守銭奴、勇者に巻き込まれる

第30話:ジョーイの誕生日

俺がある意味で大人になって1週間が経った。


俺達は相変わらず、セコセコと依頼をこなしていた。


どうやらジョーイは、依頼をこなすことで経験値が入るらしい。

魔物を倒すだけじゃなく、人助けをしても経験値になるってあのが言っていたからな。


しかも俺とのこなした依頼は、元はジョーイの受けた依頼だ。

奴隷という職業のせいで、俺は冒険者登録を拒否られてるからな。



ちなみにジョーイは、現在レベル6に成長していた。


俺のスキル【貯蓄】のように、スキルのレベルが上がったんじゃないぞ。

ジョーイ自身のレベルが上がってんだ。

これも、勇者だけの特権なんだとさ。


相変わらず、役に立つスキルは一切覚えてないんだけどな。


そしてもう1つ、分かったことがある。

ジョーイのレベルが上がると、それに比例するように俺とミーシアの身体能力が向上した。


これはどうやら、職業【勇者の従者】の影響のようだ。

俺の正式な職業は【勇者の奴隷】のままだが、ステータス上ではカッコ書きで【勇者の従者】が記されていて、それが一応は生きているらしい。


若干俺とミーシアで能力に差があるみたいだが、それがこのステータスの表記のせいなのか、ミーシアが魔族だからなのかは、今のところ分かってはいない。


まぁ、ミーシアはスキルも持ってないから、ステータスが上がってもそれほど戦力にはならないんだけどな。


ちなみに、ジョーイは俺達よりもステータスが上がっているみたいだ。


さすがは勇者ってとこか。


まぁ、それでもミーシア以上に役に立たないんだけどな。


これまで散々色々とやらかしてくれたジョーイだったが、この1週間は何事もなく過ごすことが出来た。


あいつも少しは成長したってことか?


ま、どうでもいいけど。

そんなことよりも依頼だ、依頼。


今日もたっぷりお金ちゃんを稼ぐぞ。


いつものようにそう呟きながら宿を出ようとする俺の腕を、ジョーイが突然掴んできた。


「なんだよジョーイ。トイレならさっさと済ませてこいよ」

「ち、違うんだキンジ・・・」

腹痛を我慢しているような難しい表情を浮かべたジョーイは、何か言いたげに俺を見つめていた。


いや、男に見つめられてもな。


「じゃぁなんだよ?言いたいことあるならさっさと言えよ。

こうしている間にも、儲かる依頼が誰かに先を越されているかもしれないんだぞ」

「キンジ、そこまで言うことはないじゃないか。ジョセフ様、いかがなされたのです?」

俺を諌めるように見るミーシアが、ジョーイへと優しげに声をかけていた。


いいなぁ。俺も美人から優しく声をかけられたい。

なんだったら、逆ナンとかされたい。


「キンジ、今日は、その・・・依頼を受けるの、辞めないかい?」

「はぁ?」


こいつ、何言いやがった?

依頼を受けない?そんな選択肢がお前にあるとでも思っているのか?


「ジョーイ。お前、自分の立場分かってんのか?

お前はまだ、俺への借金を返しきれていないんだぞ?」

「え?いや、しかし・・・僕のこれまで稼いだお金は、全てキンジへの借金返済にあてたはずで・・・」


「いや、お前とミーシアは大して稼げない依頼しか受けてないからな?

しかも、お前ら2人、俺に返した借金以上に毎日バカスカ飲み食いしてんじゃねぇか。

それ、誰が立て替えてると思ってるんだ?

そうだよ。俺だよ!俺のお金ちゃんで払ってやってんだよ!


お前らの宿代もなぁ!2人が受けた依頼の報酬以上のお金ちゃんが、毎日の飲み食い代と宿代で吹き飛んでんだよっ!

お陰でお前ら2人の俺へと借金は、日々増加の一途を辿ってんだよ!!」


俺の言葉に、ジョーイとミーシアは驚きの表情を浮かべていた。


「え、だってあれは、キンジの奢りでは・・・」

「んなわけあるかぁっ!」

ミーシアに怒鳴るのも、最近では当たり前になってきたな。


「自分の分は自分で払う。これが俺達のルールだ!」

「そ、それは納得している。でもキンジ、そこまで借金を厳しくしないでも―――」


「親しき仲にも礼儀ありだ!!」


「「親しき・・・」」


ジョーイとミーシアが、その言葉に沈黙した。


日本の言葉だから、こっちでは馴染みがなかったか?


「ジョセフ様!やはりキンジは、ジョセフ様を慕っているのですね!借金の取り立ては、キンジなりの照れ隠しなのでは!?」

「キンジ・・・まさか僕の事を親友だと思ってくれていたなんて・・・」


このポンコツがぁっ!!

どうしてそうなるんだよ!?

そこじゃねぇだろ!


「わ、わかったらさっさとギルドに向かうぞ!」

最近少しずつこいつらといることが当たり前になってきたと思っていた俺は、2人の言葉に心の中でツッコミながらも若干の気恥ずかしさを覚えてなんとかその言葉を絞り出した。


「ジョセフ様、仕方ありません。我らの親しき友人、キンジのためにも、やはり依頼を受けに行きましょう」

ミーシアがそう言ってジョセフに目を向けるも、ジョセフは再び顔色を暗くしていた。


「きょ、今日は僕の、誕生日なんだ・・・だから、外へ出るのはきけん―――」

「おぉ!なんと!今日はジョセフ様のお誕生日でしたか!それはおめでたい!!それでは私が、今日は腕によりをかけて料理をいたしましょう!

キンジ、済まないが依頼は君だけでお願いできないだろうか?

私は、ジョセフ様をお祝いする準備をしたい」

ジョーイの誕生日であることを知ったミーシアは、嬉々とした顔でジョーイへと祝いの言葉を向けていた。


おそらく何故かほとんど友達の居なかったであろうジョーイも、そんなミーシアを嬉しそうに見つめ返していた。


なんなら、目に涙すら浮かべていたくらいだ。


おいおいおいおい。

美女に誕生日を祝ってもらうだぁ?

そりゃどこのリア充だよ?


「認めるかぁっ!!

何が誕生日だ!!そんなもん、俺には関係ない!金も稼げない奴らが、偉そうに誕生日とか言ってんじゃねぇよ!」


「いや、キンジ。そうではなくて―――」

「しかしキンジ―――」


「問答無用じゃぁっ!!!」


2人の良い感じの雰囲気に苛ついた俺は、まだ何か言いたげなジョーイと、ジョーイを祝いたいミーシアを引っ張り、ギルドへと向かうのだった。

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