第5話:勇者ジョセフの奴隷

「は?」

俺は、突然のことに声を漏らした。


「え?えぇっ!?キンジが、僕の奴隷!?っていうか何!?今の声!?怖い、怖いよっ!!」

ジョセフはジョセフで、何やら狼狽えていた。


恐らく、俺を奴隷にしたって声でも聞こえたんだな。


あの脳内に響く声、この世界でのデフォルトじゃないのか?


って今はそれどころじゃねぇ!!


「てめーっ!何てことしてくれてんだよ!?」

俺はジョセフに掴みかかった。


「キンジ!?今の何!?っていうか苦しい!離してくれよ!」

「うるせぇ!何で俺がお前の―――」


い、息が・・・・


俺は突然首が締め付けられ、声を失った。


く、首輪が絞まる!

そうだ、これを外せば・・・


俺は咄嗟に、首輪を外そうとジョセフから手を離した。

その瞬間、それまで首を締めつけていた首輪が緩んだ。


あー、なるほど。

御主人様に危害を加えたらこうなる訳か。


「だ、大丈夫かい!?」

ジョセフが慌てたように、俺の元へと駆け寄ってきた。


ちっ、誰のせいだと思ってるんだよ。


「き、キンジ、一体何が起きてるんだ?」

「はぁ。どうやら俺は、お前の奴隷になっちまったらしい」


「は?え?なんで!?何で急にそんなことに!?

もしかしてきみは、そういう趣味なのかい?」

「んなわけあるかっ!この首輪のせいだよ!!」


「く、首輪?」

「そうだよ!これはなぁ、1度だけどんな生き物も隷属させることの出来る首輪なんだよ!」


「そ、そんなアイテム、聞いたこともない。でも、今の不思議な声のこともあるし、キンジを信じるよ。でもキンジ、一体どうしてこんなアイテムを。きみは一体、何者なんだ?」

「・・・・・・くっ」


また首輪が締まり始めやがった。

御主人様の質問には答えろってことか。


俺は仕方なく、ジョセフに答えようとした。


「あ、いや、今のナシ!答えなくていいです!!」

ジョセフは、慌てたように大声を上げた。


緩む首輪に、俺はなんとか息ができるようになってジョセフを見つめた。

こいつもしかして、俺を助けてくれたのか?


「すまない。どうやら君の職業は、本当に僕の奴隷になってしまったみたいだね。僕の質問に答えようとしないままでいたキンジの首を、その首輪が締め付けているのを見て確信したよ」

その直後、ジョセフが頭を下げた。


「本当に申し訳ない!」

「な、なんだよ。急に謝りやがって。いや、謝るんなら奴隷ってやつから開放してくれねーか?」


「更に申し訳ない!さっきから解除しようと念じてはいるんだが、頭の中で『キンジは一生、あなたの奴隷です』と繰り返し聞こえるんだ!もう怖くてたまらないよ!」

「はぁ!?一生だと!?おまっ、ふざけんなよっ!!」


俺がジョセフに叫んだとき、俺達のいる洞穴の奥から、


「グォーーーーーっ!!」


そんな声が聞こえてきた。


「あー、忘れてた。この洞穴、レッドベアの住処だったんだ」

ジョセフが、ボソリと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。


「おまっ、何でそんなとこで休んでたんだよ!」

「寝てるし大丈夫だと思ったんだよ!君が怒鳴ってばっかりだから、起きちゃったんじゃないか!」


「誰のせいで怒鳴ったと思ってんだよ!!」

「だから、それは謝っているだろう!?」

俺達が言い争っている間に奥からやって来た赤黒い熊のようなヤツが、俺達をギロリと睨んでいた。


「ゆ、勇者様、お前ならあいつくらいどうにかなるんだろ?」

俺が縋るような目でジョセフを見ると、


「あっはっは〜、そんなわけないじゃないか!僕は今朝、村から旅に出たばかりで、装備すらないんだよ?」

ジョセフは涙を浮かべて返してきた。


その言葉に俺達は互いに頷き合い、


「「逃げろっ!!」」


一目散に洞窟の出口へと走り出した。


「うわっぶ!」


次の瞬間には、なにもない所で躓いたジョセフがそう声を漏らしながら見事に転倒していた。


「お前のことは忘れないぞ!」


俺は少しの迷いもなくそう地面に這いつくばるジョセフに言葉を残し、振り返ることもなく出口を目指した。


「いやっ、ちょ、助けてくれよっ!!」


ジョセフの言葉なんて少しも聞こえない俺は、


「ぎゃぁーーーっ!!」


そんなジョセフの叫びも無視してさらに前へと進もうとするが。


「ぐっ!」


突然締め付けられる首の苦しみに、俺はその場で足を止めてしまった。


御主人様を見捨てたりはできないってか。


「あぁ、クソっ!!」


助ける選択肢しかないからか、俺が振り向くと首の締め付けはなくなり、俺はそう呟いてジョセフの元へと走り出した。


確か、あのボアとかいうイノシシから受けた一発がまだ残っでたはずだ。


それで倒せるかは知らねえが、やりゃぁいいんだろうが!


できれば俺がどうにかする前に、ジョセフが死んでくれるとこっちは助かるんだけどな!


って、そんなこと考えるだけでも首輪締まるのかよ!

こいつタチが悪ぃな!

わざとダラダラもできねぇってことかよ!!


「はいはい、やりゃぁいいんだろうがっ!!」


俺はそう叫びながら、ジョセフにのしかかっている熊を殴りつけた。


(返済っ!)


俺がそう念じると、熊はその場から吹き飛ばされ、はしなかった。


何事もなかったかのようにその場に留まっていた熊は、俺のただの『喧嘩したことないパンチ』の当ったのを確認すると、


「ふんっ」

と鼻で笑っていた。


熊って、鼻で笑うのな。


っていうかここの生物、なんか人間臭くね?


俺は目の前のピンチに、現実逃避を始めていた。

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