第2話:スキル【貯蓄】

森か。


転生っていうくらいだから、生まれるところからのスタートだと思ったがそうではないらしい。


体を動かしてみたが、多少若くなってる気がする。

死ぬときは30だったが、今は20代前半か、下手したら18くらいか。

なんとなく、部活全盛期くらいには動きそうな気がするな。


こっちの方が助かるけど、身分の証明とかどうなってんだ?

いきなりこの姿なら、親もいねーんじゃねーのか?

それとも、この世界に行きてるヤツの体だけ乗っ取ったのか?


いや、多分それはない。

見たところ今は手ぶらだ。こんな森で何の装備もなしってわけはないだろう。


「おっと。それより、スキルってヤツを確認してみるか」


俺はそう呟いて、念じた。


「おぉ、ほんとに出てきたよ」

俺の目の前には、ゲーム画面の様にこんな表示が現れた。



-----------

名前:キンジ

職業:平民

スキル:貯蓄 Lv.1

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は?こんだけ?

ステータス的なのはないのかよ。

それに、職業が平民ってのはなんとなかわかるが、それにもレベルはなし。


で、スキルは【貯蓄】と。

よくわかんねーけど、気に入った。

結局俺は、金貯めるしか能がないってことか。

まぁ、いいんだけどな。


いいさ。ここでも俺がやることは変わらねぇ。

ガンガン金貯めてやるよ。


でも、前回の死で俺は学んだ。

いくらかねを貯めようと、死んじまったら意味がない。


「もう、無理な貯金はやめだ。金は貯めるが、我慢はしねぇ!食いてえもんあったら食うし、女だって抱いてやる!

俺はこの世界で、好きなように生きてやるよ!!」


俺が高らかに宣言すると、近くの茂みからガサガサと音が聞こえ、そこからイノシシのような生き物が現れた。


「は?」


俺が突然の来客にすっとぼけた声を上げている間に臨戦態勢を整えたイノシシっぽい生き物は、そのまま俺に向かって突進してきた。


「うわっ!!」


俺は咄嗟に、身を反らしてその突進を避けた。


(よし、なんとか避けられる!この体、俺の全盛期なんかよりも全然スペック高い!)

そう思いながら俺は、再び来るであろうイノシシへと視線を向けて、絶句した。


イノシシは、俺の背後にあった木々をなぎ倒しながら進み続け、5本程の木を倒したところで立ち止まってこっちに向き直っていた。


(いやいやいやいや、死ぬわ!あんなん当たったら一発で死ぬわ!!転生直後にゲームオーバーだわっ!!あんな攻撃、一発だって当たったら終わりだわ!!!)


俺が冷たい汗を感じながら、どう逃げるか考えようとしていると、突然頭の中に機械的な声が聞こえてきた。


『スキル【貯蓄】に、物理攻撃、単位は1発、で登録しますか?』


(は?なんだよ急に。

スキルに攻撃を登録?


って、もう来やがった!!


あぁもう!なんだか知らねーけど、イエスだ、イエス!!)


俺が機械的な声におざなりに返事をするのと同時に、イノシシは俺の方へと向かってきた。


(スキル【貯蓄】に、物理攻撃、単位1発で登録しました。現在の貯蓄可能数は、2発です)


頭に流れる機械的な声を聞きつつ、一直線に突進してくるイノシシを見て、俺は少し安堵した。


(イケる。この体なら、こんな直線攻撃何度かは避けられる。あとは、スキを見つけて、逃げる!!)


俺は思いのほか性能の高かったこの体に自信を持ち、イノシシが目前に迫るのを待ってヒラリとそれを避けた。


「はぁ!?」

かに思えたのにイノシシの野郎、突然方向転換しやがった。


なんだよ。猪突猛進じゃねーのかよ。

あー。俺の転生、ゲームオーバー。


俺は諦めムードで、イノシシの突進をこの身に受けた。


はずだった。


「「??」」


何故かおれの体に鼻先を付けただけのイノシシと俺は、何が起きたのかも分からず互いに首を傾げていた。


っていうか、イノシシって首傾げるのな。


俺がそんなくだらねぇこと考えてる間に、先に自分を取り戻したイノシシは、その場で再び、俺に突進してきた。


しかしまたしても、イノシシはオレの体に降れた途端立ち止まっていた。


「ブモォーーー!!」


痺れを切らしたのか、イノシシはそう吠えながらそのまま首を振って暴れだした。


「うぉっ!!」


振り回されるイノシシの頭が俺の体に直撃し、今度こそ俺はそのまま吹き飛ばされて近くの木に体を打ち付けた。


ゼロ距離だったから大したダメージじゃない。けど。


「クソ痛ぇっ!!」

俺が体の痛みにそう叫んだとき、またしても脳内に機械的な声が響いた。


『相手の攻撃を貯蓄したことにより、派生スキル【返済】が使用可能となりました』


またわけわかんねーことを。

いや、待てよ。攻撃の貯蓄に、返済だぁ?

もしかして・・・・


試してみる価値はあるか。

あークソ。体中痛ぇ。あと一回避けるのが限界だぞ?


これでダメだったら、そんときはそんときだな。


死を目前に全てが面倒くさくなった俺は、半ば諦めの境地でイノシシと対峙した。


イノシシの野郎、俺を待っていたかのように笑ってやがる。

イノシシも笑うのな。


あークソ。馬鹿なこと考えてるうちに向かってきやがった!


「てめーの攻撃、きっちり返済してやるよ!!」


向かってくるイノシシにそう叫んだ俺は、イノシシが目前に迫る瞬間、一歩前に出た。


「ぐっ!」


腕にイノシシの鼻先を掠めながらもなんとかヤツの側面に出た俺は、方向転換しようとするイノシシの横っ腹を、思いっきり殴りつけながら念じた。


(返済っ!!)


それの拳がイノシシの胴体に触れた瞬間、生き物を殴ったことのない俺でもわかるくらいの衝撃がヤツへと巡り、そのままイノシシは吹き飛ばされていった。


「っしゃぁ!!」


そのまま木々をなぎ倒しながら吹き飛んでいくイノシシに目を向けながら、俺はその場で吠えた。

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