第21話:勇者の従者

「うわぁ〜。まさか勇者様、職業で差別された俺は助けてくれても、魔族ってだけでミーシアを拒否るんだ〜」


俺のそんな言葉に、ジョーイは俯いていた。


ミーシアはただ、そんなジョーイを悲しそうに見つめていた。


あーあ。

勇者様、こんな綺麗な女を悲しませちゃったよ。


「・・・・確かに、キンジの言うとおりだね」

ジョーイは、そう言って顔を上げた。


「僕が間違っていたよ。種族なんて関係ない。別に彼女が、僕達に何かをしたわけじゃないんだ」

そう呟くように言ったジョーイは、ミーシアを見つめた。


「ミーシアさん、本当に申し訳ない。もしもあなたさえ良ければ、僕等についてきて欲しい」

ジョーイはそう言って、ミーシアに笑いかけた。


「ほ、本当に良いのですか?私は、魔族なのですよ?」

ミーシアは、戸惑いながらジョーイに答えていた。


「もうそんなこと、気にしません。ミーシアさんは、ミーシアさんです!」

ジョーイがそう言うと、ミーシアは突然その場に跪いた。


「勇者ジョセフ様。あなた様に救われたこの命、勇者ジョセフ様に捧げます。どうか私も、あなたの奴隷にしていただきたく―――」


「あーっ!!待って待って!硬い!硬っ苦しい!

奴隷とか、僕嫌だからね!それにジョセフ様なんて呼ばないでください!

ミーシアさんは、僕の2人目の友達なんですからっ!!」


ジョーイは慌ててそう言って、ミーシアの言葉を遮った。


おお、ジョーイ良いこというじゃねーか。


でも、ミーシア。

あんたの命を救ったの、俺じゃね?

どうせなら俺の奴隷に・・・・


あー、やばい。

奴隷にイケナイことするご主人様になっちゃいそうだわ。


俺が、1人モンモンとしながら心の中でミーシアにツッコんでいると。


「「えっ!?」」


ジョーイとミーシアが、同時に声を上げた。


え、なになに?

なんで2人して声揃えちゃってんの?

俺ちょっとジェラシーなんですけど。


「私が、勇者の、従者・・・」

ミーシアが、ぼそりと呟いた。


あれ、それなんか聞いたことあるぞ。


「あわあわあわあわ」

かたやジョーイは、1人あわあわしていた。


っていうか、ホントにあわあわ言うやついるんだな。


「なんだよ2人して。どうしたんだよ?」

俺は、あわあわしているジョーイを無視してミーシアに話しかけた。


「どうやら、私の職業が【勇者の従者】に変更されたようなのです」

そう返すミーシアの目からは、涙が溢れていた。


あ、それさっき、俺が成りそこねた職業じゃん!

うわ、ミーシア可哀想。

奴隷の首輪とか関係なしに、あんな奴の従者認定されちゃったよ。


とりあえず、これでミーシアの中でのジョーイに対する評価はだだ下がりだな。

勇者様ざまぁ。


はい。これでミーシアちゃん頂きました〜。


「あーぁ。勇者様、女を泣かせちまったぞ?」

俺は、内心ほくそ笑みながらもそれを表に出さず、ジョーイに言った。


「あぁ・・・僕はなんてことを!ミーシアさん、本当に申し訳―――」


「ありがとうございますっ!!」


「「はい??」」


ジョーイの言葉を遮るように頭を下げたミーシアに、今度は俺とジョーイが声を揃えた。


いや、こんな奴とハモリたくなんてないんですけど。


「え、あの・・・・」

ジョーイが再びあわあわしていると。


「これまで無職だった私に、職業を与えてくださり、本当にありがとうございます!

こんな私ではありますが、これから貴方様に一生ついていきます!」


あれ、ミーシア喜んじゃってるぞ?


「えっと・・・そんな職業なのに、いいのかい?」

ジョーイは恐る恐る、ミーシアの顔を覗き込んだ。


いや、ほんと、いいのかミーシア?

勇者ジョーイの従者】なんて、クソ職業オブ・ザ・イヤー獲得できるレベルだぞ?


【明日潰れる会社の社畜】の方がよっぽどマシだぞ?


「良いなんてものではありませんっ!!職業は、変えることが出来ないのがこの世の摂理。私は一生、無職だと諦めていました。なのにジョセフ様のお陰で、私は職業を得ることが出来たのです!

これを喜ばずして、何を喜ぶと言うのでしょう!!」


いやミーシア。

なんかキャラ変わってねぇ?

なんでそんなに芝居がかってんの?

そして、なんでそんな熱い視線をジョーイに送っちゃってんの?


突然のキャラ変と共にテンションが臨界点を超えたミーシアに、しばし呆れる俺とジョーイ、そして完全に影の薄くなったクリアは、ひとまず王都へと帰ることにして、ミーシアを引きずるようにその場を後にした。


帰る道中、懐の心許なくなっていた俺は、ボアを数体見つけて瞬殺したわけだが。


そんなことをいちいち説明する気にもならないくらい、ミーシアのジョーイに対する熱い視線が気になった。


え?

少し前まで、ミーシア俺といい感じじゃなかった?


いや、たぶんこれは、ただの感謝の気持ちを込めているだけだ。

うん、きっとそうだ。

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