第26話 生き証人
「マンネリっていうことは、もう長く花束を贈られてきたんですね」
雅の言葉に、明日香の心臓がコトリと鳴った。
確かに。随分長く贈り合ってきたわ……もう十年にもなるんだから。
改めて、十年という月日が尊く感じられた。
「はい。もう十年になります」
「そんなに長く。素敵な事ですね」
「そう……ですよね。有難いことだったんだわ」
「互いに大切に思っていなければ、そんなに長くは続かないですよね。卒業、就職、結婚、出産。ライフステージが変わってそれぞれの生活が忙しくなっても誕生日を忘れないって凄いことだと思います」
ライラックを持って近づいてきた優が、心からの尊敬を込めてそう言った。
その言葉に、明日香の迷いが吹っ飛んだ。
そうだわ。私と彼女は簡単に離れたりしない。
どんなに時間が空いたとしても、どんなに距離が離れたとしても、いつかまた一緒に語り合える。そして、会えば一瞬であの頃に戻れてしまうんだから。
「そう言っていただけて嬉しいです。そうですね。
翌日、久しぶりに
「遅くなってごめんね」
「ううん。私も今帰ってきたところだから、丁度良かったよ」
子どもたちを寝かしつけて、旦那の食事の支度を並べた後、ようやく電話をすることができた真由佳。
残業でくたくたになって帰り着き、コンビニ弁当にインスタントみそ汁を食べ終わったばかりの明日香。
互いの境遇は全然違うけれど、肉声を聞けば一気に共に過ごした頃に戻ることができた。
「スッゴく素敵なお花をありがとう。ライラックの香りがぱあっと広がって、テンション爆あがりよ」
「そう言ってもらえて良かった。誕生日おめでとう」
子どもの世話で大変な真由佳には、手入れの必要のないアレンジメントの形で贈った。そのまま飾ることができて便利だから。
「うん。ありがとう。アレンジメントも最高に綺麗だったんだけれど、花言葉がスッゴク身に沁みちゃって。明日香の気持ちが嬉しかったんだ。久しぶりに自分が自分になれた気分だった」
「どういう事?」
意外な言葉に、明日香が問いかける。
「結婚して子供が生まれてから、結局仕事も辞めちゃって、家で育児と家事に追われていたでしょ。子育ては知らない世界で凄く大変だけれど、子どもとの時間は貴重で楽しい事もいっぱいあって、良かったなって思っているんだよ。でもね、いつの間にか名前で呼ばれること、無くなっちゃって。だれだれ君のお母さんとか、旦那ともパパ、ママって呼び合っているし。久しぶりに真由佳って呼んでもらえて嬉しかったの。自分が自分でいられる時間って、実はとても貴重なんだなって気づいたわ。ありがとう」
そっか……
真由佳は真由佳。
それを思い出させてあげられるのは、親友の私だからできること。
「真由佳。今日は少し時間あるんでしょ。だったらいっぱい話そう」
「うん」
花言葉
ライラック(白)……友情、思い出、青春の喜び
薔薇(黄色5本)……友情、出会えて良かった
ツルニチニチソウ……生涯の友情
ガーベラ(ピンク)……感謝
ラナンキュラス(ピンク)……飾らない美しさ
カスミソウ……幸福、感謝
明日香から真由佳へ。
伝えたかったのは、感謝と変わらぬ友情。
そして、今も変わらず真由佳を素敵な女性と思っていること。
真由佳の幸せを祈る気持ち。
親友だからこそ、道は一緒で無くていい。
一緒じゃ無いから、助け合えない時もあるし、わかり合え無い時もある。
それでいいのだ。
それぞれが藻掻きながら、己の進む道を歩いていく。
そのところどころで、時々こんな風に話すだけで十分。
互いの生き様を、飾り立てることなく伝え合える友がいる。
それがどれほど幸せなことなのか―――
互いが互いの生き証人。
それ以上でも、それ以下でも無いのが、『親友』なのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます