第6話:勇者の特権
(ちっ、何故【返済】が発動しない!?)
俺がそう考えている間に、先程まで俺を鼻で笑っていた熊が、その爪を振り下ろしてきた。
「くっ!」
咄嗟に腕をクロスしてそれを受け止めると、ヤツの爪は俺の腕に触れた瞬間、ピタリとその場で留まっていた。
どうやら、【貯蓄】の方はちゃんと働いてくれているみたいだな。
俺は熊を鼻で笑い返し、自身の攻撃が止まったことにオロオロしている熊へと拳を振り上げた。
ちゃんと出やがれ!!【返済】っ!!
俺の拳がヤツの顎へと直撃した瞬間、イノシシを殴ったときよりも強い衝撃が発生し、ヤツの頭は粉々に吹き飛んだ。
どうやら今度は【返済】できたらしいな。
ならば何故、さっきは使えなかった?
MP的な問題か?
さっき見たときには、ステータス上にそんなものなかったはずだが。
こりゃ、後でもう1度じっくり、ステータスを確認する必要がありそうだな。
(それはさておき)
俺は、先程まで熊にのしかかられていたジョセフだった物へと目を向けた。
「あー、残念だ。安らかに眠って―――」
「死ぬかと思ったぁ!!」
そう言いながら、ジョセフがガバッと起き上がった。
「ちっ、生きていやがったか」
「ちょっとキンジ、それひどくない!?」
ジョセフはピンピンした様子で、俺に食って掛かってきた。
こいつ、めちゃめちゃ元気じゃねーか。
俺は生暖かい目でジョセフを見ていた。
「いやー、【物理ダメージ半減】のスキルがあって助かったよ!本当にもう、ダメかと思った!
それにしてもキンジ!僕を見捨てるなんて酷いじゃないか!」
「あー、いや、待て。なんか色々整理がつかねぇ」
俺は頭を抑えながら、ジョセフを制止した。
「お前のスキルは、【落下ダメージ無効】だけじゃなかったのか。スキルってのは、そうポンポン覚えられるもんなのか?」
「あれ?知らないのかい?普通スキルは、1人につき1つだよ。たまに派生スキルってのはあるみたいだけど」
「おい。じゃぁ何でお前は2つもスキルを持っている。どっちかが派生スキルってやつなのか?」
「いや、そうじゃない。僕だってもとは1つしかスキルを持っていなかったさ。ただ、勇者になったときに、スキルが増えたんだよ。
僕の持つスキルは、【落下ダメージ無効】【物理ダメージ半減】【魔法ダメージ半減】と、あとは元々持っていたスキルで、合計4つあるんだ。
これは、勇者という職業にだけ許された特権らしいよ」
「防御系ばっかじゃねーか。ちなみに、あと1つはどんなスキルなんだ?」
「まぁ、それはいいじゃないか。それよりキンジ。このレッドベアは、君が?」
首から上が見事に無くなった熊を見つめながら、ジョセフがゴクリと唾を飲んだ。
「まぁな」
「凄いじゃないかキンジ!レッドベアは、戦士の職業を持つものでも簡単には倒せないんだぞ!?
君は一体、どんな職業なんだ!?」
「今は、【勇者の奴隷】だな」
「あ・・・・・」
俺の嫌味に、ジョセフは申し訳無さそうな顔をしていた。
「そのことは、本当に申し訳ないと思っている。だが、申し訳ないついでに、1つ頼みを聞いてくれないだろうか?」
ジョセフは、頭を下げながらもおずおずと俺の顔を見上げていた。
俺が黙ってそれを見下ろしていると、ジョセフは意を決したように口を開いた。
「僕は魔王を倒さなければいけない。キンジ、どうか僕の旅についてきてくれないか?」
「嫌だね」
「即答!?」
俺の言葉に、ジョセフは頭を上げた。
「なんで俺が、そんな危なさそうな旅に付き合わなきゃいけないんだよ。俺はな、ガンガン金稼いで、悠々自適に生きたいんだよ」
っていうか、魔王とかいるんだな。
そんなん絶対死ぬわ。
職業、元平民だぞ?
いや、俺が勇者だとしても、絶対にゴメンだ。
ジョセフよ、頼むからその旅でさっさと死んで、俺を解放してくれ。
(主人が寿命以外で死んだ場合、奴隷は自動的に死を迎えます)
俺の頭に、そんな声が響いてきた。
いや余計な情報をありがとうございます!
なんだよそれ!
最悪じゃねーかよ!!
「キンジ、今の・・・」
ちっ、こいつにも聞こえたか。
「クソっ、面倒なことになったな。全部お前のせいだからな!?」
「あぁ、本当にすまない。こんなことに巻き込んでしまって。それで、旅の件は・・・」
「だから嫌だっつってんだろ?要はお前が死ななきゃいいだけだろうが!」
「そんなっ!自慢じゃないが僕は、今日村を出たばかりの新米勇者なんだよ!?
しかもスキルだって攻撃に使える物はなにもない!
君のような強い味方がいてくれないと、僕はすぐに死ぬ自信があるっ!!」
「変な自信持つなよ!生きろよ!精一杯生き抜いてみせろよ!応援してるから!」
「他人事!?頼むキンジ、この通りだ!」
そう言ってジョセフは再び頭を下げた。
「どんだけ頼まれようと、お断りだ」
「頑な!しかし、確かに危険な旅であることは間違いない。君が断るのも無理はないか。仕方ない。魔王を倒せば報奨金が出る。僕はその全てを君にあげても良いと思っていたのだが・・・」
「いくらだ?」
「へ?」
「その報奨金ってのは、いくらなんだ?」
「あ、あぁ。昔噂で1度聞いたが、途方も無い額だったので覚えていないんだ。
僕はこれから、王様の元に勇者として行かなければならない。そこで、報奨金の話にもなるとは思うが・・・」
途方も無い程の金、か。
いや、しかし、命をかけるのは・・・・
よし、決めた。
「ジョセフ。今の話―――」
「受けてくれるのか!?」
「気が早い。一旦保留だ。金額を聞いて、再考してやるよ」
「おぉ、それでも良い!そもそも僕は、王都にたどり着けるかも自信がなかったんだ!そこまでついてきてくれるだけでも助かるよ!」
ジョセフは涙を流して喜んでいた。
「王都か。
どちらにしろ、ある程度人のいる所には行きたかったからな。
そこまでの間は、付き合ってやろう」
俺は、ため息交じりにジョセフへと言った。
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