第4話:ジョセフという男
(ん?ここはどこだ?)
いつの間にか寝ていたらしい俺は、重いまぶたを開き、目をこすりながら周りを見渡した。
俺は確か、河に落ちたはず。
なんでこんな洞窟みたいなとこにいるんだ?
しかも、服も濡てねー。
また転生でもすんのか?
「おっ、目が覚めたみたいだね」
その時、洞窟の入り口から男が現れた。
「お前は・・・」
こいつ、俺を巻き込んだクソイケメンじゃーねか。
「ちっ。お前のせいで死ぬとこだったんだぞ」
俺は男を睨みつけた。
「そう言わないでくれ。あの時は必死でね。悪かった。でも僕のお陰で、命が助かってもいるんだよ?」
男はそう言いながら俺の隣へと腰掛けた。
「命が?お前、何をした?」
「そのお前、っていうのはやめてくれないか?僕にはジョセフって名前があるんだ。仲の良い人からは、ジョーイって呼ばれてるよ」
そう言って男、ジョセフはウインクした。
ちっ、男のウインクとか誰得だよ。
格好良いじゃねーかよクソが。
「あー、それでジョセフ。一体何が起きた?」
「あれ?ジョーイって呼んでくれないのかい?」
「いやそれ、仲の良い奴が呼んでんだろ。なんで会ったばかりで、しかも危うく俺を殺しそうになった得体のしれないヤツと仲良くならなきゃいけねーんだよ」
「散々な言われようだな」
ジョセフはそう言って苦笑いを浮かべた。
「その前に、名前」
「は?」
「いやだから、キミの名前は?」
「なんでお前に教えなきゃいけないんだ」
「僕が教えたから」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だぁっ!!わかったよ!いつまで見てんだよ!?」
俺はジョセフの視線に負けて、名乗ることにした。
クソ。なんでこんな奴に。
「キンジ」
「キンジ・・・珍しい名前だね。キンジはこの辺りに住んでいるのかい?」
「お前、馴れ馴れしいな」
「ジョセフ」
「お前、うるさ―――」
「ジョセフ」
「お前、しつこい―――」
「ジョーイ」
「あぁ!うるせぇ!しかも何をしれっと仲良い方の名前ねじ込んでんだよ!!」
「だって、キンジが僕と距離詰めてくれないから」
「お前―――」
「ジョーイ」
「ちっ。ジョセフは距離が近すぎんだよっ!!」
「分かってくれたか!まぁ、ジョセフなのはちょっと悲しいけど、まずは第一歩だね」
「うるせーよ!話が進まねーよ!」
「あー、悪い悪い。えーっと。僕の距離が近いって話だったね。そうなんだ。それ、皆に言われる―――」
「もうそれはいいんだよ!それよりも、何があったか教えろ!」
疲れる。こいつの相手、めちゃめちゃ疲れる。
「あぁ、そっちの話か。簡単だよ。僕のスキルで、落下ダメージを無効化したのさ」
「スキルだと?」
「そうさ。勇者ジョセフのスキルの1つ、【落下ダメージ無効化】さ」
「は?勇者?お前が?」
俺はジョセフの言葉を聞いて、疑りの目を向けた。
「あ、信用してないね」
「そりゃ、お前みなさたいなやつが勇者だなんて言われてもな。勇者ってのは、誰でもなれるもんなんだな」
「そんなわけないじゃないか。勇者は突然、この世にひとりだけ与えられる職業なんだから。知らないのかい?」
ジョセフはキョトンとした顔で俺のことを見ていた。
そんなに驚いているってことは、その勇者の話が本当だった場合、それは常識ってことか。
それにしても、こいつが勇者?
ありえねー。こんな奴が勇者だなんて、世界、ゲームオーバーじゃねーか。
「あ、疑ってる!本当なんだよ!僕は勇者なんだからね!?」
「で、その勇者様がなんだって崖なんか落ちそうになってたんだよ?」
「僕の話は無視なんだね。いやー、恥ずかしい所をみられたよね。なにせ、突然ボアが飛んできたもんだからね」
「ボア?」
「あれ?知らない?なんかこう、豚みたいな、イノシシみたいな・・・」
イノシシ。俺を襲ってきたヤツみたいなのか。
ん?・・・・
うん。どうやら俺のせいみたいだな。
俺が若干の罪悪感からそっと勇者様(笑)から目をそらしていると。
「ちょ。なんで目をそらすの―――あれ?」
ジョセフはそう言いながら、俺の足元へと目を向けた。
あの女からもらった首輪が、落ちていたみたいだ。
俺が座ったまま手を伸ばしてそれを拾おうとすると、ジョセフがすかさずそれを拾った。
「これ、キンジのか。格好良いアクセサリーだな。折角なんだから身に着けないと勿体ない。よし、着けてあげよう」
「ちょ、待て!」
「ガチャリ」
俺の静止を振り切って、ジョセフは俺の首にその首輪を嵌めた。
『職業が、【平民】から【勇者の奴隷】に変更されました』
そんな無感情な声が、俺の脳内に響き渡った。
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あとがき
6/29~7/1の間は、毎日正午に1話更新させていただきます。
その後は、月水金のみの更新を目指します。
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