第55話:検問通ったあとの魔王のあれこれ
「お前っ!奴隷なのか!?」
そう俺に声をかけてきた門番は、すぐにもう1人の門番から止められた。
「おい、ただの奴隷じゃないぞ」
「こ、これは・・・」
何やら俺を置いて2人でごにょごにょ話している門番たち。
その視線は、俺と、後ろに控えるジョーイやミーシアを捉えていた。
「すまないが、キミの主は勇者様なのか?」
「あ?あぁ、まぁ一応、そうなるか。ほら、こいつが勇者様だよ」
俺はそう返しながら、ジョーイを門番へと差し出した。
「失礼ですが、職業を確認させていただきます」
門番はそう言うなり、例の水晶でジョーイの職業を確認した。
「失礼いたしました、勇者様」
ジョーイが勇者だと確認した門番たちは、そう言って頭を下げた。
おぉ。勇者って肩書は、やっぱスゲーな。
肩書だけは、な。
ダメ勇者に頭下げてるなんて、この門番たちは知らないんだろうな、可哀想に。
なんて俺が門番に同情していると、
「おい、こっちは魔族だぞ。しかも―――」
門番たちはミーシアを確認すると再びごにょごにょと話し始めていた。
なんだよあの護衛。魔族でも問題ないって言ってたのに、なんか言われてんぞ。
「勇者様。もしかして、ゼニモーケ王国からお越しになりましたか?」
「へ?はい!」
門番の問いにジョーイが応えると、門番たちは何かを確認し合うように頷き合っている。
そして、俺の目の前にいた門番が、俺の肩を掴む。
え?なに?『出ていけ!』とか言われんの?
面倒くせぇ。
なんて思っていた俺だったが。
「お前、大変だったなぁ」
なんて言いながら、目の前の門番は涙すら浮かべている。
「あなたも、大変だったな」
別の門番も、ミーシアにそんな事を言っている。
「他国の中でも、ゼニモーケ王国では奴隷の扱いが特に酷いと聞く。それに、魔族に対してもかなり偏見があると。
しかぁ〜し!我らがゲバニーゼ帝国ではそんなことはない!
職業による差別などもちろん無い!
それに、魔王殿と新たに友好条約を結ぶ事になり魔族に対しても偏見など皆無っ!
勇者様も、おふたりも、この国を存分にお楽しみください!!」
なにやら暑く語る目の前の門番。
「すみません。隊長が暑苦しくなっていますが、言っている事は事実です。
この国ではおふたりに酷いことをするような者はおりませんのでご安心ください。
それから、仲間から勇者様を城へご案内するようにと伺っています」
そう言いながら、1人の男が俺の目の前にいた奴を押しのけて前へと進み出る。
っていうか、目の前にいたあいつ、隊長だったのかよ。
「私はモンバーナと申します。勇者御一行様、どうぞこちらへ」
門番モンバーナ。なんだろう。すんげー安易なネーミング。
ともかく俺達は、モンバーナについていくことになった。
「っていうかあいつ、『魔王と友好条約結ぶ』とか言ってたよな」
モンバーナの後ろを歩きながら、俺はジョーイとミーシアに小声で話しかける。
「確かに言ってた。これって、王様の言ってたことが事実だったってことだよね?」
ジョーイが頷いて返してくる。
「だが門番達の感じだと、魔族自体それほど悪者って感じもしねぇ気がしてきたな。
ミーシア、そのへんのとこ、どうなんだ?」
そんな俺からの問いに、ミーシアが語り始める。
「今の魔王は、先代と違い穏健派だ。実際に魔王就任当初から人間との和平を叫んでいた」
「つっても、あのアルケーノってやつは思いっきり人間襲ってたけどな」
「アルケーノは元々、先代魔王に傾倒していたこともあり、極端な魔族至上主義だ。今ではほとんどの魔族がそういった考え方はしていない」
「でも、いくら魔王が変わったからって、魔族自体の考え方がそんな簡単に変わるとは思えないよ?」
「そこが魔王という存在の恐ろしいところなのです、ジョセフ様」
ジョーイの問いに答えるミーシア。
おい、何故ジョーイの時だけ顔を赤らめる。
クソ、分かってても腹立つな。
「で、何が恐ろしいんだよ」
「我々魔族は、本能的に魔王の意向に沿うように行動するんだ。もちろん、アルケーノのように思想や強い想いでそれを拒むものも多少はいるようだが」
「それって、存在自体がほとんど洗脳じゃねーか」
「キンジの言いたいことは分かる。だが我々魔族はそれが当然のことであり、受け入れている」
「ちなみに、今の魔王が先代から魔王を引き継いだのはいつなんだ?」
「今の魔王が魔王となったのは、5年ほど前だ。だが、キンジの言うように『引き継いだ』というのには語弊がある」
「は?何が違うってんだ?魔王ってのは、世襲とかじゃねーのか?」
「違う。魔王は、職業だ。【魔王】という職業の者が新たに現れたとき、魔王は代替わりする」
守銭奴転生者は【貯蓄】スキルで無双でもスローライフでもできるはずなのに、巻き込まれ勇者に巻き込まれる メバ @tera4416
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