第11話:キンジを襲う大問題

「おぉ、アランじゃないか!連れがいるなんて珍しいな」

宿へと到着すると、主人らしきひげモジャ親父が俺達を迎え入れた。


「ご無沙汰してます、モージャさん」

「今日もたっぷり売れたか?」

ペコリと頭を下げるアランに、モージャと呼ばれた主人がそう言って笑いかけた。


「・・・・・・」

モージャの言葉にアランは黙りこくっていた。


「何があった?」

そう言って見つめ返すモージャに、アランはこれまでの経緯を簡単に説明した。



「なるほどなぁ。そりゃ災難だったな。しかし、それだとウチに泊まることもできないだろう?いくらアランでも、金が無けりゃ泊める訳には―――」

「安心しろ。俺が払う」

俺はそう言って、前に進み出た。


「おぉ、坊主が払ってくれるのか」

「いくらだ?」


「1人銅貨500枚だ」

3人で1500円くらいか?安いな。


俺は懐に手を入れて、【返済】を使った。

目の前で金を出すと、色々と面倒だからな。


ちなみにこの【返済】、【貯蓄】したものを元の持ち主に返す派生スキルではあるが、ちゃんとした流れで俺の物になった金はちゃんと俺の手元へと【返済】される。


宿に来る途中、試しにジョセフの物を勝手に拝借して【貯蓄】してみたが、【返済】でしっかりジョセフの手元へと現れていた。


ジョセフはめちゃくちゃ驚いていたけどな。


つまり、盗んだものは【返済】すると、俺の手元には出てこないってわけだ。

この判断基準がお互いの気持ちによるものなのか、この世界の法律によるものなのかは、今の所わからない。

この辺は、おいおい検証する必要がありそうだ。


まぁ、盗みで生きていくような危険な真似をするつもりはないから、そこまで急ぐ必要があるわけじゃないけどな。


あとこの【返済】、小出しでの【返済】も可能らしい。

金だけじゃなく、相手の攻撃も小出しに返せるようだ。

まぁ、わざわざちまちまとダメージ与える意味があるかはわかんねーけどな。


それよりも今の俺には、もっと差し迫った問題が起きていた。


ムラムラする。

そう。めっちゃムラムラするんだ。


この宿に来る途中、王都を歩く人々を眺めていた俺は、様々な人種を目の当たりにした。


猫耳をつけた獣人。

耳の長いエルフ。

ずんぐりむっくりとしたドワーフ。

皆、当たり前のように街を歩いていた。


別にそれが悪いとは思っちゃいない。

ただ、俺が呼んでいた異世界モノでは、ヒト以外の人種が差別されていることもよくあった。

特にエルフなんかは、ヒトを嫌っていたりすることもあったくらいだ。

しかし、この世界ではどうやら違うらしい。


いや、今はそこじゃない。


様々な人種を見ていた俺は、あっちの世界で抱いていた妄想が現実になったことに、テンションが上がっていた。


モフモフ尻尾で可愛いのに巨乳な獣人、美しく細身のエルフ、背は低いのに出るとこは出ているドワーフ。


そんな女達を見ていた俺は、転生前に会った女に抱いた劣情が再燃していた。


それぞれの部屋へと案内され1人なった俺は、部屋の鏡で自分の顔を見ていた。


黒髪に黒い瞳。顔立ちも死ぬ前の姿よりは良い。

思っていたよりも幼く見えるが、まぁ問題はないだろう。

これなら、ナンパで女を引っ掛けることもできるか?

いや、無理だな。俺にはそこまでの度胸はない。


ならば選択肢は1つ。娼館だ。

異世界モノでよく出てくるし、王都ってくらいだからそんなものもあるだろう。


そう考えた俺は部屋を出て、モージャを探した。

こういうのは、地元のヤツに聞くに限る。


「親父さん。ちょっと聞きたいことがあるだけど」

「坊主か。どうしたんだ?」

俺はできる限り愛想よく、モージャに声をかけた。


俺のことをかんちがいしてる奴がいるかも知れないからこれだけは言っておく。

俺は別に、コミュ障で無礼なヤツなんかではない。


興味の無いヤツ、自分の為にならないと判断したヤツに、愛想を振りまかないだけだ。


しかしモージャは違う。

大事な情報元には、精一杯愛想を振りまく。

こういう相手とは、仲良くなるに限るからな。


「女を抱ける店、教えてくれないか?」

俺の言葉に、モージャはニヤリと笑った。


「なんだ坊主。お前、もうそんなことに興味があるのか?」

「俺は18だ」


「おぉ、もうそんな年だったか。それは失礼したな。で、お前さん―――」

「キンジだ」


「キンジ、か。それでキンジ。お前、金はあるのか?」

「多少はな。っていうか、相場はどれくらいなんだ?」


「そうだなぁ。まぁ、最低でも銀貨50枚だな」


ちっ、思っていたよりも高いな。今の手持ちではどうしょうもない。

俺がモージャの言葉に黙りこくっていると。


「はっはっは。どうやら足りないようだな。金が貯まったらまた来な」

モージャが俺の肩に手を置いてその場を離れていくと、


「キンジ、出かけるのかい!?僕もうお腹ペコペコだよっ!」

ジョセフが笑顔で近寄ってきた。

その後ろには、ちゃっかりとアランも控えていた。


こいつら、晩飯までたかるつもりか。


まぁ、女抱く金もないんだ。

今日のところは諦めてこいつらと飯を食うことにするか。


もちろん、あとできっちり返してもらうけどな。


俺は、2人を連れて外へと繰り出した。

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