第43話:魔王、去る
「で、話進めていい?」
「あ、ああ。先程はすまなかった。それで、話というのは?」
魔王の言葉に、ジョーイが返事をしている。
まさかのジョーイが司会進行?
「まぁ、話ってほどでもないんだけどねぇ~」
俺の心の中でのツッコみなどいざしらず、魔王がケラケラと笑いながらそう返していると。
「魔王様っ!我々はいつまで待てば良いのですかっ!?」
突然扉が開け放たれ、そこからさっきの骸骨が入ってきた。
あぁ、やっぱあれ、見間違いじゃなかったのか。
「はひっ!?」
なんかジョーイの方から変な声が聞こえてきたのはこの際無視するとして。
「あぁもう!話進まないじゃん!!!」
突然の乱入者にそう叫んだ魔王が、扉の方へと手をかざしている。
あら?なんか骸骨止まっちゃってますけど?
っていうかその後ろに、三つ目のやつと鬼みたいなやつまでいるんですけど!?
まぁ、そいつらも骸骨と同じように止まってるわけだが。
「は?なんだこいつら。なんで止まってんだよ」
「私が時間を止めてんの」
俺の疑問に、魔王はなかなかにぶっ飛んだ回答をよこしてきた。
「えーっと。マジで?っていうかよく、こいつらかこの街に入って騒ぎにならなかったな」
「それは、私が街ごと時間を止めてるからよ。私一人で来るつもりだったのに、こいつらがどうしてもっていうから仕方なくね」
いやいや。仕方なくで街の時間止めてんのかよ!?
魔王とんでもねぇな。
こりゃもう、ジョーイに勝ち目ねぇわ。
ちなみに、ジョーイの方も動きが止まっている。
あー、ちょっと違うわ。
こいつ、乱入してきた骸骨にビビって気絶してんだわ。
もう、どうしようもねぇじゃん勇者。
何故こいつが勇者になった。
「はぁ。で、話進めるけど・・・って【勇者】君?」
「あー、わりぃ。そいつ多分、オタクの部下?のせいで気絶してるわ」
「えぇ〜。【勇者】がそれで大丈夫なの?」
「それには激しく同意する」
「はぁ。まぁいいわ。代わりにあんたが話聞いてくれる?あら?」
魔王はそういいながら俺に向き直り、首を傾げた。
「なぁんだ。ボルケーノを倒したのは【勇者】君じゃなくて、あんたね?」
おぉ~っと。ここにきて懐かしの四天王最弱の名が。
これはあれか?四天王殺しの復讐にでも来たのか?魔王が?
「・・・それは、そこで気絶している勇者様の仕業だぞ」
苦し紛れにそう答えた俺に、魔王は笑った。
「さすがにその嘘じゃ、私は騙されないわ。ボルケーノの魔素があんたにたっぷり流れ込んじゃってるし」
「は?魔素?」
「そ。魔素。魔物とか倒すと、スキルがレベルアップするでしょ?あれって、その生き物がもつ魔素を取り込んだ結果なわけ」
「その魔素とやらが、俺に流れ込んできていると?」
「そういうこと。まぁ、普通はそれぞれの魔素の違いなんて分かんないだろうから、ボルケーノを倒したのがあんただって、隠したいなら私は黙っとくけど?」
あいつのが流れ込んできてるって。なんかすげー嫌な感じ。
どうせならこの魔王に別の液体を流れ込ませたい。
じゃなくて!
「あんた、ボルケーノってやつの復讐に来たんじゃないのか?」
まるでボルケーノの死など気にしていないかのような魔王の言葉に、俺は不思議に思った。
っていうか今更ながら、こんなトンデモ魔王を目の前に、俺冷静すぎじゃね?
ってまぁ、もうあまりの実力差に最悪の事態は覚悟しちゃってんだろうな、本能が。
それと同時に、せっかく美女と会話できてんなら全力でお相手したいという欲望も出てきているわけで。
その本能と欲望の合わせ技で現在に至るんだろうな。
ちなみに、ミーシアなんていまだに驚きの表情から止まったままだぞ?
これも魔王の仕業か?
いや、違うな。さっきまでは魔王の登場に驚いていたみたいだけど、今は俺がナチュラルに魔王と会話しているのに驚いているみたいだ。
その証拠に、口は驚いた時のまま開ききっているが、目だけ俺と魔王を交互に観ている。
なんかごめん、ミーシア。
せっかくならその開いた口に俺のイチモとかツツッコんでいいかな。
なんて俺の思考がそれ始めていると、魔王は再び笑い出した。
よく笑う魔王だこと。
「復讐って。別にそんなことしに来たんじゃないわよ。まぁそいつらは違うんでしょうけど」
魔王はそう言って、止まったままの骸骨たちに目を向ける。
「こいつらは私にボルケーノの復讐を望んでるみたいだけど。むしろね、私は感謝してるわけ。ボルケーノを消してくれてね」
「はい?」
突然の魔王の言葉にあっけにとられている俺をおいて、魔王は続ける。
「詳しい話をここでするつもりはないんだけどね。一応、私の本当の気持ちだけは伝えたかったから、今日は来たわけ。今後あんたたちを正式に魔王領(うち)に招待するときは、そんな感謝の気持ちなんて簡単に伝えられないだろうからね」
「いや招待て。仮にも四天王を倒した勇者が行って大丈夫なのかよ」
と、さりげなくボルケーノ殺しをジョーイに押し付ける俺。
その意を汲んでか、魔王はそこにツッコむことはない。
もうボルケーノの件を敢えて忘れてくれている魔王、良き。
「いや、ボルケーノ倒すようなやつ、私以外に手出しできる奴なんて魔王領(うち)にいないし。一応あいつ、四天王最強だし?」
「は?最弱じゃなくて?」
「そ、最強。っていうかそもそも、他の四天王ってそこのやつらなんだけど、3人とも文官だからね?」
「は、文官!?四天王なのに!?」
「それ私も思ったのよ。四天王って言ったら強いやつ。しかも最初にやられるのはその中でも一番弱いやつって相場は決まってるのにね」
あ、魔王よく分かってる。
「とにかく。ボルケーノ倒してくれたあんたなら、魔王領(うち)で手出しできる奴なんていないんだから安心して」
あ、魔王。俺がボルケーノ倒したの忘れてくれたわけじゃなかった。
「とりあえず、今日は用事済んだから帰るわ。また改めて、魔王領(うち)に招待するから楽しみにしててね」
「あっ、おい!」
魔王はそういうと、俺の言葉も待たずにそのまま姿を消した。
もちろん、骸骨たちも一緒に。
その場には、
(せめてお礼としてあの胸をひと揉みしたかった・・・)
と後悔している俺と、気絶したままのボンクラ勇者、そしていまだに呆然としたままのミーシアだけが残ったのだった。
ちなみにこの日、魔王のせいで時間が少しの間止まっていたこの町。
実際には30分程度止まっていたらしく、翌日やって来た商人達からの指摘でその事実が発覚。
原因が分からぬまま町の七不思議のひとつとして後世まで語られることになる。
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