだよ。
即座に男を見捨てることを脳内会議で決定した俺は、男を見下ろした。
「あー、悪ぃ。無理。自力で頑張ってくれ」
俺は男にそう告げて、その場を後にしようとした。
「いやいやいや、見捨てないでくれ!頼む!礼はするから、どうか救けてくれ!」
「しょうがねーな」
礼という言葉に瞬時に反応した俺は、再び男を見下ろした。
「まだもちそうか?」
「え?あぁ、あと少しなら大丈夫だが、捕まっているこの木、それほど長くはもたなさそうだ!」
あーはい、助けを呼ぶのは無理ね。
「直ぐ戻る。それまで頑張れ」
俺は男にそう告げると、近くの木に近づいた。
運良くその木に巻き付いていた蔓を木と自分に巻き付けながら、俺は考えていた。
(っていうか、普通にここの言葉わかるのな)
あの女、チートな特典なんかないって言ってたけど、転生先ですぐに言葉が分かるって、充分チートだろ。
文字も分かると助かるんだけどな。
(よし、これなら最悪、俺1人なら落ちずに済むだろ)
体と木をしっかりと蔓で繋いだ俺は、崖の方へと近づいた。
「まだ生きてるか?」
「あぁ、良かった!もう逃げたのかと思っていたよ!」
「別に今から逃げても、俺は構わないんだが」
「いや、ごめんなさい!ありがとうございます!救けてください!!」
「ほらよ、捕まれ」
俺はそう言いながら、もう一本の蔓を男の元へと投げた。
一応これも、木に結びつけてるから多分助かるだろ。
「さっさと登れ。あぁ、もし落ちそうになったら、礼とやらだけはこっちに投げろよ」
「そんな殺生な!!」
男は文句を言いながらも、蔓を伝って崖を登ってきた。
崖のヘリに手をかけた男は、
「た、頼む。手を貸してくれ」
そう、俺に助けを求めてきた。
(まぁ、ここまで来たら大丈夫だろ)
そう考えた俺は、男の手を掴もうとした。
その時。
「ブチッ」
見事なまでに音を立てた蔓が千切れ、男の手は空を掴んでそのまま落ちそうになった。
「ちっ」
俺は咄嗟に差し出した手を引っ込めようとしたが、空をいたずらに漂っていた男の手が、たまたま俺の手を掴みやがった。
「クソっ、離せ!」
俺は必死になって男の手を振りほどこうとした。
こういう時、ほんとに死にそうなヤツのほうが力が出るんだな。
結局男は、俺の手を離すことはなく、2人分の体重が掛かった俺の命綱は、
「ブチッ」
と、またしても見事な音を立てて千切れ、俺は男もろとも崖から落ちていった。
「てめー!離せっつったろうが!」
「あの状況でそれはないでしょ!?っていうかキミさっき、僕の事見捨てようとしたよね!?」
「当たり前だろうがっ!俺は他人の命より、自分の命のほうが大事なんだよ!!」
「キミには人の心というものがないのか!?」
「ねーよ!んなもん!!」
「人でなしっ!!」
俺達は言い合いながら、真っ逆さまに河へと向かって落下していった。
「あークソ。テメーのせいで、今度こそゲームオーバーじゃねーか!」
「大丈夫!キミの命は、僕が守る!」
クソ。こいつよく見るとめちゃくちゃイケメンじゃねーか。しかも言うことまでイケメンだし。
なんで俺が、こんなクソイケメンのために死ななきゃいけないんだよ。
俺がクソイケメンを恨みながら今度こそ死を覚悟していると、男の周りが光りだした。
俺達は、そのまま河へとダイブした。
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