Episode 6 絆を深めるライラック
第22話 友情は永遠ではない
日差しの強さに早くも夏の到来を感じる。
花屋にとっては、花持ちが短くなる難しい季節の始まり。
外に出す苗鉢は必ず日陰に入れておかないと、一時間足らずでアウトになってしまう。
日の向きと追いかけっこしながらになるのだ。
朝から忙しなく動き続けていた優と雅は少々ばて気味で、クーラーが効いた店内で水分補給しているところだった。
その時、一人の女性客がするりと入ってきた。歳の頃三十前後くらいか。
ラフなTシャツにデニムと言う格好なので、今日は仕事休みなのかもしれない。
「「いらっしゃいませ」」
頭を軽く下げた女性は、店内に飾られた花ケースを覗き込んだ。
「花束ですか?」
優の声掛けに、「はい」と答えた女性。飾られているアレンジメントやプリザーブドフラワー、アクセサリーにも目を配り始めた。一通り商品をぐるりと見まわした後、急に熱が冷めたような表情になる。
「ごめんなさい。やっぱりまた今度にします」
そう言って下を向いて出て行ってしまった。
「どうしたんだろうな?」
優の言葉に、「そうだな」と雅も相槌を打つ。
気になりつつも、入れ違いのようにしてやってきたお馴染みの女子高生集団に囲まれてしまったので、それ以上考えることは無かった。
「今日から部活が無いんだ。試験前だから」
「こんな所へ来ていていいのか? 試験勉強するために部活が休みなんだろう?」
雅のツッコミにみんながわーっと盛り上がる。
「大丈夫、大丈夫。普段からちゃんとやっているから」
「お! 偉いじゃん」
「なーんてね」
そう言ってみんな大笑い。
「一度言ってみたかったセリフ。うちらがやってるわけないじゃん」
「あきらめた」
「そうそう、あきらめてるから、もういいの」
「テストって、まじダル」
「テストなんか要らないよ」
「それな」
そう言って文句を言う姿は、かつての優と雅の姿でもあった。
思わず二人で顔を見合わせて苦笑いする。
「ねえ、この花は何ていう名前?」
この『フルール・デュ・クール』をイケメン店員の店として宣伝し、火付け役となった
「それはアストロメリア。華やかで花持ちもいい切り花として最高の花だよ」
「花言葉は?」
「色によって違うけれど、全体としては『持続』とか『エキゾチック』と言う意味があるよ。あ、オレンジのアストロメリアは『友情』って意味があるね」
「へえ。『友情』」
その言葉に、また女の子達が口々に言い合う。
「うちらにぴったりの花じゃん」
「「「ね」」」
無邪気に言い合う彼女たちを見て、優はふと雅との出会いを思い出していた。
あれからもう十二年もたつのかと、柄にもなく感慨を覚える。
こんなに長く付き合うことになるなんて、あの頃は思ってもみなかったなと、目の前の雅を見ながら可笑しくなった。
「あ、貴公子の微笑」
一人がそう言うと、他の女の子達も振り向く。
「あ、もう笑ってない。残念」
「うちも見たかった」
話題になっている優とは関係なしに、とりとめの無い呟きを投げ合って、きゃあきゃあと楽しそうに笑っている彼女たちを見て、その無邪気な笑顔がずっと続けばいいなと思う優だった。
学生の時はいちいち連絡を取り合わなくても自然と会える。一緒に過ごしていれば、ポロリと不満や悩みを語り合う事もあるし、時にぶつけ合って発散させることだって出来る。
でも、卒業して学校が変わり、就職が決まり、だんだんと互いに忙しくなってくると、いつの間にか連絡を取り合うことすら減ってしまう。
変わらずに付き合い続ける事って、実はとても難しいんだよな、とちょっと切ない気持ちになった。
だからこそ、彼女たちのこの瞬間が眩しく見える。
結局かしまし四人娘は、お揃いのドライフラワーが封入されたネックレスを買って帰って行った。
「懐かしいこと思い出した」
ニヤリと笑う優に、雅が警戒心たっぷりの視線を投げる。
「なんか背筋がぶわっとしたぞ。背筋が」
「まあ、黒歴史とも言うか」
「うわ。それ以上言うのはやめとけ」
「だな」
「だろ」
それっきり二人の間に会話は無かったが、それぞれの脳裏に同じ映像が浮かび上がっていることは疑いようのない事実だった。
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