第27話:肩に剣を突き刺されたクマの作り方
キンジがキングレッドベアに襲われる少し前のこと。
ジョーイはミーシアと二手に別れ、それぞれが受けた依頼をこなしていた。
『薬草10本の採取』という、最も簡単な依頼を。
「よし、これで10本は見つけたな」
そう独り言を呟いたジョーイは、
「はぁ〜。僕もキンジみたいに戦えたら、魔物を倒して、皆の役に立てるのになぁ」
ジョーイはそう言って、腰にさした剣を抜いた。
キンジによって書かれた『バカの剣』という文字は日本語で書かれており、ジョーイをはじめとしたこの世界の者たちに読めるものではなかった。
ジョーイはキンジの書いた文字を、『なんとなく、カッコいい』と思っており、意外と気に入っていたりするのだ。
「よしっ!依頼も済んだことだし、少し剣の稽古でもしてみよう!」
そう言うとジョーイは、手頃な大木を見つけて、その前で剣を構え、そのまま大木に向けて剣を突き刺した。
「え、ちょっ!抜けないっ!!」
大木に突き刺さった剣は、それほど深く刺さっていたわけでもないのだが、ジョーイはそれを、全力で引き抜こうともがいていた。
そして・・・
「スポンっ!」
見事にふざけた効果音と共に抜けた剣は、そのまま空を舞ってどこかへと飛んで行ってしまった。
剣の抜けた拍子にその場に尻餅をついたジョーイは、飛び去る剣を見送りながら、絶望の声を上げた。
「あーっ!せっかくキンジに買ってもらった剣がっ!」
いや、買ってやってねぇよ!
金は返せよっ!
キンジがいたら、確実にそう叫ぶであろう言葉を漏らしながら、ジョーイはただ剣の行方を目で追っていただけなのであった。
方やミーシアはというと。
既にジョーイの分を含め、薬草を20本採取し終え、物陰からジョーイを見守っていた。
それはもう、ストーカーの如く。
(違う、これは違うんだ。ジョセフ様は、私が守らなければいけないから)
誰にともなく言い訳をしながら。
そしてそんなミーシアを、生い茂った草むらから2つの眼が見つめていた。
その眼の持ち主は、巨大な体躯に赤々とした毛を並べたクマであった。
この森の主、キングレッドベアである。
しかしジョーイを見守っているミーシアはその事に気付くことなく、ただ無防備にその背をキングレッドベアへと向けていた。
その柔らかそうな背に、キングレッドベアが爪を立てようとした刹那、キングレッドベアの肩に痛みが走った。
キングレッドベアは、突然のその痛みに驚き、痛みのした方を見ることなくその場を走り去っていった。
「ん??」
木々をなぎ倒しながら走り去るキングレッドベアに、ミーシアは一瞬だけ目を向けるも、既にその場にその姿はなく、ミーシアは再び
そして現在。
そのキングレッドベアは、キンジと対峙していた。
突然の痛みによる驚きも和らぎ、フツフツと痛みに対する怒りが湧き上がったキングレッドベアは、目の前の人間に八つ当たりすべく、人間を取り囲んでいたボア達を従えて、鬱憤を晴らしている最中なのであった。
「だぁっ、クソっ!うぜぇんだよっ!」
俺は目の前から襲ってきたボアの突進を【貯蓄】し、そのまま【返済】でその攻撃を打ち返して叫んだ。
こいつら、
お陰で俺は、せっかく貯めた治癒魔法を使いまくって、残りはハイヒール1つになっちまった。
残りのボアは4体。
そして
「こりゃ、マジでヤバいな」
俺がそう呟いていると、2体のボアが俺を挟むように襲いかかってきた。
「ちっ」
俺は2体に手を伸ばし、その攻撃をそれぞれ【貯蓄】した。
その直後、俺の背中にボアの攻撃とは比べ物にならない衝撃が走った。
「がっ・・・・」
俺はそのまま吹き飛ばされ、近くの木に顔から突っ込んだ。
背中と顔から、血が流れている俺は、最後のハイヒールを自分に【返済】して、立ち上がった。
やべぇ。
もう治癒魔法使い切っちゃった。
クソ、このままじゃ死亡確定。
待てよ。
治癒魔法の【貯蓄】で却下したアレなら・・・
ちっ。迷ってる暇は無さそうだな。
俺はスキル【貯蓄】の残りの一枠に、設定した。
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