守銭奴、転生する

第1話:転生

(ん?ここはどこだ?)

気が付くと俺は、見たこともない真っ白い部屋にいた。


(さっきまで俺は、部屋にいたはずだ。何でこんなところに)


寝ぼけ眼で辺りを見回すと、部屋の真ん中にテーブルと椅子があり、そこに1人の女が居た。


白く透けるような肌のその美しい女は、胸元の大きく開いたドレスのようなものを着ていた。


(寝ぼけて風俗にでも来たか?いや、俺に限ってそれはあり得ない)


そう。あり得ない。いくら寝ぼけていたとはいえ、この俺が金のかかるようなことをするわけがない。


(ってことは、誘拐・・・ってんなわきゃねーわな。いくらお金ちゃんをそこそこ貯めたからって、俺を誘拐するメリットがあるわけない)


ということは。


「転生でもすんのか?」

「わぁお。こんなに飲み込みの早い人、初めてだわ」


優雅に椅子に座っていた女が、おどけたように言っていた。


まぁ、女から早いって言われても、嬉しくもなんともないんだけどな。


「ってことは、アンタは神かなんかか?」

「私を神だと思ったにしては、不遜な態度ね」

女は、未だにふざけたようにおどけた顔でそう言っていた。


「別に俺、神とか信じてないんで」

そう、神なんているわけがない。いるんなら、世界平和なんて余裕だろ?

それをしない神なら、信じる価値もない。


「にしても俺、死んだのか?」

「ほんと、説明の手間が省けて助かるわ。そう、あなた、元いた世界では死んじゃったの」

女は、悲しそうな表情でいっていた。


ムカつく。悲しそうに演技してんのバレバレだっつーの。なんなんだよこいつ。


「すみませーん、チェンジでお願しまーす!」

「そういうのないから。っていうか、時間の無駄だしさっさと説明するわよ?」


そう言いながら女は、俺に自分の向かいに座るように促してきた。


とりあえず逆らう理由もないし、座るけど。


くそ、見れば見るほどいい女だな。

あ、死んでもムラムラはするんだな。


転生する前に、ヤラせてくんねーかな?


「ちょっと。変な事考えるのやめてもらっていい?気持ち悪いんだけど」

「心の中読めんのかよ。いいじゃねーか。どうせ死んでるんだったら、一発くらい」


「誰があんたみたいなクズと。そんなことより、さっさと説明するわよ。

さっき言ったように、あんたは死んだ。で、これからあんたを転生させるわ」

「説明雑だな」


「細かく説明するのが面倒なのよ」

「あっそ。ちなみに、俺はなんで死んだんだ?まさか、栄養失調か?」


「いいえ。それも原因の1つではあるけど、1番の原因はガンね」

「ガン?俺、ガンだったのか?」


「やっぱり気付いていなかったのね。あなた時々、体が痛んだりしたでしょう?体中に転移していたようだからね。ちなみに、あんたがこれまで貯めていたお金があれば、生き延びることはできたはずなのよ?」

「そりゃ皮肉なことで。まぁ、もうどうでもいいけどな」


「あら、自分が残したお金がどうなるのかとか、気にならないの?」

「自分が死んだあとのことになんか、興味ねーよ。

そんなことより、これからのことだ。俺は転生された先で、何やればいいんだよ?」


「何もしなくていいわ」

「は?」

どういうことだ?


「何もしなくていいって言ってるの。勘違いされちゃ困るから先に言っておくけど、別にあなたは特別に選ばれた訳でもなんでもないから。

私は転生ノルマを達成したいだけなのよ。

そこに、たまたま死んだあんたを使ってるだけだから」


「ノルマとかあるんだ。あんたも大変だな。

じゃぁ俺は、転生された先で好きなように生きていいんだな」

そりゃ、ラクで助かるわ。


「ええ、それでいいわ。転生したら、金輪際あんたと関わることもないから」

「ああ、さいですか」


「なによ。えらく諦めが早いわね。こういうときあんたの国の他の人達だったら、文句の1つも言うんだけど?」

「別にどうでもいいんだよ。あんたはただ、俺を自分の仕事のためのコマくらいにしか思ってないだろ?

その考え方、なんか俺に似てる気がしてな。

だから、文句言ったら自分を否定することになりそうだから何も言わないだけだ」


「あなたと似ていると言われるなんて、釈然としないけどまぁいいわ。

それで、あんたの転生先だけど・・・

剣と魔法のファンタジーな異世界と、ゆるふわな可愛いキャラクターたっぷりのファンタジーな異世界、どっちがいいかしら?」


「前者1択だな」

「即答ね。あなた、そういうのよく読んでるみたいだものね。わかったわ、じゃぁ剣と魔法のファンタジーな異世界に転生させてあげる」


「ちなみに、チートな特典は?」

「そんなもの、あんたにはつけないわよ、面倒くさい。一応、あんたのこれまでの生き方に基づいてランダムでスキルが付くはずだから、それで我慢して」


「スキルがある世界か。まぁ、何かつくんならそれでいい。で、そのスキルってのはどうやって調べられるんだ?」

「心の中でステータスを確認したいと念じれば、見られるはずよ」


「ほんとによくある異世界転生だな」

「ま、そういうことよ。あ、1つだけアイテムをあげる。誰も選ばなかった残り物。在庫処分セールね」


「まぁ、もらえるもんは貰うさ。最悪、売ればいいんだしな。で、どんなアイテムだ?」

「1度だけ、どんな生き物も隷属させることの出来る首輪よ。まぁ、いきなり強い魔物なんかを隷属させることも出来はするけど、普通はその前に殺されるから、使い時がいまいちなんだけどね」


「なるほど。そりゃ誰も貰わないわけだ。その首輪を付けられるってことは、既にその魔物より自分が強くなってる可能性が高いからな」

「そういうこと。他に、何か質問はある?」


「なぁ。やっぱり転生する前に、一発だけ・・・」

「ないみたいね。じゃぁ、さっさと転生してちょうだい」


俺の言葉を遮るように女が手を払うと、俺の目の前が真っ暗になった。


いや、いつの間にか目を閉じていたみたいだ。


そう思って目を開けてみると、そこは鬱蒼とした森の中だった。


どうやら、無事に転生ってやつは終わったらしい。

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