第32話 カヒロ

 昨日は離れで一日ゆっくり休んだ。


 迷路の地図をもらった時、スナに「23階層を攻略したら、迷路情報を冒険者ギルドに売るといい。次の冒険者のためにもなる」と言われていた。

 情報を売るには、攻略した証拠に24階層の素材が必要だ。今日はまずそれを取りに行こう。



 24階層に転移すると、潮の匂いがした。目の前は干潟、その先は海だ。


 近くにダンジョン石蟹がいた。魔法で火炙りにすると靄になり、魔石とハサミが残った。


(海の幸…!)

 一昨日しぼんだやる気が復活した。


 今日は冒険者ギルドの後に領都ニカに行きたいので、後日潮干狩りに来よう。楽しみだ。



 ◇◇◇


 冒険者ギルド出張所の受付で、ダンジョン23階層の迷路情報を売りたいと告げると、小部屋に案内された。


「ゴールに到達したのは12月21日です。こちらは地図と24階層のダンジョン石蟹のドロップです」

 スナ達が売ったルートと変わっていなかったので、ギルド職員からの聴き取りはすぐに終わった。


 小部屋を出ると、男性の冒険者が話しかけてきた。

「あんた、23階層に行ったって? 魔術師か? ランクは?」

(げっ、こいつ屋台を出した時に絡んできた男じゃん)

「急いでるので」

 足早に冒険者ギルドを出て、ダンジョンの岩陰から離れに転移した。


 ◇◇◇


 離れでフジからハナに外見を変えて、商業ギルドニカ支部に向かう。


 私が商業ギルドに入ろうとすると、長身の男性がドアを開けて出てきた。

 私に気付いて、ドアを開けていてくれる。

 横を通る時に軽く会釈すると、にこ、と笑顔を返してくれた。

(イケメン!)


 男性が通りに出る姿を目で追う。ミディアムでウェーブの金髪。黒い毛皮の外套。手足が長くて、モデルみたいだ。通りを歩く女性達の視線を集めている。

(あれは見ちゃうわ)

 冒険者ギルドのクソ男の後だから余計尊い。



 商業ギルド直営店委託販売コーナーで、猪鹿蝶の商品を補充する。予想以上に売れていた。


 職員の女性が、売れ筋商品を教えてくれる。

「とあるお客様が、猪鹿蝶さんの商品をよくお買い上げで。その方と同じ物が欲しいとおっしゃる方が多くて」


 この商業ギルド直営店担当の女性はカヒロさんという。黒髪灰目のクールビューティー。

 親切で、日本の友人に雰囲気が似ている。

 年齢も近そうだし、お友達になりたいのだが、今のところ仕事上の付き合い止まりだ。


 ◇◇◇


『マジョルカ薬局 ニカ店』

 薬師マジョルカの息子の店に来てみた。

 店の外壁は、シホロ店と同じショッキングピンクの花模様。

 残念ながら、休店日の札が掛かっている。


 ドアの横には冒険者ギルド提携薬局のプレート。

(冒険者割引があったんだった)

 私は割引やセールという単語に抗えない。フジになってまた来よう。

 

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