第33話:クズに迫る
「キ、キンジ、何を言っているんだ・・・」
突然の俺の叫び声に、ジョーイは小さくそう漏らしていた。
かたや俺はと言うと。
ミーシアに触れられて突然湧き上がった激しい憎悪の感情に、彼女を突き飛ばしていた。
その時にミーシアの胸を押したことでその柔らかい感触が手から全身に伝わり、瞬時にして先程までの得体のしれない憎悪が消えていた。
「わ、悪い、ミーシア。大丈夫か?」
「・・・・・」
差し出した手を見つめていたミーシアは、それを掴むことなく無言で立ち上がり、
「い、いや。私の方こそすまなかった」
そう言って小さく笑っていた。
しかしその笑顔は、どう見ても無理矢理に作ったものだった。
そりゃ無理もない。
これまで『魔族とか関係ない』と言っていた俺が、突然あんなことを言ったんだからな。
あれはなんだったんだ?
ミーシアに触れられて、嫌になる方がどうかしているはずなのに。
むしろ、どんどん触れてほしい。
体中の至るところを。
・・・・・
うん。いつもの俺だ。
じゃぁ一体さっきの感情は・・・・
「おい。やっぱり噂は本当だったのかよ」
「勇者のパーティに魔族って・・・」
ちっ。冒険者共がまた騒ぎ始めやがった。
ミーシアが魔族だと言うことは、ポロア嬢を始めギルドにはジョーイが伝えている。
しかしギルド側は勇者のパーティに魔族がいることが外聞的に良くないと判断したのか、箝口令を敷いていたみたいだった。
とはいえ、人の口に戸は立てられぬと言うように、どこからか噂として漏れたんだろうな。
一部の冒険者共はミーシアが魔族だと疑っていたみたいだ。
「くっ・・・」
冒険者共が自分を不快感の籠もった目で見ているのに気が付いたミーシアは、そのまま走り去っていった。
「ミ、ミーシアっ!」
ジョーイはそんなミーシアを追って走り出していた。
うわぁ。
面倒くせぇ。
そんなことでいちいち気にしてんじゃねぇよミーシア。
こんな有象無象の言うことなんか放っておけばいいものを。
俺はミーシアとジョーイの背中を見つめながらため息をついた。
「勇者様はお取り込み中だってよ。
あんたらは、村を襲った犯人探すんだろ?ま、頑張ってくれや」
なんか面倒くさくなった俺は、残った冒険者共にそう言ってその場を去ろうとした。
「お、俺たちだけで大丈夫か?」
「勇者様が戻るまで、待ったほうが良いのではないか」
残された冒険者共は、口々にそう言い合っていた。
さっきまでの威勢はなんだったんだよ。結局は、
その時、1人の真面目そうな冒険者が俺の元へ駆け寄ってきた。
「君。すまないが、勇者様を連れ戻してくれないか?
我々だけでは、この村を襲った犯人に勝てるかわからない」
「は?なんで俺が?」
「な、なんでって。君は勇者様のパーティだろう?
それに元はと言えば、君があんなことを言ったから―――」
「寝ぼけてんじゃねぇぞ。お前らだって、ミーシアが魔族だと知って色々言っていたじゃねぇか」
「た、確かに言っていたいた者もいるが―――」
「自分は何も言ってないってか?知ってるか?イジメってのはな、イジメた奴だけじゃなく、それを傍観してる奴らだって悪いんだぞ?
俺がその冒険者に冷たく言い放って背を向けると、冒険者は俺の肩を掴んだ。
「お前。勇者のパーティだからって偉そうに。たかだか奴隷風情がっ!」
「真面目そうに見えても、お前もあいつらと同じだな」
「がっ・・・・」
俺は冒険者に【物理攻撃】を【返済】してその場に沈め、今度こそその場を後にした。
誰一人俺を追おうともしない冒険者共に呆れながら。
ちなみに俺が向かうのは、ミーシアが走り去った方角とは別だ。
何が悲しくてミーシアを追わなきゃいけねぇんだよ。
そういうのは
面倒くさい。
「なるべく危険な気配のしない方に・・・」
冒険者共と別れた俺は、村を襲った犯人がいなさそうな方向に歩いていた。
まぁ、なんとなくなんだけどな。
とりあえず、ジョーイ達と反対方向に進めば、きっと危険はない。
なんたってジョーイだからな。
きっと、俺の勘は間違ってはいないはずだ。
こうして俺は、村から離れた崖へと辿り着いた。
崖か。
なんだろうな。また崖だな。
スゲー嫌な予感するんだけど。
「うわぁーーーっ!キンジ、助けてぇーーーっ!!」
ほらな。
俺は、俺の方へと走ってくるジョーイとミーシア、そしてそれを追って走っているドラゴンのような魔物を見て、ため息をついた。
っていうか、あの魔物、誰か背中に乗せてないか?
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