第26話:初依頼受注

非常に気分の悪くなる三角関係を見せつけられた俺とその他2名は、ギルドで3つの依頼を受けてその場を後にした。


ちなみに、ミーシアは問題なく冒険者登録を済ませ、結局俺だけが冒険者じゃないままだ。


まぁ、依頼自体はジョーイとミーシアが複数受ければ良いから問題はない。


今朝、依頼を受けるに当たっての決め事も、先にしたからな。


その決め事ってのは至って単純。


自分がクリアした依頼の報酬は、全て自分のものってことだ。

もしも3人でクリアした場合は3等分。


まぁ、2人は俺に借金があるから、それもちょくちょく返してもらうけどな。


ちなみにジョーイとミーシアは簡単な採取の依頼を受けた。


あいつらじゃ、狩猟系の依頼は無理だからな。


俺はというと、今1人で森の中に来ている。


俺が受けた(正確には、ジョーイが受けたんだけどな)依頼、『ボア5頭の狩猟』のためだ。


報酬は銀貨55枚。

ボア1頭が銀貨10枚だから、少しだけプラスになる。


まぁ、依頼主からの依頼料を考えると、ギルドにも利はあるんだろうな。

ま、どうでもいいけど。


一応他にも金になりそうな依頼はあった。


『キングレッドベア討伐』とかな。

報酬は銀貨100枚に、プラスでキングレッドベアの素材買取額の8割だったか。


その額に惹かれはしたが、今日の所は辞めておいた。


とりあえず今日は、この【貯蓄】スキルに慣れることから始めたい。


ゲームなら、一旦キングレッドベアとかいうやつに挑戦して、その力の差を目の当たりにしてから装備を整えるところだが、これはゲームじゃない。


死んだら元も子もないからな。


まぁいざとなったら、俺には【貯蓄】した治癒魔法もあるが、使い切ってなお逃げられないんじゃ話にならない。


生き残るためにはまず、自分の力に慣れとかないとな。


俺は篭手を装備した手を握りしめながら、森の中を進んだ。


俺の装備、結局剣は諦めた。


ここに来る前に、ギルドの修練場で試しに打撃を【貯蓄】して、ジョーイから借りた剣を使ってみた。


剣は修練場のカカシみたいな標的を斬りつけることなく、ただ打撃をカカシにぶつけるだけだった。


打撃を【貯蓄】すれば打撃を、斬撃を【貯蓄】すれば斬撃を【返済】することが、その時に改めてわかった。


ちなみに、打撃を【貯蓄】するために俺の願いを聞いて殴ってきたジョーイは、その拳が俺の目の前で止まったことに驚いていた。


その後、自分の無力さを痛感していたが、ジョーイが無力なのは事実だから仕方ない。

ミーシアがそれを愛おしそうに慰めているのには腹が立ったけどな。


まぁそれはいいとして。

つまり俺が言いたいのは、剣を持つ意味が今はないってことだ。


斬撃を【貯蓄】して剣で斬りかかれば、その威力は上がるんだろうけど、今日の相手はボア。


思いっきり打撃しか打ってこないイノシシだ。


敢えて今、剣を買う必要はないってわけだ。


って考えてたらボアの群れ発見。


1、2・・・ちょうど5体いるな。


よし。ちゃっちゃと倒して、お金ちゃんと―――


「ガサガサッ」


「なっ!」


俺がボアの群れに向かおうとした瞬間、背後から別のボアの群れが現れた。


マジかよ!

これ大丈夫か!?


俺が慌てている隙に、後ろからから現れたボアが俺に突っ込んできた。


ちっ、【貯蓄】!


俺がボアの突進を【貯蓄】で受け止めた瞬間。


「ぐぉっ!」

俺の背中に衝撃が走った。


クソっ、最初に見つけたボアまで突っ込んできやがった!


【貯蓄】使ってたってのに、どういうことだ!?

意識してない攻撃は【貯蓄】できないのか!?


俺は背中に突っ込んできたボアに拳を叩きつけた。


【返済】っ!


そのままそいつは吹き飛んだ。


それを見たボア達は、俺の様子を探るように見つめてきた。


俺はヒールを自分に【返済】してその傷を治し、ボア達から離れた。


よし、全員視界に入れてれば、どんな攻撃も怖くは―――


「バキバキッ!!」


おいおい、またボアか?

これ以上増えるのは勘弁して・・・・・



クマ、だな。

ものすごーくでかい、クマだ。

しかも赤いな。


あー、これがもしかして、依頼にあったキングレッドベアか?


しかもなにやら、肩から剣のような物が生えてるな。


うん。ありゃジョーイの剣か。

俺がふざけて書いた『バカの剣』って書いた文字が見事に書かれてるもんな。


・・・・・あいつ何やってくれてんだよ!

どうやったらあんなでかいクマの肩に剣が刺さるんだよ!!!


ふざけんなよ!

来るんならこっちじゃなくてジョーイんとこに行けよ、キングレッドベア!!


ん?

キングレッドベアが現れてから、ボアたちの様子がおかしい。


怯えているみたいだ。


よし、このままボア達だけでも逃げてくれれば・・・


「グォーーーーーっ!!」


突然キングレッドベアが声を上げると、ボア達はその声に怯えて一目散に逃げ・・・ることなく、ただキングレッドベアに頭を垂れていた。


いやいやいや。

クマがイノシシを手懐けちまったぞ?


こりゃ、マジでやばいかもしんない。

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