第20話:行く当てのない女は見逃さない

俺が魔族の女に見惚れている間に、ジョーイが捕まっていた奴らを解放し終えていたみたいだ。


「本当にありがとうございましたっ!」

捕まっていたいた奴らは、ジョーイにそう言うと勝手に外へと出始めた。


いや、礼なら俺に言えよな。


「っていうか、勝手に出ていってるけどいいのか?王都に連れて行けば、謝礼とか出るんじゃないのか?」

俺がジョーイに声をかけると、ジョーイの隣にいた男が、俺へと目を向けた。


「皆、【無職】の者たちですから。どこへ連れて行こうと、誰も感謝なんかしてくれませんよ」

男はそう言うと、苦笑いを浮かべた。


いや、あんた誰だよ。


「あぁ、彼はクリオ君のお父上、クリアさんだよ」

ジョーイがそう言いながら、男の紹介をしてきた。


いや、誰だよって言ったけど、そこまで興味はなかったわ。


まぁ一応ガキの親父を見つけたんだから、ミッションはクリアってことか。

クリアだけに。

・・・・・・・・・・・・ま、どうせ礼もないんだろうけどな。


「っていうか、あんたは俺のこと、見下さないんだな」

「ははは。命の恩人にそんなことをする程、落ちぶれてはいないつもりなんですよ」

クリアはそう言うと、俺に笑顔を向けていた。


ちっ。良い奴じゃねーか。こんな奴でも、職業1つで扱いが悪いなんて、やっぱりこの世界、腐ってんな。


「そっか。まぁ、別にいいんだけどな。ところで・・・・」

俺はクリアにそう答えて、魔族の女に視線を移した。


「あんたは帰らないのか?」

帰るんなら、家まで送るし、そのまま頂いちゃいますけど?


「ミーシア」

「ん?」


「私の名は、ミーシアだ」

ミーシアはそう言って、俺を見つめ返してきた。


もう、この瞳に吸い込まれても良いです、はい。


「そっか。俺はキンジな。あっちのバカ面は、ジョーイ。またの名をジョセフバカだ」

「おいキンジ!今変なルビが見えたぞ!」

ルビとか言うなバカ。だからお前はバカなんだよ。

この駄勇者が。


「漏れてるから!心の声漏れてるから!駄勇者ってひどくない!?」

1人で盛り上がるジョーイを見てミーシアは、


「あの人が、勇者・・・」

「あぁ。一応そうらしいぞ」


「ということは、キンジはあの人の奴隷なのですね」

「・・・・あぁ。一応そうらしい。非常に不服ではあるがな」

俺はそう答えて、ミーシアを見つめた。


やっぱ綺麗だな。じゃなくて。


「それで、ミーシアは帰らないのか?」

「私には、帰るところがないのです」


「なんでだ?魔王の所にでも帰れるんじゃないのか?魔族なんだし」

「あなた方は、誤解しています。魔族と言えども、全てが魔王様に従っている訳ではありません」


「その割には、『魔王様』なんだな」

「あなた方だって、自分達の王は、王様と呼ぶでしょう?

私にとって魔王様は、ただ私が生まれた場所を支配していた存在に過ぎません。会ったことも、見たこともないのですから。ただ、偉いのだと教え込まれてきたからそう呼んでいるだけです」


「王、ねぇ。俺達はアイツのこと、豚って呼んでるけどな」

「いや、そう呼んでるのはキンジだけだからね!?僕まで巻き込まないでくれないか!?」

ジョーイは俺に抗議の叫びを上げ、隣のクリアは目を見開いて俺を見ていた。


いや、おっさん。そんなに驚くことか?

っていうか、なんでジョーイの周りには必ず1人はおっさんがいるんだよ。


俺はおっさんクリアから目をそらし、目の保養のためにミーシアに視線を移した。


ん?どうしたんだ?ミーシア、なんか顔が赤くないか?


俺がそう思ってミーシアの顔をのぞきこむと。


「ぷっ。あはははは!」

ミーシアは突然笑いだした。


「確かに。私も1度見かけたましたが、あれは確かに豚ですね。わかりました。では私も、これからは『魔王』と呼ぶことにいたしましょう」

ミーシアは、そう言って笑っていた。


なんか知らんが、ウケたみたいなら良かった。


「で、ミーシア。帰るところが無いっていうのは、どういうことなんだ?」

ミーシアがひとしきり笑って落ち着いたのを確認した俺は、話を戻した。


「先程あの男が言っていたように、私にはスキルも職業もありません。強さが全ての我々にとって、それは忌むべきこと。

私は、村から追い出されたのです」

ミーシアは、先程の笑顔と打って変わって悲しそうな表情を受かべた。


しまった。

見事に地雷を踏み抜いた。


ん?待てよ。行くところが無いなら・・・・


「だったら、俺らと来るか?」

俺の一言に、ミーシアは驚いていた。


「い、良いのですか?」

「別にいいんじゃねーか?なぁ?ジョーイ」

俺はジョーイへと目を向けた。


「・・・・・・・・」

しかしジョーイは、何も言わず押し黙っていた。


「うわぁ〜。まさか勇者様、職業で差別された俺は助けてくれても、魔族ってだけでミーシアを拒否るんだ〜」


俺は、ジョーイを蔑むように見つめた。

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