第25話:規則は規則

「そちらの方は本当に魔族なのですか?」

ポロア嬢のその言葉に、ジョーイがこれまでの経緯を話し始めた。



「な、なるほど。それでジョセフ様の従者に・・・」


話を聞いたポロア嬢は、ひとまず納得したようだ。


「それで、ミーシアをここで冒険者登録したいんだが」

俺はすかさず、ポロア嬢へと声をかけた。


「それは許可できないな、奴隷」

しかし返事をしたのはポロア嬢ではなく、その後ろに影のように立つ暗めの男だった。


お前に言ってねーよ!

俺とポロア嬢の会話に割り込んでんじゃねーぞクソが!


「また出やがったな。また規則がどーとか言うつもりか?」

「・・・そ、そうだ!規則だ!」


ん?なんだ今の間は。

まさか。


「ポロア嬢、悪いけどここの規則、見せてかれねーか?」

「おい、待てっ!」


「・・・わかりました」


「ポロアっ!このような下賤な輩に、見せる必要などない!」

「しかし、冒険者に規則の説明をするのは、ギルド職員の職務のはずです。そう、規則にも書かれているかと思いますが。違いますか?ギルドマスター?」


おぉ、ポロア嬢悪い顔してる。


っていうかこの暗い男、ギルドマスターなのかよ。


ギルマスってのはもっとこう、歴戦の強者とかがなるもんなんじゃねーのか?

こいつ、どう見ても事務職じゃねーか!


「しかしこいつは、冒険者ではないじゃないか!」

「だったら、僕には見る権利があるだろう」

ギルマスの言葉に、ジョーイが進み出た。


「ぐっ・・・」


はっは!ざまぁ、ギルマス!

ジョーイ、たまには役に立つじゃねーか。


「ジョセフ様、こちらが規則です」

ポロア嬢はすかさず、規則の書かれた薄い本をジョーイへと差し出した。


いやー、ポロア嬢、さすがに仕事が早い!

もうこれ、ポロア嬢がギルマスでいいんじゃないでしょうかね?


ジョーイはポロア嬢から規則を受け取ると、パラパラと中を見たあと、それを俺に渡してきた。


「僕には何が書いてあるかさっぱりだ。キンジ、済まないが僕の代わりに読んでくれないか?

僕が自分の奴隷に何をしようとも、悪くはないですよね?」

ジョーイはそう言いながら、ギルマスに笑いかけた。


「・・・・・・・」

ギルマスはそれに何も答えず、押し黙っていた。


おぉ。ジョーイ。

お前、やってくれんじゃねーか!

ま、それでさっきの失態が帳消しになんねーけど。


「かしこまりました、

俺は精一杯わざとらしく、恭しい態度でそれを受け取ると、中を読んでみた。



「おい。ここには『魔族が冒険者になれない』だなんて、書いていないぞ?どういうことだ?」

中をあらかた見た俺は、ギルマスを睨みつけた。


「ちっ。しかし、その魔族も勇者様の奴隷なのでしょう?であれば結局、登録など出来ませんよ」

ギルマスは悔し紛れに、ジョーイへと反論してきた。


「あんた、話聞いてたか?確かにこのクソったれ規則には、奴隷は冒険者になれないと書かれていた。だかなぁ、こいつは【奴隷】じゃない。【勇者の】だ。従者が冒険者になれないなんてことも、ここには書かれていないみたいだが?」


「そ、そんなもの、信用できると思うか?」


なんかもう、ギルマスの言うことがめちゃくちゃになってかやがったぞ。


「だったら、あの水晶で調べてみればいいだろ?」

「はい、こちらですね」

俺の言葉と同時に、いやむしろ、若干被せ気味に、ポロア嬢は職業を確認するための水晶を、ミーシアへと手渡した。


流石、仕事のできる美女ポロア嬢だ。


「では、失礼する」

ミーシアそう言うとら差し出された水晶へと手をかざしていた。


「はい、確認しました。確かに彼女の職業は、【勇者の従者】で間違いありません。こちらの方の冒険者登録に、問題はありませんよね?」

ポロア嬢はそう言いながら、ギルマスにとびっきりの笑顔を向けた。


ポロア嬢、やっぱ見た目だけじゃなく、性格も素晴らしい。


今夜、デートでもどうですか?

最悪、ワンナイトでも!


「ポロアさん、ありがとう」

ジョーイがポロア嬢に頭を下げると、


「いいえ、気にしないでください。勇者様のお役に立てるのならば、本望ですので・・・」

そう言いながらポロア嬢は、ポッと顔を赤らめた。


赤らめた、だと?

おい待て、どういうことだ。


ふとミーシアに目を向けると、ポロア嬢のジョーイに対する熱い視線に、不機嫌そうな顔を向けていた。


は?え?

あれですか?三角関係ってやつですか?


だったら俺はさしずめ、三角関係を上から眺める、三角錐の頂点ってとこか。


・・・・悲しいわ!悲しすぎるわその立ち位置!


ふざけんなよ!この一連の騒動、ジョーイは何の役にも立ってねーじゃねーかよ!!

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